33.瘴気との決戦
その大きなタコは瘴気をまき散らしながら暴れ始めた。まるで邪魔されたことを怒っているように触腕をめちゃくちゃに振り回している。
「全員慌てるな! 身を守りつつ隙をみて攻撃しろ!」
ミッドレーさんの一喝により兵士の皆は構え直し触腕の攻撃を防ぐ。中央にタコの本体、そしてその周囲の地面から生えているように出ている触腕は8本。決して対応できない数ではないがこれらすべてを一度に対応するほど人数は多くない。
「ナコ殿!」
「え? うわっ!」
突然後ろに引かれて驚いて尻餅をつく。するとさっきまで立っていた場所にバァン! と強烈な音と共に触腕が叩きつけられる。あれに当たっていたらペシャンコどころではないとゾッとする。私は引っ張ってくれた彼女にお礼を言う。
「リベリカさん、ありがとう……!」
「お気になさらず。ですがお気をつけください。振り回しているだけではありますがあたると大変なことになりますので」
「そ、そうだね……」
生えている中心から動くことはなさそうなので壁際まで下れば一応安全地帯は確保できる。ただ、本体は瘴気を出し続けているし兵士の中には負傷者まで出てきているから、このまま停滞することは出来ない。
どうしたものか悩んでいるとリティアが駆け寄ってくる。
「ナコさん、大丈夫でしたか!?」
「うん。リベリカさんが助けてくれたから。でも、このままじゃ……」
「とりあえず生えているものから何とかしたいのですが、リベリカ、斬れそうですか?」
「先端の細い部分ならまだしも、根元からとなると厳しそうですね……」
兵士達も複数人で触腕の動きを盾で抑え込み剣で斬り、槍で突いているがあまり有効打にはなっていなさそうである。それにあれだけ鋭い剣筋を持つリベリカさんが難しいというなら相当な難易度なのだろう。
「……となると、私がやってみるしかないか」
この際出し惜しみは無しである。さっきやった神楽鈴にとってはあまりよくなさそうなことをするため身構える。
「リティアは聖力を溜める時ってどんな風にしてるの?」
「え? 基本的に神様への祈りを強くする感じですが……」
「なるほど」
とりあえず神楽鈴に意識を集中させて心の中で祈りを唱えてみる。
(……神様へ、最初ここにいるだけで良いって言っていたのに、なぜか今私は下水道で正体不明の巨大タコと戦っています。どういうことですか、いつから特撮物に変わったんですか? 自身の発言に責任を感じているなら少しぐらい力を貸してください!!)
果たしてあの神様に責任感というものがあるかは置いておいて、そんな祈り(?)が通じたのか神楽鈴が輝きだす。これでいいのかと思うところもあったが結果オーライであった。
「い、いける気がする! せえええええい!」
普段出さないような弱い雄叫びと共に神楽鈴を振るう。先程と同じくジャン! と優しくない音が響くと光の衝撃波が発生し生えていた触腕を一閃、斬り飛ばした。
「え、つよ……」
出した私自身が驚いたがその威力はとんでもないもので、落ちた触腕はビチビチと跳ねた後、塵のようにサラサラと消えていく。
「な、ナコさん! すごいです!」
興奮して駆け寄ってくるリティアにいやいやこれぐらいと強がってみる。それを見ていたミッドレーさん含む兵士達の士気も上がっているようで、一気に形勢がこちらに傾いたようだった。
「溢れ出す瘴気については私が抑え込みますから、ナコさんには残りもお願いしていいですか?」
「もちろん! さっさと終わらせちゃおう!」
その流れのままタコの手足を処理していく。確かに振るうスピードは速く暴力的ではあるが範囲は限られているし、遠距離で斬り飛ばせる私との相性は向こうからしたら最悪だろう。しかもこの衝撃波、瘴気にだけ影響があるらしく戦っている兵士さん達はそれに当たっても大丈夫なようなのである。
勝ったな、と勝手に脳内で勝利宣言をしながら神楽鈴を振る、振る、振る! 登場した時の恐ろしさとは裏腹にあっけなく攻撃手段を失っていく巨大タコは怒りからか瘴気を噴き出すも、それもリティアによって対策されているので意味がない。
「これで、最後の一本!」
そしてあっさりと触腕すべてを斬り終えた。兵士たちの歓声が上がり私も内心ホッと胸を撫でおろす。無事に終わりそうなことと死傷者がいないことが何よりも嬉しかった。
