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クラス転移の特典が俺だけ「サキュバス化」だった  作者: 緑茶わいん
第二章

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レンの悩み(前編)

「打ち止めかと思えば、性懲りもなく貴方たちですか」


 振るわれたメイスが小鬼の首をぐしゃりと砕く。

 絶叫を上げる間もなく消滅していく《《ゴブリンソルジャー》》を見送ることもなく、メイは左の拳で二体目のゴブリンを迎え撃った。

 直後、敵の後衛から飛んできた炎をアイリスのファイアボルトが迎撃、ゴブリンメイジは杖を持つ手に矢を受けて悲鳴を上げる。

 さらに押し寄せてくるゴブリンにフーリがナイフを突き立て、四体目はとりあえず蹴飛ばして食い止める。

 すばしっこい小鬼たちの後ろから迫ってきた巨体にはレンが浮遊状態から、


「ファイアボルト!」


 ブースト付きの炎属性ボルトを顔めがけて叩き込んでやる。

 視界を封じられたオークヒーローが足を止めたのは一瞬。すぐさま最後尾に陣取るゴブリンヒーラーが顔の火傷を癒し始める。

 レンは舌打ちしつつ、最大ブーストの「フリーズ・アロー」を降らせて敵全体のHPを削りにかかる。しかし残念ながらヒーラーへ向かった矢はもう一体のヒーローの身体が阻んでしまった。

 隙あり、とばかりに陰から飛び出してきたゴブリンアーチャーの矢がレンの肩へ。


「ちょっと多すぎだろ、ボス戦じゃないんだぞ!?」


 とはいえ、四体の前衛ゴブリンは間もなく消滅。

 メイとフーリが二体のオークヒーローを相手できるようになったところで形勢は決した。通常のマナボルトを叩き込んでメイジを片付けたら、ヒーラーの回復が追いつかないスピードで敵の数を減らしていくだけだ。

 最後の方は「ドレインボルト」を打ち込んでMPの節約。


 戦闘が終わると、床の上にはかなりの量のドロップ品が散らばることになった。


「……終わったな。みんなお疲れ様。怪我はないか?」

「心配しなくても、レン以外は擦りむいたくらいだよ」


 言いながら歩み寄ってきたフーリが有無を言わさずに矢を引きぬく。

 レンは痛みに顔をしかめながら「キュア」と「ヒール」を立て続けにかけた。キュアを併用したのは変な雑菌が入った場合の用心だ。

 みんなにもヒールをかけ、ひと息ついたところで身体をぐいっと引き寄せられる。

 唯一出番のなかったマリアベルに唇を塞がれ、柔らかな感触と共にMPが補充されていく感覚を味わう。

 他のメンバーからもちらちらと視線が送られてくるのでものすごく恥ずかしいのだが。


「ふふっ。……役得です」

「マリアさん。いきなりだから息できなかったじゃないですか」

「あら。まだまだ修行が足りませんね、レンさん」


 まだ使えそうな矢は回収してアイリスの矢筒へ。

 メイはいったんメイスをストレージに収納し、回収したドロップ品はひとまずフーリのストレージに放り込まれる。


「さすが、十六階からは厳しいな」


 五階区切りの後、ということでさらに難易度が上昇したダンジョン。

 新たな脅威はゴブリンとオークの連合軍だ。今更ゴブリンが交ざったところで、と思いきやこれがなかなか侮れない。でかいオークに集中すると小さいゴブリンを見逃しそうになるし、動きのリズムが違うので「慣れ」を容易に崩されてしまう。

 さっきのように前衛がゴブリンを止めている間にオークに接近されると最悪、ゴブリンごと叩き潰されかねないし、単純に数が増えたせいで処理しきれない。


「ええ。やはりここは少しずつ攻略するしかないでしょうね」


 言ってマリアベルが広げたのは十六階のマップだ。

 攻略本に載っているものではなく、自分たちでマッピングしているもの。

 ダンジョンもだんだん広くなってきて「あれ、どこまで攻略したっけ?」といったことが起こりやすくなってきた。どの敵を倒してどの敵を倒していないかは後の攻略にも大きく関わってくるので、ごっちゃにならないように記録することにしたのだ。

 ひとまず、マッパーは暇になりやすいマリアベルにお願いした。


「今までは多くが復活する敵でしたが、復活しない敵が増え始めています。その代わり、今のように一戦ごとの重みは増すことになります」


 気を抜けない戦いが続くと集中力も途切れやすくなる。

 今まで以上に無理をせず、引き際を考えなくてはならない。

 幸い、復活しない敵の多くは階段からボス部屋への経路に配置されている。一度雑魚掃除を終えてしまえばボス戦にはかなり安全に挑める。

 

