* 迷 路 * 3
そのまま走っていれば、あの昔ながらの商店街があっていいはず。
ところが、窓の外には、また、あの「○○温泉へようこそ」の看板が。
しかも、その横には、赤い屋根のレストラン。
「ちょ、ちょっと……何、これ」
今度は車を止めることなく、鈴木先輩は小さな声で言っていた。
助手席の森田先輩を見ると、顔がこわばっているというか、青ざめているようにも見えた。
それから、何処へ行くつもりなのか、鈴木先輩は車だけは走らせているものの、前の席にいるふたりの先輩は無言が続いていた。
「私がどうにかしないと!」
理由は判らなかったけれど、ふいにそのような考えが浮かび、ふたりの先輩へ声をかけた。
「あの……さっき、次の交差点を右に曲がって、こういうことになっちゃったから、今度は左に行ってみたら……どうでしょう……ね」
「あ、そっか。その手があった!」
少し元気な声を取り戻してくれた鈴木先輩は、唯一あった交差点の手前で左へのウィンカーを出した。
“唯一あった交差点”
そう……交差点がひとつだけしかないというような単調な道だった。
普段、都会の複雑な道路を運転し慣れている鈴木先輩が、そのような道に迷うはずもなく……。
たぶん、わたしでさえ迷わない。
地図で見る限り、そんな道筋であった。
「もう、やだ!」
突然、大きな声を出したと同時に、車を急停車させた鈴木先輩。
窓の外を見ると、また「○○温泉へようこそ」の看板と、あの赤い屋根のレストランが。
時計を見ると、もう午前10時を回っていた。
計算からすると、2時間以上も彷徨っていたことになる。
しかも、狭い土地の中で……。
「ちょっと、あのレストランの人に聞いてくる!」
鈴木先輩は、例の赤い屋根をしたレストラン横にある『駐車場』と書かれた案内板に添ってそこへ車を動かし始めた。
「行くなら、ここへ止めていけばいいじゃない」
そう言った森田先輩の言葉も聞かずに、鈴木先輩は黙ったまま、その駐車場へと車を移動させていた。
「香里ちゃん……」
森田先輩が私の方を見た。