* 旅館 其の二 * 4
私たちが、どうにか森田先輩のところまで辿り着くと、森田先輩は、自分のバスタオルを広げ、鈴木先輩を包むようにかけた。
そして、鈴木先輩を抱きかかえるようにして、温泉場から離れた。
「ごめんね……私が行けなくて……」
そこから離れた場所へ移動している時、私を見ながら、申し訳なさそうに小さな声で、そう言った森田先輩がいた。
「いえ……」
それだけを答えることが精一杯だった私は、ただ先輩たち遅れないようにと、まだ震える足で、どうにか着いて行った。
ここでも、どう歩いて行ったのか、自分が何処を歩いていたのかも覚えていない。
「香里ちゃん」
私の名前を呼んだ森田先輩の声で、ようやく我に返った次第。
「誰もいないから、ここで着替えさせちゃおう」
まだ、放心状態という表現が近い鈴木先輩を、抱きかかえるようにしながら森田先輩が言った。
その場所も遠くにフロントが見える廊下だった。
違う処は、あの温泉場へ曲がる廊下の角……あの死臭にも似た臭いのする堺目となっていた廊下の角は見えない場所だった。
窓からは、相変わらずの夕陽が差し込んでいた。
「あ……浴衣とか……」
もう、声を出すのもやっと。
「フロントで借りてきて」と、森田先輩は指示を出してくれた。
もう、あの浴場には行くことが出来ない私と判断してくれたよう。
「わ、わかりました」
フロントへ浴衣を借りに行った私に対して、フロントの人は特に理由も聞かずに、新しい浴衣を出して来てくれた。
フロントにいた人は、チェックインの時に対応してくれた男性。
理由を聞かれなかったことは、よかったのか悪かったのか……。
聞かれても、たぶん、普通には答えることが出来ないであろう私もいた。
やっぱりよかった……。
しかし、それは、後に起こることをまだ知る由もない私の判断だった。
浴衣を受け取ると、2人の先輩の元へ向かった。
鈴木先輩は、私が彼女の腕を掴んで連れてきた時のまま、裸で棒立ち。
誰もいないといっても、公共の場所なのに……。
そのような状態の鈴木先輩へ、森田先輩が「ひとりで行かせちゃってごめんね」と言いながら、私がフロントからもらってきた新しい浴衣を着せていた。
表向き、普通に見えるような姿にし、近くにあった椅子へ座らせた。
そして、ブツブツと何かを唱えながら目を閉じていた森田先輩が、ベンチに座っている鈴木先輩の背中を「バシッ」と強く叩いた。
私でもびっくりするくらいの音。
その音と同時に、鈴木先輩は自分を取り戻したかのように私たちの方を見て、更には、キョロキョロと周りを見出した。
「……あれ……」
鈴木先輩のその声を聞き、森田先輩と私は顔を見合わせ、「ひとまず安心」という風にお互いに頷き合った。




