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神に祈る  作者: 花容
2/5

皮肉な話ね


ブルーベル家の人間が月に何度も行う「お祈り」は、神に捧げる挨拶である。

神は人を好いており、人との唯一の交流であるこの「お祈り」を楽しみにしている。「お祈り」は神と人との平和を保ち、ひいてはこの世の平和をも保つ。

と、いくら王が語ったところで、民には理解できない。王家の者たちは毎度、ぞろぞろと列をなして「お祈り」をしに山へ、湖へと向かうが、「お祈り」をしている現場は国民に見せないのである。

ただ税金を使って遊び歩いているだけなのではないか、という邪推が国中に蔓延し、国民の不信の念は日々増大した。

そうしてあの夜、ブルーベル家は滅ぼされた。



「何がいけなかったんでしょうね」

パンを手でちぎりながら、メリッサは小声でこぼした。

メリッサとリオンは、レンガ造りの住宅が建ち並ぶ路地の裏で、地面に直に座り込んで朝食を取っていた。朝食、といってもたいした物ではない。堅いパンと、鶏の手羽を焼いたのが数本。質も量も、王宮で食していた物とは比較にならないほど悪い。

メリッサは続けて言う。

「私たちは、遊び歩いていた訳じゃないのよ。ただ平和を築くために祈っていただけなのに」

質素な衣服に身を包み、ローブのフードを深くかぶって、傍目にはメリッサ王女だとは分からない。王都からはるばる田舎への逃亡生活の中で、顔や四肢には細かい傷がいくつも付いている。

「平和すぎたのではありませんかね」

と、リオンも小声で返す。

腰に、打刀のほかに短刀も吊っている。この男の頭には、一にも二にも、メリッサを護ることしかない。刃物だけが頼りだった。

「世は平和なのに何をそんなに祈ることがある、と思うのでしょう。彼らは」

「そうね……」

メリッサは短く返す。

(私たちの「お祈り」があればこその平和だというのに。皮肉な話ね)

パンを口に運ぶ。ぼんやりと目をやる先には、通りを行き交う人々の姿。朝の街はまだ少し寒く、みな縮こまって歩いてゆく。

「申し訳ありません」

と、唐突にリオンは頭を垂れた。

「なに?」

「姫に」

と小さな声で言う。

「このような劣悪な環境での生活を強いるなど、近衛にあるまじき失態です。私がもっと…」

「リオンは悪くないわ。仮にあの場を鎮圧できたとしても、暴動はいずれまた起きたでしょう。遅かれ早かれこうなったのよ」

リオンの言葉を遮って、メリッサはきっぱりと言った。執拗に過去を振り返るのは、性格に合わない。メリッサにとっては、将来のことの方がより重要であった。王家の滅亡。即ち、祈祷を行う者の滅亡により、この世の均衡は崩れる可能性がある。

「それから、姫と呼ぶのは滑稽だからやめて頂戴。何度言ったら分かるの」

メリッサはリオンを見据えて、

「王家はもう滅んだのよ。私のことはメリッサと呼んで」

「しかし」

「メリッサと呼びなさい」

叱るような口調で言った。

リオンは、

「はい」

と素直に返事をしたが、不服そうな顔をしている。

「リオンも食べなさい。朝食は一日の活力の源よ」

パンにも肉にも手を付けずにおとなしく座っているリオンに、食事を促す。

「私は、姫のお食事が終わったら…」

「メリッサよ。こっちへ寄って。私が手ずから食べさせてあげましょう」

身を乗り出し、リオンの顎を掴む。リオンは慌てた。

「自分でします!姫のお手を煩わせるようなことは…」

「メリッサと呼びなさいって」

ちぎったパンをリオンの口にむりやり押し込んだ。手に脂が付くのも構わずに鶏肉をわし掴んで、それも食わせようとする。メリッサを敬して強く出られないリオンは、手をバタバタ動かすばかりで、抵抗という抵抗をしない。

その珍妙な光景に、ふたりとも目を見合わせて、失笑した。

メリッサなりの気遣いであった。上下関係を重んじ、メリッサと対等に接することができそうにないリオンへの、歩み寄りである。今後のことを考えれば、ふたりは隠し事をせず、腹の内を明かし合える対等な関係でなければならない。

(少なくとも、苦しい時に正直に苦しいと言える関係でなければ)

口に詰め込まれたパンと肉を懸命に咀嚼するリオンの横に座って、メリッサは静かに言った。

「『お祈り』をしに行きましょう」

決意と覚悟の固まった、力強い声であった。


すっくと立ち上がる。

長い焦茶の髪を後ろでひとつに括って、ローブを羽織り直す。

「姫…メリッサ。パンがまだ残っていますよ」

「全部食べていいわよ」

半端な丈のズボンの裾を捲って、メリッサはさっさと歩き出した。そのあとを、パンを頬張りながらリオンがついて行く。

「どこへ行くのですか」

「向こうの」

と言って、メリッサは西の方にそびえる山を指差す。

「あの山の麓まで行きましょう。少し遠いけど、あそこの神への『お祈り』は、本当は先月の予定だったもの…」

ひと月も祈祷を怠っている。この国とこの国の神々との関係ができあがって以来、こんなことは初めてだった。

(果たして、神は待ってくれているかしら)

レンガで舗装された道を、メリッサとリオンは足早に歩く。






文章を書くのが楽しくて仕方ない。内容とかは正直どうでもいい。スカスカ。

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