4.初めての出会い
主語を大きくするつもりは全くないけれど、誰しもが一度は非現実的なファンタジーの世界に憧れを持ったことがあるだろう。
私だってそのうちの一人で、漫画やアニメの影響を受けそういう世界で生きてみたいと思っていたことがある。
憧れの形も人によって様々で、魔法を使ったド派手なバトルから強大なモンスターとの対峙、もしくは果てもない冒険やダンジョンの探検など、思い描くファンタジーの世界は人の数だけあるに違いない。
そんな中で私の『推しファンタジー』は、人生に対する不安もなくただ自由に思うがまま過ごすスローライフなファンタジーである。好んで買っていた作品や見ていたアニメは大体そういうものが中心だったし、夜寝る前はそういう世界に転移して過ごす妄想もよくしていた。
さて、そんなファンタジー世界に転移する話では共通してとあるイベントが起きる。
「…………」
それは異世界に住む人々との出会いであった。
いつの間に現れたのか鳥居の下には複数の人影が立っていた。神社は山の上にあり、そこから遠くに城のようなものが見えていたから人がいるとは思っていたがあまりにも突然の邂逅である。
正直に言うと私はあまりコミュニケーションが得意な方ではない。特に初対面の相手だと緊張してすくみ上り、自分から話しかけるなんてまず無理だ。
しかも、その相手が……
(ど、どうしよう。なんかめっちゃ可愛い女の子とマジの兵士だ……)
中心に立っているのはまるで神聖な絵画からそのまま出てきたような女の子だ。
整いながらもやや幼さが残っている容姿、腰あたりまで長く伸びている神々しいほど輝く金髪は緩やかに波打ち、青空と同じ色の瞳は直視できないほど透き通っていた。
その服装は金の刺繍が縁どられた純白の聖衣のようなもので、彼女が何らかの権力者であることはその後ろから従うように付いてきている鎧姿の皆様を見てもはっきりとわかった。
彼女らとバッチリ目が合ってからお互いに一歩も動けずに謎の時間が過ぎていく。そういえばこの神社、もし神様都合で勝手に作られたものだとしたら、彼らからしたら突然現れた異物に該当するのではないかと思う。
(まさか怪しいから確かめにきたとか……!? ど、どうしよう、挨拶か!? とりあえず話が通じる無害アピールからするか!?)
そもそも、今の私の見た目は狐っ子だ。例えばこの世界では獣人が酷い扱いを受けている世界だとするかなり危ない。だけど今の私には何かする術はなく、この姿を作りだした神様を信じる他ない。
そう覚悟を決めようとしている私は後ろのノソノソと近づく存在に気づかなかった。
「ブモッ」
「うわぁっ!?」
そこに立っていたのは大体いつもやってくる巨大な猪であった。彼はゆったりと鳥居に向けて少し進むとその途中で私の方に向き直る。
犬の散歩中に飼い主を振り返るあれに似ている。まさか導こうとしているのかと近づいてみると案の定彼はまた鳥居に向けて歩き出し、また振り向く。
まさか猪にコミュニケーションを促されるとは思っていなかったがきっかけにはなりそうだ。さっきまでちょっと怖いと思っていたその巨体だが、今は反転してその大きさが何とも頼もしく勝手に仲間意識を作っていた。
今更だが神社の鳥居は私も圧倒されるほどに大きく、女の子や大人の兵士さん達と比べてもやっぱりでかい。そんな鳥居の真下から動かずにいる彼らの目の前まで遂に歩を進めてしまった。私なのか猪なのかわからないけど兵士達は警戒していたが、例の少女が手で制すると少し後ろに下がる。
遠くから見ても美少女だと思ったが前で見るとさらに数倍美少女であった。意味不明なことを言っているとは思うのだが本当にそうなのだからしょうがない。
さて、その少女であるが彼女自身もどこか緊張しているのかその瞳は少し不安に揺れているように見え、そしてどこか私が声をかけるのを待っているような雰囲気を感じた。
見た目は子供とはいえこちらはそれなりに社会人も経験してきた身だ。苦手だとしても自分から声をかけるべきだと発破をかけて、それでも少しだけ猪に近寄りながら口を開いた。
「え、えーっと、こんにちは……?」
私なり最大限努力した言葉である。そもそも言葉が通じるかどうかなんてこの時は考えている余裕はない。
そんな私のせいいっぱいの言葉が過ぎ去ってからちょっと間が開いて、彼女が一歩前に踏み出したかと思うと──その瞳から何故か涙が溢れだした!?
「え、ちょ、大丈夫!?」
「ああ、女神様……瘴気を打ち祓って頂き誠にありがとうございますっ」
「は? め、女神!? というか、何もしてませんけど!?」
そして、私の前で突然両ひざを跪いて祈りだしたのである。
(な、な、なにこれええええええ!)
それが私にとって初めての異世界人との交流になったのだった。
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5話目は見直しが終わり次第投稿しますので、ぜひ楽しんで頂けると幸いです!
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