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肆
男は綺麗な顔立ちをしていた。
「君、誰?」
男は首を傾げて訊ねた。
「翠」
「翠?素敵な名前だね。吾が輩は聖、よろしくね」
聖はにこりと微笑む。
「ところで、翠は吾が輩の家に何か用かい?」
は?
「あの、ここ私の家ですけど…」
聖は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「いくら、美人でもそんな嘘言っちゃだめだよ」
あんたこそ嘘言っちゃだめだよ。
「本当に私の家なんですけど…。家を間違えていませんか?」
聖は首を横に振り、否定する。
「いいや、鬼椿横丁三丁目は間違いなく吾が輩の家の住所だ」
鬼椿横丁?
「それ、昔の地名ですけど…。確か、百年程前の…」