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古典的な罠

掲載日:2026/05/22

 校舎。


 ピクリともしない夜風を切ってヒタヒタ歩く。


 教室の成れの果て。


 家庭教師の教え子の机の中。


 手を入れて掴んだ物を引いて教科書を。


 ガサッと白い紙が飛び出す。


 こんな紙なんて見なければ良かったのに。


 その紙には一言、書かれていた。


『今、プールに居ます』


 紙を戻す。教科書だけ言われた通りに。


 廊下の、口を塞がれていた空気が笑った。


 もう終わりだと思ったから。


 触れないと涼しくない風に押されて。


 気がつけば閉まったプールの門を飛び越えた。


 パツンと落とした靴の音が気づかせる。


 この世界のどこかで、雨のように何かが降っている。


 それはキュッと音を立てて止まったはずなのに。


 目の前の女の水滴の。


 ポタポタ、ペタペタ。鳴り止まない。


 夜に紛れてはいけなかった。


 影に背中を寄せてはならなかった。


 張り付いた水着の食い込みを人差し指がなぞり。


 乾いた音を鳴らしながらプールに近づいていく。


 四角い水溜まり、丸くボコボコした光の光。


 身投げに合わせて右から左に一度だけ崩壊した。


 水面から上半身が飛び出て大きく水を掻く。


 潜って飛び出る度に水面の光は形容を崩す。


 しばらくしてプールから手を突いて上がる。


 上り詰めた水気が花火のように散らばる。


 脱ぎ散らされた服が一つに集まる。


 白いシャツは皮膚を吸って半透明に張り付く。


 ジーンズは青黒く陰った。


 スニーカーがグチャグチャと音を立てて夜の中を横切った。



 ピンク色の個室。生活感ある机の上に頬杖。


 セーラー服の少女は言った。


「本当に教科書を取ってきたの?」


 家庭教師は頭に手を置いて他所をみながら。


「買った、買ったよ」


 遅れて上澄みのような甘いため息。


 背中を持たれてクイッと見上げる。


「犯罪ですよ……?」


「いや、だから」


 言葉が詰まった家庭教師が落とした視線の先は少女の胸元。


 白い人差し指が制服の首を引っかけて仰いだ。


 その度にチラチラと青黒い水着が見える。


「今度は古典の教科書、持ってきて」


 そう言って少女は。


 机の上に置かれた古典の教科書に指を置いた。

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