* 迷 路 * 4
私は、谷村香里といい、先輩たちからはプライベートでは“香里ちゃん”と呼ばれていた。
「なんだか、マズイですよね……」
私も、何か、目に見えない力のようなものを感じていたため、そのように答えていた。
あれ程、晴れていたのにもかかわらず、気が付けば、いつの間にか辺りは濃い霧に包まれていた。
少し前も見えないくらい。
「先輩、危ないですから止めてください!」
私の静止も聞かずに、まだ駐車場へ車を移動させている鈴木先輩がいた。
「どうしよう……」
かなり焦りながらそう思っていると、「ちょっと!止めなさい!」と森田先輩の怒鳴るような大声が聞こえた。
その声に、ようやく我に返ったのか、鈴木先輩は少し強いブレーキをかけてそこで車を止めた。
車が止まった瞬間、今まで、辺りを包んでいた濃い霧がスッとはれ、前方がくっきりと見えた。
一瞬、言葉を失った。
誰もが黙って……それよりも……身動きひとつ出来ないでいた。
目の前にくっきりと映し出されたそこは、大きな湖。
湖面は灰色がかって、静かに揺れている
あまりに目の前だったので、私は、意を決して、後部座席の窓を全開にして外へ身を乗り出し、前方の湖の方を見た。
「うそ!」
思わず叫んだ私。
もう、車の前輪が湖の中へ突っ込んでいる。
あと少し走っていたら……背筋が凍った。
「戻って!」
すかさず、森田先輩の声。
「早く!」
続いて私。
「う、うん」
聞こえるか聞こえないくらいの声でそう言った鈴木先輩は、そのままバックギアを入れた。
ゆっくり走り出した車は、狭い上り坂になっている道をバックのまま、もと来た道路へ戻るべく動いていた。
確か、鈴木先輩が車を移動させていた『駐車場』の案内板に添う道幅も広く、きれいに舗装もされていた。
坂道でもなかった。
それが、その時は、Uターンも出来ないほど道は狭く、砂利道。
しかも、けっこうな長い上り坂。
私は、元々いた、“あの”道路へ出てくれることだけを、ただただ祈っていただけであった。
幸運といってよいかどうか……今まで2時間の間、何回も見てきた「○○温泉へようこそ」の看板がある道路へ出ることが出来た。
「とにかく、ここから離れよう」
森田先輩がそう言うと、車一台がやっとのくらいの狭い坂道を神経をつかいながらバックで昇ってき来たにもかかわらず、一服という様子もなく、そのまま、ギアを入れ直した鈴木先輩。
そのアスファルトの道路を無言のまま急発進させ、車を走らせた。
何処へ行く当てもなく……。