「じゃあみんな。また注意して歩いてね。私の指示には絶対従うこと」

「ああ」

「はい」

「かしこまりました」


 フーリがあらためて声をかけたのは、この階から新たに加わった罠のせいだ。

 落とし穴。

 一見何の変哲もない石畳の特定箇所を踏むと床が抜けて穴に落とされる。この階における穴の深さは約三メートル強。よほど変な落ち方をしない限り命の危険はないものの、変な体勢で落ちると頭を打つ可能性もある。

 何より、ここで警戒する癖をつけておかないと後が大変だ。

 もっと下の階に行くと穴がもっと深くなるし、穴の底が槍衾や毒の池になっているケースもあるという。下手をすると落ちただけでアウトである。

 攻略本があるとはいえ、シーフ役がいなかったらうっかり踏みかねない。


「こんなところをひとつひとつ手探りで攻略してきたんだ。……賢者(あいつ)があんなこと言う気持ちもわからなくはないかもな」


 十六階のボスはゴブリンナイト。

 レンたちが階をくまなく回り、ボス戦を制するまでにはやはり三回の探索を要した。



   ◇    ◇    ◇



「久しぶりですね。レンさんが娼館(うち)に来られるのは」

「そうですね。起きてる時間も合いませんし、なかなか用もないので」


 十六階の攻略を終えたある日、レンは出勤するマリアベルと一緒に娼館への道を歩いていた。

 時刻は昼下がり。

 夜の仕事である娼婦たちもぼちぼち起き出してくる時間帯だ。手土産も持ってきたし、マリアベル経由で話も通してあるので邪険にされることはないはず。


「あら。お客として来てくださってもいいのですよ? 《《あのスキル》》も存分に活用できるかと」

「あー。いや、わざわざお店に行かなくても、俺の周りには綺麗な女性がたくさんいますからね」

「これはこれは、お上手ですね」


 くすくすと笑いながら歩くマリアベルは娼館関係者だけあって慣れた様子。

 一方のレンは何度か来た道とはいえ少し落ち着かない気分だが……彼女の服の袖を掴んで隣を歩く少女のおかげで少しは気が紛れる。


「あれねー。これ以上レンの武器が増えたらどうなるかと思ったけど、むしろ弱点だよね」


 猫のようにしなやかな細身を持つ黒髪黒目の少女、フーリである。

 心境の変化か、それともこまめに切るのが面倒だからか、最近はショートからボブくらいの髪型を行ったり来たりしている。

 こっちに来た当初──あるいは来る前からの相棒だけあって一緒に『寝る』頻度は一番であり、お互いに相手のことはよく知っている。

 奥手なアイリスや女性の方が好きなマリアベルには「生やすスキル」があまりウケていないので、あれに最も興味を示しているのも現状だとフーリである。


「まあ、尻尾がもう一本生えたような感覚だけどさ。俺で遊ぶのもほどほどにしてくれよ?」

「えー。でも、そうやっていじめてあげないとずっとレンのペースじゃない」


 女性の身体はみんなデリケートだが、サキュバスの身体は特に敏感にできている。

 中でも尻尾は神経がたくさん通っているらしく、少し撫でられただけで声が上がりそうになる。悪戯好きなフーリはこの尻尾で遊ぶのがお気に入りらしく、二人で寝ている時は積極的に責めてくる。

 「生やすスキル」で生まれるモノも似たような扱いだ。

 刺激に対する反応がわかりやすく、明確な限界の存在するこの器官はなるほど確かに弱点である。

 レンとしては素直にこちらのペースに乗って欲しいのだが。

 マリアベルに至っては少し油断しただけでレンを完全に弄んでくる。年季の違いがあるとはいえ、相手のされるがままになるのはやはり恥ずかしい。例のマジックアイテムがなかったら家中に変な声を何度も響かせていたことだろう。


