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クラス転移の特典が俺だけ「サキュバス化」だった  作者: 緑茶わいん
第四章

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五十階攻略に向けて 2

「お姉様は効率主義ですからね。お母様の変なところばかり真似てしまったのでしょう」


 言い方は悪いが、メイの妹の話は面白かった。

 今まで知らなかったメイのことを聞くことができたからだ。


「む。……ご主人様、騙されないでください。この子の振る舞いもある種の処世術です。『男性は徹底的に甘やかせば簡単に落ちる』が口癖なのですから」

「え」

「まあ、お姉様。相手の希望を叶えるだけでは思考停止、自分でなにも生み出していないも同じではありませんか。快適な生活環境とは男性を操縦して意図的に手に入れるものです」


 話を聞く過程で妹のほうもなかなかいい性格をしていることが発覚したが。

 要するにこの姉妹は共に人間的な感覚には疎いのだ。生まれた時からゴーレムなのでそこは仕方ないし、性質上、主を求めるのも当然ではある。

 ただ、主人の求め方というか主人への尽くし方がなかなか極端だ。

 姉は主人には絶対服従(その方が楽だし)という方針であり、妹は主人には甲斐甲斐しく世話を焼くべし(そうすればうまく誘導できる)という思想。参考資料とした本が姉妹で違ったのかもしれない。

 一応、一般的には妹の方が付き合いやすいのだろうが。

 メイの言動に慣れてしまっているレンとしてはどちらもなかなかユニークで可愛いと思う。


「レン様もそう思われませんか? 男性の欲をコントロールせず、生のまま受けていては身体がいくつあっても足りないでしょう?」

「え? うーん、わたしは受け身も好きだから難しいかなあ」


 そもそも男とどうこうなろうとは思っていないのだが、まあそこはこの際置いておく。


「私には肉体的快楽というものが理解できないので、受け身に回ってしまうと『待ち時間』と大差ないのですが……そうですね。男性が必死に頑張っている姿を冷静に観察しながら『応援』したり『激励』するのもなかなか趣深いものがあるかもしれません」

「あ、わかった。二人って性格っていうか性癖が違うんだ」


 メイはどっちかというとM、妹の方はドSだ。

 やっぱり彼女たちゴーレムにもなかなかにサキュバス感がある。生身のレンと違って無限に近い体力があるので本当に相手を翻弄できそうだから困る。


「ふむ。……レン様とはお話していて楽しいです。いっそのこと姉様と一緒に可愛がっていただく、というのもアリでしょうか? レン様でしたら生命力にも余裕がありますよね?」

「うん。そこに困ったことは今のところないけど……そうやって受け入れてるとアイリスのところの二人も真似しちゃいそう」

「おや。そうなると十人を目指せそうですよ。良かったですねご主人様。……いえ、この子には別の主を探して欲しいのですが」

「ひどいですお姉様、私を除け者にするなんて。ではレン様、考えるだけでも良いので、よろしくお願いいたしますね?」


 ダンジョン攻略に参加するようになれば自分の食い扶持を自分で稼げるので「今すぐご主人様を探さないといけない」ということもない。

 アイリス一家の家にでも引っ越してくればアイリス父としても働き手が一人増えて大助かりだろう。ダンジョンへはレンたちの住宅地にあるポータルから行けばいい。


「あの子が変な影響を与えなければいいのですが」

「大丈夫じゃない? 普通にしてれば礼儀正しい子みたいだし」


 エルフにハーフエルフ二人にゴーレム一人。

 後衛に偏っていることを除けばかなり強力なパーティが誕生した。これはそのうち本当に追いつかれるかもしれない。

 そうなってくれたらレンたちとしても安心だ。

 是非、こうしたパーティにどんどん出てきて欲しい。



   ◇    ◇    ◇



「お前ら先に進み過ぎ。どんな魔法使ったんだってレベルだぞ。俺達が追いつけないだろうが」


 付き合いの多い友人パーティからはある日そんな文句を言われた。気心の知れた相手同士だからこそ言える冗談&文句である。


「あはは。まあ、そのせいで足踏みしてるけどね。そっちは?」

「三十三階までは攻略したけど、だいぶきつかったからな。今はあいつらの指導をしながら鍛え直し中だ」

「うちのメイン魔法は火だっただろ? それもあっていろいろ考え直しなんだよ。ゲームなら森でファイアーボール撃ってもなんともないのにな」


 森の木が燃えるから魔法使いがファイアーボールを撃てない=戦力大幅ダウンという罠である。森は三十五階でいったん終わりとはいえ、特定属性の魔法だけだと詰みやすいという教訓にはなる。同じようなことを起こさないためにも別の攻撃手段を持っておくのはいいことだ。


