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35.神社への帰還

 やはり人間というものは──いや、私という生き物は怠惰に浸るため生きているんじゃないかと心の底からそう思う。


「ふぁぁぁ……」


 ぬくぬくとした布団の中で丸まって大きな欠伸を一つ。自分の体温でふわっと温かい布団の中は快適そのもので、ここから脱出するのは至難の業である。


「瘴気なんかよりもこの布団の方がよっぽど脅威だよなぁ」


 聖力を込めて祓える瘴気と違い布団の魔力には特効薬がない。

 しかも今の私は戦う理由もなければ働く必要もない自堕落モード全開のただの狐娘。勝負にすらならない。


「はあ、二度寝しよ……あれ、三度目だったっけ……まあ、どうでもいっかぁ」


 そんなわけで今日も平和に寝て過ごし、布団の中で溶けて一日が終わる予定。のはずだった。


「あのー、ナコ?」

「あえ?」


 頭上から突如響いたのは少女の声。思わず布団からひょっこりと顔を出してみると心配そうに私を見下ろす美少女がいた。


「あれ、リティアなんで……?」

「えっと……先触れを出しましたよね?」

「ん……? ああ、確か昨日ぐらいに来たような」


 ぼんやりとした思考の中で何とか思い出す。確かこの神社に戻ってきてから数日後、王城から親衛隊の人がやってきて、律儀にリティアの来訪予定を伝えに来たんだった。


「確か一週間後じゃなかったっけ……? なにぃ、もしかして早く会いたくなっちゃったとかー?」


 意外と寂しがりなところがあるからなーと勝手にリティア像を妄想してにやける私に、リティアは困惑気味に口を開く。


「あの……今日がその一週間後の日なのですが」

「……え?」


 ……一気に目が覚めた。


*****


 とんでもないことに私はこの一週間殆ど寝てた……らしい。そのあたり記憶が曖昧過ぎてちょっと自分に驚いている。


「体調は大丈夫なんですか?」

「あー、うん。たぶん大丈夫。特に問題なさそう」


 布団から這い出た私はちゃぶ台が置いてある居間に移動していた。今回はリティアだけの訪問……というのは立場上流石に難しいのでリベリカさんを含めて少数の護衛と共に来ていた。目的はもちろん約束していたお泊まりである。


「このような場所に不審な者は現れないとは思いますが」

「まあ、王女様が一人で来るわけにはいかないよね。たくさん部屋も布団もあるから護衛の人達にもゆっくりしてもらってよ」


 一応、私とリティアの時間の邪魔はしないようにと視界に入らない程度に控えているらしいが、別にそこまで遠慮する必要もないんだけどなぁと苦笑する。


「いやぁ、ごめんね。まさかここまで寝過ごすとは思ってなかったよ」

「不調でないならいいんです。私こそ勝手に入る形になってしまいすみません」

「全然いいよ! というか事前に連絡もいらないし好きな時に来ていいからね。友達ってそんなもんだと思うし」

「流石にそれは……でも嬉しいです。ありがとうございます」


 前回出すことが出来なかったお茶と饅頭を今回は振舞うことが出来た。もちろん、護衛の方々にも挨拶をして人数分用意するのも忘れない。リティア含め皆不思議な顔をしながら丸くて白い物体を見つめていたのが面白かった。

 リティアは恐る恐る饅頭を小さな口で食べると目を瞬かせた。


「なんというか不思議な味ですね。似たような形の食べ物はありますが……」

「中身は餡子っていうんだけど、美味しいでしょ」

「ちょっと独特ですが美味しいです! このお茶も初めて飲みますが合いますね」

「でしょ~。まあ、詳しいことはわかんないんだけどね」


 饅頭の製造工程だとかお茶についてはただの消費者の私には知る由もない。でもリティアが美味しそうに頬張ってくれる姿が微笑ましく頬が緩んだ。

 それにちょっと恥ずかしそうに湯呑で口元を隠すリティアが可愛くて笑ってしまいちょっと怒られてしまう。だけどもちろん本気で怒っているわけではなく、それからまた世間話に花が咲く。


「やっとお兄様が帰国したんです。今回起こったことを聞いて凄く驚いて、ナコにもいずれ挨拶に来たいとのことでした」

「そういえばお兄さんがいたんだったね。いつでも来ていいって伝えてよ」


 今回はお兄さんの方は体を休めるために来れずミリナちゃんもお留守番になったらしい。ミリナちゃんに関しては凄く行きたがっていたらしいから次回はぜひ来てほしいものだ。

 そして話は瘴気事件のことに移る。しかし、どうにも状況は複雑になっていたらしい。


「ご、獄中死?」

「ええ……常に監視していたはずなのですが」

「うわぁ、なんか不気味だね……」


 教団の男はあまりにもあっさりとこの世を去ったらしい。

 そのためそれ以上の情報を集めることは出来ず、私はその事実にどこか悪寒を感じざるを得ない。少し嫌な沈黙が続くとリティアは慌てて言葉を濁した。


「すいません! 暗い話をするつもりはなかったのですが……!」

「あ、う、うん! 大丈夫大丈夫! でもさ、また何かあったら私も力を貸すよ!」

「……ありがとうございます。本当にナコがいてくれてよかったです」

「私もここで最初にリティアと会えてよかったよ。ところで、呼び捨て結構すぐ慣れたね」

「正直、不敬なんじゃないかとまだ思ってはいるのですが」


 瘴気事件の時の約束通り、リティアは私のことを"ナコ"と呼んでくれるようになった。それこそ王城に戻った時はかなりぎこちなかったけど、今では自然な響きになっている。やっと異世界で初めての友達と言っていいかもしれない。


 それからしばらくリティアやリベリカさん達と話をしたり、久しぶりに境内の掃き掃除を一緒にやったりのんびりとした時間を過ごす。穏やかで何も起こらない、ただ時間だけがゆっくりと過ぎていく。


 そして、日はすっかり落ちた。


 この神社で迎える何度目かの夜。ただしいつもと違うのは今日は一人じゃないということだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

面白かった、続きが気になるなど気に入って頂けましたら、ブックマークや評価を頂けるとすごく嬉しいです!


次回更新は10/17の21時ごろになります!

恐らく最終話となると思いますが、ぜひよろしくお願いします!

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