ドラゴン殺しの英雄譚
「一つ言い残したことがあったわ。ええか」
とケノは言った。
「あぁなんでも言ってくれ」
と俺は答えた。
「コロッケにな。お好みソースかけるやろ」
とケノは言った。
「おう」
と俺は力なく言った。
「そしてな。マヨネーズとアオサかけんねん」
とケノは言った。
「おう」
と俺は言った。
「ほんならな。お好み焼きみたいな味しよんねん、ぐふ……」
とケノはそのまま息絶えた。
「最後になに言い残してんねん。この世界にコロッケもお好みソースも、マヨネーズもアオサもなさそうやろ。気になってしゃあないわ」
と俺は叫んだ。
(ぱーんぱ、ぱーんぱーん)
ラッパの音が聞こえる。
どこからともなく、ひげズラのオッサンが現れた。
「勇者殿。今回は暗黒龍アモミネ(ぐふ)から、街を守ってくださり、ありがとうございます。私はこの街を取り仕切る村長でございます」
と村長は頭を下げる。
「ごめん。初対面の人にツッコむのはどうかと思うんだけど、街やったら、町長とかなん違うかな」
と俺は尋ねた。
「これだから素人は困る……。
私は名前が村長なんですよ。だから正確に言うと、町長の村長です」
と村長は呆れた様子で答えた。
「ややこしすぎるわ」
と俺は言った。
「それで勇者殿。
報酬として、大きい宝箱、小さい宝箱の二つを用意しております。どちらか一つお選びください」
と村長は言った。
どうしようかな。
なんか、こういう話があったな。
舌切り閻魔やったかな。
舌切り閻魔?なんやウソついた話か?
どんな話やったやろ。
思い出されへん。
でも結論は覚えとる。
小さい宝箱がええんや。
これは間違いない。
「小さい宝箱にしとこ」
と俺は言った。
「ではこちらをお持ちください」
と村長は小さい宝箱を手渡した。
「なんか歓迎の宴とかないんか?美女にチヤホヤされるとか」
と俺は尋ねた。
「繁華街のほうに、その手のお店がありますので、ご自由にどうぞ。もちろん自腹で」
と村長はそう言い去っていった。
「おい。ちょっと待てよ。街を救った英雄ちゃうんかい」
と俺は叫んだ。
街の人は、続々と街に戻っていく。
何事もなかったかのように。
なんとかというドラゴンを倒した英雄など興味がないようだ。
俺はぽつんと一人取り残される。
まぁしゃーない。
宝箱を開けよか。
俺は宝箱を開け、中を見る。
そこには小人用のミスリルアーマーと、ミスリルシールド、ミスリルヘルムが入っていた。
俺は小人用の装備を手に取り、膝から崩れていた。
辺りが薄暗くなり、俺は宿屋を探し、泊まることにした。
「お一人?いや二人かな」
と宿屋の女将は不思議そうな顔をした。
「いや一人だよ」
と俺は寂しそうに笑った。
標準語を使うなんて、どうも疲れているようだ。
俺らしくない。
でも、悲しい時には、標準語になってしまう。
なんでやろ。
あっまた戻ってきた。
あれ……、もうケノについては吹っ切れたんかな。
まぁ短い付き合いやったしな。
「あんた。仲間を失ったみたいだね」
と宿屋の女将はどこかの空間を見て呟く。
「何が見えてんねん。こわ」
と俺は言った。
「ふっ。まぁそういう事もあるさねぇ」
と宿屋の女将は笑った。
「ご飯はあるか?」
と俺は尋ねた。
「あぁパンとチーズ、エールならあるよ」
と宿屋の女将は答えた。
「それを貰おうか」
と俺は言った。
女将からパンとチーズとエールを受け取り、俺は部屋で一人黙々と食った。
石造りの宿は、ひんやりとしており、寒かった。
ベッドの下は藁が入っており、横たわると草のニオイがした。
ここが憧れていた異世界か。
そう思うと、急に泣けてきた。
たこ焼き屋という、毎日同じくり返しの人生。
そんな人生を抜け出したいと、憧れたチート人生。
仲間に死に別れ、コロッケもない。
お好みソースもない。暖房もない。
アオサもない。マヨネーズもない。
突っ込める相手も、もういない。
安心してボケれる相手も、もういない。
俺は生きたまま、死んでいってる。
そう思った。
エールの薄いアルコールで、身体が少し暖まり、眠くなってきた。
あかん。歯を磨いて寝んと……、虫歯になる。
……
「おいミック。
おいミック。
しゃーないな」
「いてててててて」
俺は鼻に違和感を感じて、飛び起きた。
気が付くと、ケノがニタニタ笑ってる。
「起きへんから、鼻毛引っ張ったってん」
とケノは笑った。
「なにすんねん。なんなん。人が気持ちよく寝てんのに」
と俺は言った。
「知るか。朝になってもたぞ」
とケノは笑った。
「朝になったぞって、お前死んだんとちゃうんか」
と俺は言った。
「アホ何言ってんねん。勝手に殺すなボケ」
とケノは叫んだ。
「いや。俺がドラゴン。なんとかっていうドラゴン倒したやん」
と俺は尋ねた。
「はぁドラゴン倒す?なに眠たい事いっとんねん。
そんな事できるわけあらへんやろ」
とケノは言った。
「ちょっと待て。クサヤ食ってレベルが上がったやん」
と俺は答えた。
「ほんなら見せてみろや」
とケノは言った。
俺はステータスを開く。
「ステータスオープン」
(ぽよん)
名前:ミック
年齢:18歳くらい
職業:荷物持ち
レベル:10
体力:まぁまぁ
知力:アホ
攻撃力:あんまり
防御力:あんまり
魔力:あんまり
力:あんまり
魅力:あんまり
素早さ:あんまり
器用さ:あんまり
運:まぁまぁ
経験値:マシ
HP:あんまり
MP:あんまり
所持金:10G
アイテム:荷物袋、薬草、パン、水、
魔法:-
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「なにこれショボ」
と俺は驚いた。
「なにがショボいねん。
そんなにお前が強いわけないやろ。
夢でも見とったん違うか?」
とケノは言った。
「あぁ夢やったんか。
そうか……、
でもあれや。
これはきっと正夢になる感じの夢なんやわ」
と俺は呟いた。
「ちょっと待て、正夢になるって、お前俺が死ぬいうてたやろ」
とケノは言った。
「ほんまやな。俺が強くなったら、ケノが死ぬんか」
と俺は尋ねた。
「いや知らんがな」
とケノは言った。