「ショウたちの方は?」

「敵がゴブリンからオークに変わったらだいぶ苦戦してるな。特に前衛のショウに負担がかかってる。あいつらはレベル上げもできないから筋トレとか素振りして身体づくりからだな」

「そっか。育ち盛りだもんね。今のうちに運動しておかないと」


 後輩の少年たちとはたまに街で挨拶する。見かける度に身長が伸びていて「子供は凄いなあ」と年寄りのような感想を抱いたりもしていた。本当は二人を連れて飲みに行ったりとかしたいのだが、二人の彼女でありパーティメンバーでもある少女たちに悪いのでなかなか踏み切れていなかった。

 せめてショウたちが初恋を忘れてくれればいいのだが、今のところレンに会うたびわりと鼻の下が伸びている。

 だんだん逞しくなってきているとはいえ可愛かった頃を知っているので彼らの想い自体は嬉しいのだが、酔ったところを襲われるのは勘弁である。

(なお、レンは酔っても言動に影響しづらい体質なので、酔って理性のなくなった少年二人の相手を素面ですることになる。それはそれでたぶんキツイ)


「わたしたちが攻略手伝おうか? こっちもレベル上げ中だから暇と言えば暇だし」

「あー。本格的に攻略しにかかる時は頼むかも。でも普段は一緒には行かない」

「女子だけ連れて行ってもらうならアリかもだけど……いや、やっぱ無いか。あいつらをお前に取られかねないもんな」

「うわ。わたしをなんだと思ってるの? そんなことしないよ」

「自分が何人の女に声をかけたか数えてから言え」


 ぐうの音も出なかった。


「……まあ、な。三十階越えると攻略のペースが落ちてくるってのはみんなそうらしいんだよな。いろいろ考え始める時期に来るし」

「もしかして、二人も結婚とか考えてるの?」

「一応な。家をどうするのか、とかいろいろややこしくなるから保留にしてるけど、このまま一年とか過ぎたら強引に話を進められそうな気がする」

「あー」


 こっちでは結婚年齢が若い、というのは事実だ。

 みんなやっている、と言われると焦るのは当然の話。相手がいるのならさっさと捕まえてしまいたいだろう。男はお金のこととか理屈を優先して「今は時期が悪い」とか言うが、女は思い立ったら押せ押せである。


「金も準備もできてないのに結婚してもしょうがないと思うんだが、その辺の気持ち、お前ならわかるか?」

「あー。まあ、ほら、そういうのは極論『準備させる』ものだからかなあ」

「うわ」

「俺達がどれだけ大変だと思ってんだよ!?」

「うん、がんばれ」


 将来性や稼ぎが期待値より低いと思ったらそもそも結婚なんて提案しない。

 期待値が十分なら「妻」という立場を得た上で「稼げ」と要求することができる。実際問題、女は妊娠したら動けなくなるし生まれた子供だって母親に懐きやすいのだから稼ぐのは男の仕事になりやすい。

 日本なんかはそういうのがだんだん変わりつつあったが、それは機械によって生活が楽になり、社会制度が充実して選択の幅が広がったからだ。


「ある意味、わたしたちはその点楽なんだよね。みんなで役割分担できるから」

「分担って……お前も子供作ったりするのか?」

「それはまあ、必要になれば?」


 自分のお腹を見下ろして「これが大きくなるのかあ」と妙な感慨を抱いてしまったりはするが、「痛いのは嫌」という以上の忌避感もなくなってきているあたり馴染んだというか。

