32.瘴気の正体
私の叫び声にリティアは反応して振りむくも黒い触手は既に彼女に肉薄していた。
(何か、何か……!)
最悪なことに彼女の周りに誰もいないタイミングで、リベリカさんも即座に駆け出しているが距離的に間に合わない。私は慌てながらがむしゃらに神楽鈴を振り下ろした。
「なにか、なにか起これぇー!!」
瞬間、ジャンとあまり鳴ってはいけなさそうな鈴の悲鳴と共に光の衝撃はのようなものが形成され、触手を切断した。
「え……?」
自分ですら何が起こったのかよくわからず呆気に取られたが、さらに触手が生えてくる。
しかしそれに気づいていたリベリカさんが割って入り、鋭い太刀筋で同じように斬り飛ばしていく。事態に気づいた兵士達も警戒態勢に入り陣形を作る。
「リティア、大丈夫!?」
「は、はい! ありがとうございます! 私は大丈夫です!」
私は慌ててリティアに駆け寄るも怪我はなく、生えてきた触手も落ち着いたリベリカさん含め兵士達に処理されていく。
「姫様、申し訳ありません。本来お守りしないといけない立場なのに……」
「気にしないでください。私も気づかないほどの不意打ちでしたしナコさんが助けてくれましたから。でも、ナコさんのあれは一体?」
不思議そうに私の神楽鈴を見てくるがそれに対する答えを持っていない。
「いや、私も無我夢中で。あんなことが出来るなんて思ってもなかったよ」
まさかこの鈴に攻撃性能があったなんて驚きである。本来乱暴に扱ってはいけないものなのでちょっと罰当たりな気がするが、今はそんなことも言っていられない。
触手が完全に処理されてからリティアは周囲を護衛隊に警戒させ、魔法陣をじーっと観察し始めると結論づいたように話す。
「魔法陣に何か潜んでいますね……見ただけじゃわかりませんが僅かに瘴気を感じます」
「まさか、瘴気はそんなところにも潜めるのですか!?」
リベリカさんの驚く声にリティアは深刻そうに頷く。
「私も初めて見ましたがまず間違いないでしょう。ただ、自然的に起こり得るかどうか……」
「ちなみに中にいるのはモンスター的なやつなの?」
「推測にしかなりませんが、先程の触手の持ち主の可能性がありますね。ミッドレー!」
彼女が呼ぶとすぐに彼は重い鎧を物ともしないようにやってくる。そして事情を聴くと覚悟を決めた顔つきで口を開く。
「……で、あればここで仕留めなければなりませんな。ここを乗っ取られているとするなら早急に処理せねば」
「内部まで聖気を通したら姿を現すと思います。兵士達に戦いの準備をさせていただけますか」
「いつでも動けるよう準備させましょう!」
そこからミッドレーさんは空間に響き渡る大声で隊列を組んでいく。流石は軍隊というか規律ある動きで整列する。リティアは決心したように私を向いた。
「ナコさん、本来であれば一時撤退して準備をしたいのですが、もし魔法陣に瘴気が入り込んでいるなら今すぐに解決しなければなりません」
「うん」
この魔法陣が司るのは国のライフラインである。もし供給される水に瘴気が混ざったりしていたらそれこそ一日で国が崩壊してもおかしくないと彼女は言う。
「だから、持てる力をもって瘴気を排除しなくてはなりません。危険かもしれませんがお力をお貸しいただきたいです」
そこに立っているのは聖女としての責任を一身に背負う少女の姿だった。私はそんな彼女に答える。
「もちろん、いくらでも力は貸すよ! またお城のお風呂にも入りたいし!」
そう言うと少しだけ彼女は笑った後、表情を引き締めて声を響かせた。
「今から魔法陣に聖力を流し込みます! 恐らく中に潜んでいる大型の魔物が出てくるので注意してください!」
「おおっ!」
作戦としては単純で、出てきた魔物を聖力で浄化するだけ。ただ、それに伴い激しい抵抗が予定されるのでそこを兵士のみんなに頼ることになる。
(つまり早く倒さないと被害が大きくなると……)
責任は重大である。緊張しながらも神楽鈴を構えた。
「……では、いきます」
リティアは魔法陣にそっと指を添えるとそこから光を流し込み始めた。聖力をこういう風にも使えるのかとちょっと感心していたが、すぐに異変が起きた。
「ま、魔法陣が黒くなっていくぞ!」
「全員構えろ!」
ただでさえ薄暗い下水道の中央、ただそれよりも黒く魔法陣の色が変わっていく。ゾッとするような悪寒と不快感が身を包み思わず毛が逆立ってしまう。
そして、魔法陣からニュルリと触手が出てきたが。
「いや、太くない……?」
それは触手と言うには太く吸盤のような奇妙なものがついており、どちらかというと触腕に近いものだった。それらが魔法陣の隅々からボコボコと生えてきてめちゃくちゃに暴れ始める。
そして魔法陣の中央からドロッとした瘴気と共に丸い形状のものが飛び出してきた!
「こ、これは一体……!?」
リティアの驚愕する声が届く。巨大な魔法陣を押しつぶすような大きさの瘴気の魔物である。
地面から出ている触腕は全部で8本。そしてヌメヌメと光る丸い胴体と頭。私はこれの小さいやつを知っている。
「た、タコ……?」
下水道の中央から現れたのは黒く巨大なタコであった。
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