「そういえば、あのアイテムのお礼もしないとな」

「あ、そうだね。本当に役に立ってるし」

「でしたら、お二人が相手をしてくださるのが一番だと思いますが」

「物。物でお願いしたいです、マリアさん」


 ちなみにアイリスとメイは留守番。

 フーリがついてきたのは「帰り道、一人じゃ心細いでしょ?」という理由だ。マリアベルはそのまま仕事なのでフーリがいないとレン一人になってしまう。

 別に子供じゃないし、迷ったら空を飛べばいい。とはいえ、娼婦のお姉さん方の相手をするのにあたっては一人だと心元なかったのでありがたく申し出を受けた。

 さて。

 話をしているうちに娼館に到着した。少しずつ動き出しているらしく、いくつかの部屋には明かりが見える。

 入り口は中から開けてもらうまでもなくマリアベルが鍵を持っている。

 お客様用の表口ではなく従業員用の裏口から入ると、程なくさっぱりとした服装をした長身の女性? が出迎えてくれる。


「お帰りなさいませ、姉さん……って、お前ら!?」

「え? あ、あー、タクマか。誰かと思った。久しぶりだな」


 レンたちを見るなり思ったよりも低い声で驚いた彼女、もとい彼はレンやフーリにとってかつてのパーティメンバーにあたる少年、タクマだった。

 その様子だと来客がレンたちだとは聞いていなかったのかもしれない。


「わ、タクマってばだいぶ細くなったねー。女物も似合ってきた感じ?」

「うるせえ。誰のせいだと思ってやがる」


 タクマ、およびその取り巻き二人が娼館で働くことになったきっかけがレンたちだ。

 元はと言えばタクマたちのせいではあるものの、もめ事を収める際に罰として「娼婦になって娼館で働く」ように提案したのは他でもないレンである。

 もっと別の罰でも良かっただろう、と言われれば「ごもっとも」としか言えない。

 しかし、


「リアン。言葉遣いに気をつけなさいといつも言っているでしょう」


 マリアベルが一喝すると、意外にも彼はすぐにしゅんとして、


「……申し訳ありません、姉さん」

「よろしい」

「あの、マリアさん? リアンってなんですか?」

「っ」


 タクマことリアン(?)がびくっとして、それからレンたちを睨んでくる。「おいこらそこに触れるな」とでも言いたげだが、もちろんマリアベルは気にせず答えてくれる。


「向日葵の英名から取った源氏名です。最初は『ひま』と呼んでいたのですが、いつの間にか向日葵、さらにはリアンになっていました」


 彼の名前を漢字で書くと「拓真」。無理やり可愛く読んで「ひま」と言ったところか。

 レンはなるほどと頷いて、


「良かったな、タクマ……じゃないリアン。可愛い名前をつけてもらって」

「いいわけあるか殺すぞ」

「リアン?」

「失礼いたしました。……お客様は、恐れながらもう少々、我々従業員の気持ちに配慮していただけると幸いなのですが」

「うわ、敬語とかほんと似合わないよねタクマ」

「っ」


 さすがに学習したのか、フーリの煽るような台詞をリアンは震えながら堪えた。

 少し可哀そうな気分になりつつ、レンは苦笑して。


「いや、嫌味とかじゃなくてさ。女扱いされながら男の名前で呼ばれるのって逆に辛くないか?」


 あらためて見ても、今のタクマは前とは別人のようだ。

 種族が変わったわけではないのでレンほど劇的な変化ではない。基本的な顔立ちは同じだし身長もほぼ変わっていないのだが、筋肉が落ちたうえに脂肪の付き方が変わりつつあること、こまめに(髭を含む)体毛を剃っているらしいこと、女性用の服に身を包み丁寧な物腰を身に着けたことでかなり印象が違う。

 このまま娼館で働き続ければさらに変わっていくだろう。

 そうなったときに「タクマ」と呼ばれ、知らない人から「え、男?」と言われるのは精神的にどうだろうか。


「俺だったらいっそ女の名前で呼ばれた方が気が楽かなって」

「あー。レンは男でも女でもあんまり違和感ない名前だもんね」

「ああ。そこは正直助かってる」


 これはリアンとしても意外だったのか、軽く目を瞬いた後で小さく呟くように、


「……お前に言われるのはめちゃくちゃ癪だけど、よくわかるじゃねえか」

「伊達に女になったわけじゃないからな」


 不本意ながら自己認識の転換を求められた者同士、奇妙な共感が芽生えた瞬間である。


「ちょうど良かった。リアン、レンさんたちの案内をお願いします。くれぐれも粗相のないように」

「はい。……さすがに俺、いえ私でも、姉さんのお客さんに失礼な真似はできません」


 普段から厳しく躾けられているのだろう。

 苦笑の後、「どうぞこちらへ」と恭しく言って彼はレンたちを導いてくれた。


 このままなら直に娼館に馴染みそうだ。


 レンはそう思ったものの、口に出すとまた怒られそうなので心の中だけに留めておくことにした。

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