7.割とギリギリだったらしいです
「そ、そんなギリギリだったの……?」
「はい。貴女様が顕現召されなければ王国は滅んでいたでしょう……」
そんな壮絶な戦いがあったのかと驚きはしたものの、しかし瘴気を見たこともないし日本で生きてきた身として現実味はなかった。
確かに彼女の言う日付と私がこっちに来た日はほぼ同じだろう。光が降りてきた場所もここらしいし、何よりこの神社が今までなかったという話から、少なくとも影響はしているのは頷ける。
(だけどなぁ、私はただ自堕落な生活を過ごしてただけなんだよなぁ)
神様の言っていた通り私が空気清浄機という役割を果たして彼女らが救われたなら、それはそれで全然いいんだけど達成感なんてあるわけがないのだ。
「貴女様のおかげで私達の命は救われ、今こうしてこの場にいることが出来る幸福を──」
「ちょ、ストーップ!」
「は、はい!?」
そして私は再び祈りの姿勢に深く入ってしまいそうな姫様を慌てて制した。彼女らにとっては残念かもしれないが事実はちゃんと伝えなければいけない。
「最初も言ったんだけど、本当に何もしてないんだって!」
「そんな謙虚な……! まさかその精神が神聖の証だというのですか!」
「は、話が通じねぇ!」
しかし、あっさりと事実は跳ね返され、少女の純粋に輝く瞳に思わず後ずさりそうになる。
「わ、わかった。一旦その件については置いといて……まずちゃんとお互い自己紹介しよう! まだ名前ぐらいしか話してないし」
「私ごときがそのような僥倖に恵まれてよいのですか!?」
「何しても喜びそうじゃん……」
絶対に私の存在を神様かなんかと勘違いしているのは明白だが、今はとりあえず情報収集だ。
「先程リベリカが紹介してくれた通りですが……リティア=フィオレンティアと申します」
「王女様なんだよね?」
「はい。フィオレンティア王国第一王女になります。赤い門から見下ろしてくれるとちょうどお城があると思うのですが」
「あ、見たことある。あそこから来たの?」
「その通りです。あそこが首都でこの山は一応王国の領土内です」
「へぇ……」
そこまでは先に説明を受けていた通りである。暗闇を照らすような絹のように流れる金髪、装飾がありながら清楚な見た目を受ける聖衣のような服、そしてその清楚さや気品をさらに裏付けるような立ち振る舞いにさすが王族だと納得する。それでいて先程から一喜一憂する少女のような姿は年相応で、神聖さと少女らしさのギャップに混乱してしまいそうだった。
そんな魔性の力を持ってそうな彼女は次に後ろに立つ女性の騎士を示した。
「彼女の名前はリベリカと申します。私が子供の頃から親衛隊としてずっと共に過ごしてまいりました。今では親衛隊の隊長で私が特に信用を置いている者です」
そう説明を受けリベリカさんはビシっと姿勢を正し深く一礼する。それだけの動作なのに洗練されきっているのかとても様になっている。
リベリカさんは燃えるような鮮やかな紅い髪が特徴的で、他にも控えている兵士が全身鎧なのに対して頭にサークレットをつけている。鎧でスタイルまではわからないが長身であり、まさに出来る女性という言葉が似合いそうだ。
「すご、かっこいいなぁ……」
「そのようなお言葉、私にはもったいないものです。あの時貴女様が瘴気を祓わなければ姫様も私もこうして生きてはいなかったでしょう。私に出来ることがありましたらなんでもおっしゃってください」
そういってその場で膝をつく彼女と、それに続く付き添いの兵士二人。統率された動きだけに相当な練度があることが伺えるけど私にそんな礼儀を向けられても困ってしまう。
「本当に私は何もしてないんだけどなぁ」
「その……差し支えなければ貴女様についてもお聞きしてよろしいでしょうか? 先程はこの世界による神様によってこの地に来たと仰られていましたが」
「それもそうだ」
そして今度は私の自己紹介の番がまわってくる。苗字はなんかややこしくなりそうな予感がしたから「ナコ」とだけ名乗る。
「ナコ様……ああっ、私なんかが不用意に名前を呼んでしまってもよろしいのでしょうか!?」
「至って普通の名前だから大丈夫。全然呼んでいいよ」
ちょっと相手のテンションにも慣れてきた。
「そ、そんな恐れ多い……神様によってこの地に降りたとのことですが、何か理由があるのですか?」
「ああー、確かこっちの世界が瘴気で大変だからそれを消すために呼ばれたというか」
「……ということはやはり瘴気を祓って頂けたのではないのでしょうか?」
彼女は少し困惑したように言う。確かに私は何もしていないと言っているのに、理由が瘴気を祓うために来たというのなら矛盾しているのだ。だからそのあたりも説明をすることになる。
「何もしてないのは事実なの。神様曰くいるだけでいいって言われたからここでのんびり過ごしてただけって話なんだけど」
「と、ということは存在するだけで瘴気を祓ってしまうほどのお力をお持ちということではないですか! それに神様より使命を受けてまいられたということは神子様、ということですよね!」
「み、巫女? まあ、確かに恰好だけ見ればそうだけど」
「やはりそうなのですね! それなら納得いたしました! ああ、こうして神子様に会えたこと、私はどれだけ感謝を捧げればよいのでしょう!」
「???」
神子と巫女の漢字違いによる勘違いに気づくわけもなく、とりあえず神様の御使いという形で私は収まった。
「その……もう一つ聞きたいのですがその美しい耳と尻尾は神子様の特徴なのでしょうか……」
「ああ、これはまぁ何というか勝手につけられたというか、説明が難しいんだけど」
「いえ、大丈夫です! きっと私ごときには想像をつかないほど大層な理由があるのでしょう!」
好きなアニメを想像していたらこうなりました。とは言えなくなった。
「えーっと、そしたら一旦お互いのことを知れたってことで。私は基本ここでのんびりしたいだけだし、悪いことなんて何も考えてないから適当に放置してもらえれば大変助かるかなーって」
私は今の生活に実を言うと割と満足している。スマホや漫画、テレビなど娯楽はないが、それよりも生きるためのストレスがない状況はやっぱり気楽すぎて最高だ。
まあ、この感じなら王女様のいる国に遊びに行くぐらいは許されそうな感じだし機会があったら行こうかなぁ、なんて暢気に考えていた。
目の前の少女が何かを決心したような瞳をしていたことに気づかず。
「神子様……」
「はい?」
さっきまで興奮していた様子の少女が急に影を帯びたことに気が付く。
そして次の瞬間、リティアはその豪華な聖衣が畳に広がるほど深く跪いた。
「神子様! 不敬を承知でお願いしたいことがあります!」
「のわっ、え、ええ!? ちょ、そういうのやらなくていいって!」
「いえ、どちらにせよ貴女様が高尚なお方なのは変わりない事、そして無礼にもそのようなお方に私はお願いしたいことがあるのです……」
「お、お願いって……?」
私がそう尋ねると彼女は次の言葉に詰まっているようだったが、遂に決心したのか唇を強く噛みしめ、震える声で言葉を紡いだ。
「私のお母様をその御力で助けて頂けないでしょうか……!」
先程まで純粋な少女であった彼女が肩を小さく震わせ俯く姿は、とても弱々しく見えて私は思わず虚を突かれるようにただ見つめていた。
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