無双と夢想
その頃、神様はいつものように繁華街のキャバクラに来ていた。
「順ちゃんの言ってた夢想、あれ正解だったね」
と神様は言った。
「本当だね。ドラゴン倒せて嬉しそうだったしね」
と順ちゃんは言った。
「夢だとわかれば気落ちするかと思ったけど、案外そうでもなかったね」
と神様はうなづいている。
「私もどうかなと思ってたけど、正夢になるって思ったんだね。
でもわかるような気がするよ」
と順ちゃんは笑った。
「順ちゃんとラブラブな夢みたよぉ」
と神様は甘えた。
「そうなんだぁ。いつもラブラブだもんねぇ」
と順ちゃんは神さまの頭をなでた。
……
気を取り直し、俺たちは街に向かう。
10分ほどでなんなく街についた。
やはり完全に夢だったのか。
怪しい魔導士かなんかも、ドラゴンも、走る婆さんもいなかった。
ケノが言うので、俺は冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは、石造りの建物で平屋で、想像よりかなりショボかった。
扉を開けると、薄暗い室内に、酒と汗のニオイがした。
「おぉミックじゃねぇか。お前まだ生きていたのか」
とつるつるのボディビルダーみたいな男が声をかけてきた。
誰だ。まったくわからない。
「おかげさまで」
と俺は頭をかいた。
「ギルド長。こちらに来てください」
と受付嬢らしき女がつるつるのボディビルダーみたいな男に言った。
「あぁ今行く」
とつるつるのボディビルダーみたいな男が言った。
なるほど。
こいつはギルド長なのか。
「ではギルド長。失礼します」
と俺は頭を下げた。
「おぅ死ぬなよ」
とギルド長は言った。
しかし、なんでこいつ死ぬ前提で話してんねん。
冒険者って危険なんか?
「おいケノ。俺この体の持ち主の事、ほとんど知らんねん。こんな所来るの怖いやんけ」
と俺は小声で言った。
「まぁ大丈夫や。ほら、なんともないさー言うやろ」
とケノは笑った。
「それ、ナンクルナイサーやろ」
と俺は言った。
「ほんまか。なんともないさーや思てたわ」
とケノはビックリした顔をした。
「それで、ここでなにするねん」
と俺は尋ねた。
「これな。あそこの掲示板で仕事探すねん」
とケノは指をさした。
俺が掲示板に行こうとすると、壁に寄りかかり、目を閉じた男に気が付いた。
「なぁ、あいつ強キャラやで。めちゃくちゃ強いはずや」
と俺は小声で言った。
「いや……、あれはドライアイやろ。目が乾くから、目を閉じてんねん」
とケノは答えた。
「そんな事あるか。あれ絶対強い奴やって」
と俺は言った。
「じゃあ、俺が聞いたるわ」
とケノは答えた。
「アホやめとけ」
と俺は言った。
俺の忠告を聞かず、ケノは目を閉じた男に大声で聞いた。
「なぁ兄ちゃん。目が乾燥するんか?」
目を閉じた男は、ゆっくりと目を開いた。
「世の中には、見る価値のあるものなど、多くはない……。
そうドライアイなんだ」
と男は言った。
「なぁ言うたやろ」
とケノはこっちを見て笑った。
「兄ちゃん。目をな。お湯につけて温めたタオルとかで、ぬくめると、目の乾燥ましになんねんで」
とケノは言った。
「ありがとう。
やってみるよ」
と男は手を少し上げ微笑んだ。
「うわ。あの強キャラっぽいの、微笑むんや。ほんま目が乾燥しとってんな。
ちょっと待てよ。強キャラって大体ドライアイなん?」
と俺は呟いた。
「そうやな。強キャラは大体ドライアイやな」
とケノは頷いた。
「どんな設定やねん」
と俺は言った。
俺は掲示板を見はじめた。知らない文字だけど、理解できる。
「お前、今知らん文字やけど、理解できてるわって思てるやろ」
とケノは俺を見上げた。
「すごいよな、これなんなん」
と俺は尋ねた。
「なんかな。これはバイスクル機能、言うらしいわ。なんか前の世界でもあったやろ。多言語対応のやつ」
とケノは答えた。
「そういえばあったな。スマホとかに」
と俺は言った。
「それや。バイスクル機能。どやかっこいいやろ」
とケノは鼻をならした。
それから俺は10分ほど掲示板を眺めていると、トイレに行きたくなってきた。
ギルド内にはトイレはないらしく、少し離れた公共トイレに行くことになった。
トイレは石造りで木の扉が付いており、個室になっていた。
「なんか変わった作りのトイレやな」
と俺は言った。
「あぁこれはな。BSFって虫が糞尿を食べてキレイにしてくれてんねん」
とケノは答えた。
「そんな虫がおるんか。たしかにぼっとん便所みたいやけど、ニオイが少ないな」
と俺は言った。
「そやろ。なんか勇者が持ち込んだらしいけど、衛生状態が良くなったっていうて、感謝されてるで」
とケノはうなづいた。
俺らはトイレを出て、再びギルドに戻る。
ギルドの前には目つきの鋭い数人の騎士がいた。
「ミック……、
お前何かやらかしたのか」
とギルド長は俺をつかまえ言った。
鍛え上げられた上腕二頭筋の圧力がえげつない。
俺は必死で考えるが、答えはでない。
「ちょっとわかんないっすけど」
と俺は言った。
「なんや。その言い方中坊みたいやのぉ」
とケノは煽る。
「ややこしい。煽んなや」
と俺は小声で言った。
「間違いない。
彼らです」
と偉そうな騎士が言った。
まったく身に覚えがない。
「お前らに話があるそうだ」
とギルド長は言った。
「ご同行願いたい」
と騎士は頭を下げた。
「さっさと行けや」
とギルド長は声を張り上げた。
ギルド中の視線が俺に集中する。
「なんや。お前モテとるやんけ」
とケノは笑った。
「うっさいわ」
と俺は呟き、騎士についていくことにした。
俺たちは、馬車に乗せられ、大きな屋敷にやってきた。
屋敷の前には、屋敷の使用人らしき者が待機していた。
「どうぞコチラです」
と騎士は言った。
俺は屋敷の中に案内され、応接室に通された。
「しばらくお待ちください」
と騎士は言い、部屋から出て行った。
部屋には、侍女らしき女と執事らしき男が待機していた。
俺とケノは、借りてきたネコのように大人しく座っていた。