(さて、あとは……)
そして残っているのはまだ瘴気を噴き出している本体だけになった。私はリティアの横に並ぶと祈りを込める。
(これが終わったら帰って温かいお風呂を満喫して温かい布団で寝るこれが終わったら帰って温かいお風呂を満喫して温かい布団で寝るこれが終わったら帰って温かいお風呂を満喫して温かい布団で寝る)
最早願望でしかなかったが、神楽鈴はちゃんと反応して力が溜まっていくのを感じる。
「よぉし、吹きとべぇぇぇ!!」
そして私は縦に一閃、神楽鈴を振るう。今までの中で一番大きな衝撃波がタコを直撃し、一瞬制止したかと思うとズルリと一刀両断され崩れ落ちた。
「おお、やったぞ!」
「あんなデカイ瘴気を簡単にやっつけるなんて凄いな!」
またも歓声が上がりやっと終わったと私も一息ついていた。とりあえずこれで無事に帰れそうだとそう安堵したのだが、しかしその時中央で歪な光を発する石が突然浮かび上がる。
「あれは……?」
リティアは訝しげにそれを見ていたが急にその石が震えだすそれに呼応するように地面も震えだし、周囲から瘴気が湧き出るとそこに集まっていく。そしてその歪な石が濃い紫色の光を放ちだすと驚くことに真っ二つにされたはずのタコがまたもその形を取り戻そうとしているではないか。
危険を察知したミッドレーさんは誰よりも早く槍を持つとものすごい勢いで投げつけた。
「ふぅんっ!」
しかし、当たる直前に壁のようなものにあたったかのように跳ね返り槍は落ちてしまう。私は慌てて神楽鈴に力を込めようとしたが、最悪なタイミングで体がふらつき膝をついてしまう。
「ナコさん! 大丈夫ですか!?」
「ご、ごめん……急に力が入らなくて」
さっきまであれだけ力を奮っていた神楽鈴も今では反応がない。流石にあれだけの力を使ったことと一回安堵してしまい気を抜いたことで負担が来たのだと気づくがどうしようもない。
リベリカさんや他の兵士も突如現れた石に向かっていくが途中で阻まれており、このままではまた復活してしまいそうなると打つ手がなくなってしまう。
「だ、大丈夫! 何とかするから……!」
無理やり力を入れて起き上がりまた祈りのような気持ちを込めてみるが、やはり手応えがなく絶望に体が冷える。
「そんな……」
その時、神楽鈴を持つ手に温かい手が重なった。
「ナコさん落ち着いてください。私も力をお貸ししますから二人でやりましょう。恐らくあの石は瘴気を操る源、あれを壊して皆で帰るのです」
「リティア……」
「そして美味しいものをみんなで食べて温かいお風呂に入ってふかふかの布団で寝ましょう。なんて……ナコさんは思っているんじゃないですか?」
「……ふふ、よくわかったね」
リティアが聖力を使うと手を通じて温かくて気持ちの良い何かが体を巡っていく。さっきまで力が入らなかった身体に再び活気が戻ってきた。
「どうですか? もう大丈夫そうですか?」
「……ありがと。すっかり元気になったよ」
「それではもうひと踏ん張りしましょう。今度は私も一緒に」
「うん!」
神楽鈴を二人で掲げて祈る。皆で帰りたいことやこの国が無事に済むこと、それと……
「これで無事に瘴気を倒せたらさん付けはやめてくれる?」
「え!? こ、ここでそれを言うんですか!?」
「だって私達もう完全に対等じゃん。敬語はいいけどいつまでもさん付けは他人行儀じゃない?」
神楽鈴に二人分の力がこもっていく。私は瘴気の魔物ではなくリティアを見つめると彼女は大きくため息をついた。
「わかりました。じゃあ無事に戻れたら、ですよ?」
「オッケー! じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃおう!」
一際、神楽鈴が輝いたかと思うと衝撃波ではなくただ純粋な光が迸る。温かくも眩いその光は下水道全体を走り続け隠れていた瘴気を根こそぎ浄化していき、その光が収まると淀んでいた空気は驚くほど澄み、瘴気など最初からなかったかのように下水道と魔法陣はその形を取り戻していた。
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