31.瘴気まみれの下水道
下水道の中は大体私の想像している場所とそう変わらなかった。不快に感じる湿度に下水特有の腐臭、ぬかるんでいる地面などなど、はっきりいってあまり進みたいとは思えない。
しかも……
「前方から獣型来ます!」
事前に聞いていた通り下水道の中は瘴気まみれであった。リティアの結界がないと間違えなく進めないほどの濃さで、足を踏み入れた私達に向けて明確な敵意として獣型の瘴気が襲い掛かってくる。
「むぅんっ!!」
しかしこちらも精鋭だ。ミッドレーさんは結界に飛び掛かろうとした獣の前に躍り出ると豪快に槍を薙ぎ払う。轟音一閃、瘴気は塵となって霧散した。
「おおっ! すっごい!」
まるで目の前で爽快なアクション映画でも見ているようだ。陰湿な空気の中で彼のような頼れる存在がいるのはありがたかった。
「これぐらいぬるいぬるい! いくらでもかかってくるがよい!」
彼とその部隊の士気は高く今のところ進軍に問題はない。ただ、瘴気の量の多さだけは看過できない。
「ナコさん、お願いします!」
「了解!」
リティアから指示を受けて神楽鈴を鳴らす。すると結界の中に入り込んでいた瘴気や周りの瘴気を取り込んでいく。これで何度目かの浄化だが今のところ体に異常はない。
(神様はフィルターって言っていたからたぶん限度はあるんだろうけど……)
この神楽鈴が吸収しきれないほど膨大な瘴気を体験したことがない。神様お手製のものだから限界がなければありがたいのだが、肝心な時にダメにならないことを祈るばかりである。
「すごいな! 異国の聖女様の力のおかげで安心して進めるぞ!」
「いやいや、リティア様の結界のおかげだろ!」
まだ余裕があるのか私達に向けて兵士たちの感嘆とした声が届く。そんな彼らの後ろから現れたのは大槍を担いだ大男なミッドレーさん。
「バカ者、お二人の力があってこそだろうが! それと余裕を持つのは大事だが周りを警戒しろ!」
「ハッ! 失礼いたしました!」
叱責した彼はそのままこちらに来る。
「聖女様方は体調は大丈夫ですかな?」
「私は大丈夫です。ナコさんは?」
「今のところ問題なしかな」
「うむ、下水道の調査はお二人次第だ。もし何か異常があればすぐ呼んでくだされ」
ミッドレーさんは再び先頭に立ち、私たちもその背を追うように進み続ける。
「目標は下水道の中央なんだっけ」
「はい。一番水が集まる箇所であり、下水道の仕組みを司る巨大な魔法陣があるのでその確認です」
今回の作戦の目的は表向きとして調査となっている。瘴気を操っている人物がいる可能性はひとまず置いておいて、下水道本体に問題がないか確認をするのだ。実際魔法陣に問題があるとお城の温泉なんかも影響を受けるのでとっても大変なわけである。
「今のところ順調ですね。もうしばらく歩いたら目的地ですよ」
「……既に瘴気が蔓延しているから何とも言えないけど、早く終わらせて帰ろう」
「ええ、皆無事に戻りましょう」
下水道の中を進み続ける。途中途中で獣が出てきたり濃い瘴気に襲われたりするものの難なく対処も出来た。そしてやっと中央に続く道が見えた頃だった。
「姫様」
「ミッドレー、どうかしましたか?」
「もう間もなく目的地ですが、どうにもよくない気を感じましてな」
「……というと?」
彼自身、確証はないのか訝し気に口を開く。
「あまりにもここまで順調に行き過ぎていると思いませぬか? 戦ではこのような状況が一番危険で警戒しないといけないのです」
「なるほど……わかりました。一度態勢を整えて警戒をさらに厳にして進みましょう」
リティアはそう判断して指示を出す。ミッドレーさんの指揮官の勘は侮れないと思ったらしい。
「今まで何度も死線を潜り抜けてきた方ですから。それに私も同意見なんです」
「リティアも瘴気とはずっと戦ってたんだよね」
「ええ。確かに下水道の瘴気はどこかおかしいというか、あえて一定のペースで襲い掛かってきているような気がします。私達を問題なく前に進ませるために」
「……もし、そうだとしたら」
「考えたくはないですが……ただ、ここまで来た以上確認せず戻るわけにはいきません。慎重に進みましょう」
彼女の言葉に大きく頷いて私達はゆっくりと前に進み、そしてついに下水道の中央へとたどり着いた。
「ここが……」
流石に下水道の根っこというべきか、その場所は広い円形のようになっており端のほうで下水が勢いよく流れている。そして床には一定の法則で描かれているような模様が広がっており仄かに光っている。恐らくこれが魔法陣なのだろう。
リティアは中央まで行くとさらに聖力を込めて結界を広くして行動範囲を広くする。
「今のところ問題はなさそうですが、それだと瘴気が出ている原因がわかりませんね……各自慎重に調査を行ってください!」
そしてそれぞれが調査に入る。これに関しては私はド素人というか1ミリも役に立たなさそうなので、その場で待ちぼうけとなる。中央に問題がないとしたらもっと別の場所になるだろうか。すごく広い場所だからそうなると大変すぎる。
「……っ!」
そんなことを思った瞬間だった。体にチリっとした嫌な感じが走る。リティアのお母様の時と噴水広場の時に感じた瘴気と全く同じだ。
(近くに瘴気がいる……!?)
リティアが展開した大きな結界の中は一見瘴気の姿はない。焦ってきょろきょろと見渡していると視界にリティアの姿が入る。彼女は魔法陣が怪しいと踏んでいるのか隅の方で身をかがめて模様を確かめているようだった。
そして私は目にした。その彼女の後ろ、魔法陣の模様から黒い触手のようなものが生えリティアに向かって行ったのを。
「リティア!?」
私は叫びながら駆け出していた。
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