 と、男二人は生暖かい目というか偉人でも見るような目というか、なんだか不思議な目をして深く頷いた。


「……うん、やっぱお前はすげえわ」

「俺なんか、もし女になっても絶対出産なんてしたくないもんな」

「そんなもんだよね」


 お前らそういうところだぞ、と言いたいところではあるが、レンだって男だったらきっとそうだっただろう。ない機能について想像はできても実感はできない。男として生まれて男として育ってきたのだから、女のことを十分理解できる方が少数派だ。


「がんばろうよ、いろいろ」

「ああ」

「そうだな」


 結局、三人でしみじみと誓い合って別れた。



   ◇    ◇    ◇



 結婚と言えば、マリアベルとアイシャの結婚は来年二月に決まったらしい。

 一緒に夕食をとった日に嬉しそうに教えてくれた。


「けっこう先なんですね?」

「ええ。なんだかんだバタバタしてしまっているから、そのくらい先にした方がいいかと思って」


 アイシャはきちんと子供たちに教えられる場を作ろうと個人経営の教育施設──寺子屋あるいは塾的なものを立ち上げることを決めた。

 場所はレンたちの住む住宅地と元の街の間くらい。

 座学の先生はアイシャが、音楽や体育の先生はマリアベルが務めるらしい。現在は大工によって建物を建設中。この世界なら子供たちが走り回る場所はたくさんあるものの、せっかくだからと校庭というか庭というかな場所も用意するらしい。

 建物が完成して設備を整えて生徒募集をして、とやっていたら確かに時間がかかりそうなので、ある程度余裕を持ったほうがよさそうだ。


「それにね。二月の結婚には言い伝えがあるの」

「それって、どんな?」

「二月の結婚は運命、なんだって」


 これにはシオンが真っ先に「素敵ですね」と言った。


「おめでとうございます、先生」

「ありがとう。あなたたちの式もいつか見られるといいけれど……あなたたちの場合、式は挙げるのかしら?」


 そう言われると、今のところなんとも難しい。

 レンたちは顔を見合わせて曖昧な笑みを浮かべた。「さあ?」と言うのもアレだし「他の子の希望次第」とか言うのもアレである。

 これにはマリアベルがくすりと笑って、


「レンさんたちはそれでいいのかもしれませんね」

「そうね。まあ、式を挙げるにせよ挙げないにせよ、ちゃんと婚姻は結んでもらうけれど」


 答えたミーティアはなかなか強気というか、彼女らしい答えを返した。

 ちゃんとした婚姻というとどうすればいいのだろうか。役所があるわけでもない。神にでも誓えばいいだろうか?


「というか、わたしたちにはもう強い繋がりがあるわけだし、結婚してるようなものなんじゃない?」

「なっ! あ、あなたね、いきなりそういうことを言うんじゃないわよ!?」


 怒られた。実際、スキルによってテレパシーさえ可能なわけだし、スキル名からして「運命のつがい」なのだから合っていると思うのだが。

 憮然とした顔のレンを見てアイシャまでが笑い出し、


「あ、それと結婚なんだけど、シオンさんに式の進行をお願いできないかしら?」

「わ、わたくしですか!? 光栄ですが、もしかして神社で式を?」

「ええ。できれば男性も呼びたいから、場所は相談になるけれど」


 アイシャと同じ元教師の中には男性も多いし、マリアベルに「お世話になった」男性は結構いる。男子禁制の場所だと彼らが参加できないので不満が出るだろう。


「これは、本格的に男道を整備しないとだめかな」

「大工さんにも頑張ってもらわないとだね。……それとも、欠片を使った方が手っ取り早いかな?」

「壁はもうありますから、外に道を作るだけなら欠片でもできそうです!」


 この手の作業に慣れているアイリスがいるので意外とぱぱっと作れるかもしれない。神社への来客が今まで以上に増えそうではあるものの、神社周辺は聖域になっているので悪意ある者は入れない。昼寝するシオンが変なことをされる心配はないだろう。


「わたしたちもいろいろやることがあるなあ。どうせなら年内にもうちょっと先に進めたら、とか思ってたけど、さすがに厳しいかな」

「後一年かけたとしても十分前人未踏でしょうから問題ないかと。ご主人様」


 この調子で、今年はあっという間に年末がやってきそうだ。

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