プロローグ
――先輩。
貴方をそう呼ぶのも今更な気がします。だからと言って、名前を口に出来るほど親しい訳でもありません。
結局、貴方を表すには『貴方』しか無い事に気付き、私と貴方の距離を感じずにはいられません。
分かりきっているはず、割り切ったはずの『歳の差』が、日毎私を苦しめるのです。決して埋まる事の無い空白の2年間を、貴方を想う事で帳消しにしようとしている私を、貴方は馬鹿だと笑うでしょうか。 ――それでも、こんなにも貴方に惹かれてやまない私の気持ちは、貴方が幾つ年上だろうと、決して揺るぐ事はありません。
意気地の無い私は、貴方へ伝える術を知りません。けれども、いっそこのまま一方通行の想いを抱いて生きる方が、幸福なのかもしれない――そうやって逃げ道を探しては日々を過ごしています。
――それほど私が悩んでいるのに、貴方はいつまで経っても気付く事なく、あちこちに笑顔を振り撒いて。その度に、私の心を締め付けては、離さず ――私を引き付けてやみません。貴方を想う反面、憎らしくもあります。それでも、廊下で貴方を探してしまうのは、心が求めているからに他ならないのです。
そんな日々を送る内に、段々と我慢が効かなくなっていく今日この頃です。ふつふつと、どこかで何かが叫ぶのです。――このまま黙って想い続けるなんて無理だ――。
いつだって私を突き動かすのは、貴方だけである事に、早く気付いて下さい。 ――もう、夏がやって来ましたね。