30.やれることはやります
鈴の音が響くと沈黙が場を支配する。兵士たちの喧噪や痛みに悶える声の全てが止まり、そして次に聞こえ始めるのは驚愕の声だった。
「な、なんだ急に苦しさがなくなったぞ!?」
「体が軽い……!」
「な、治ったのか? 何がどうなって……」
動揺しながら彼らが見るのは私の方だ。彼らに憑りついていた瘴気が黒い塊となり神楽鈴に吸収されていくのを皆が見ている。瘴気の量が今回は多かったせいか少し体に重いものがのしかかってくる感覚があったが、それもすぐに解消されていつも通りに戻った。
「あの方じゃないか異国の聖女というのは」
「こんな簡単に瘴気を消せるなんて……きっと高名な方に違いない」
「なんでも旅をしながら瘴気を浄化しているというじゃないか。そんな方に援護してもらえるなら何とかなりそうだ!」
徐々に賞賛の声が響き始める。あまり良い気になるものではないとわかっているが、士気にも関わるだろうし──
「ま、ザッとこんなもんだね」
と、柄にもなくドヤ顔を決めた。リティアが駆け寄ってきて体調の心配をされるも問題ないと笑顔で答えた。
「相変わらず凄いですね……! これなら後遺症も心配なさそうです!」
「これに関しては専門みたいなところもあるし、リティアのためなら全然大丈夫!」
そう言うとリティアは「まぁ」と少し恥ずかしそうに照れていた。そんな姿も可愛いと思っていたら後ろからガシャガシャと鎧の音。
「驚きましたぞ。まさかこんな簡単に瘴気を打ち消すとは……!」
「ミッドレー、貴方は大丈夫でしたか?」
「私は突入前でしたから心配はご無用。しかしこのミッドレー、ナコ殿の力に感服しましたぞ! これなら下水道も安全に進めるもの! どうかよろしく頼む!」
何やら偉い感激している様子の彼は私の手を握ってブンブンと縦に振った。その見た目通りものすごい力が強い!
「お、おおっ……! 頑張ります」
それに若干振り回されながら返事をすると、彼はそれに満足すると動ける兵士たちを集め始めた。きっと再突入の準備に入ったのだろう。
「すみません、裏表はなく直感的に動く人なので」
「まあ好意的に受け入れてもらえるようでよかった。でも改めて思ったけど大きい人だねぇ」
「ええ、実際戦いに関してはとても頼りになると思います。元々武功を立てて貴族籍を得た人ですから」
「へぇ……」
そんな情報を仕入れながら改めて下水道への侵入について準備を整える。瘴気を祓ったといっても怪我をしていた兵士もいるため彼らは待機で、今度はまだ負傷していない兵士たちで編成を組んでいるようだ。
リティアは悩みながら口を開く。
「瘴気が蔓延しているなら結界を張りつつ進まないといけないのでそう多くは連れていけないですね」
「ごめんね、結界の作り方がわからなくて……」
「気にしないでください! それについては私の仕事ですから。ただ結界も完璧ではないため少しずつ瘴気が入り込むこともあるので、定期的に鈴の音を鳴らして瘴気を浄化して頂ければ助かります。そうして頂ければほぼ安全なはずですから」
「了解! それは任せて!」
「ありがとうございます。では私も護衛に指示を出してきますので少しお待ちください」
それに了承の返事をし、周囲を少し観察してみる。下水道の入り口は大きく生活用水が流れているのかあまり綺麗には見えず、外からでも湿った空気が感じられる泥や腐った水のような腐臭もわずかにある。その中から確かに禍々しい気配を感じるものの外に漏れだしていないのは現状としてはありがたいが強い違和感を同時に覚えた。
(瘴気を操れる人が存在するならややこしくなるよなぁ)
そんな人がいたらどこでもテロを起こせてしまうのと同じことになってしまう。出来ればこの考えが杞憂に終わることを願いながらまた周りを観察。負傷した兵士たちを治療する人、改めて突入しようと準備をしている人達、何やら難しい顔をして話している人達など様々だ。
(そういえば……あの軍師みたいな人はここにはいないんだ)
会議でもけっこう主導で発言していたセドリック卿と呼ばれていた男がこの場にいないことに気づいた。まあ、最前線ではなく後ろから指示を出す系の人だろうし、後方指揮を取っていても不思議じゃないかと今は考えないことにした。
そして、ちょうどそのタイミングでリティアが戻ってくる。
「お待たせしました。準備が出来たので向かいましょう。ナコさん、もし危険を感じたらすぐ教えてください。こと瘴気に関しての感覚は恐らく私よりもずっと優れていると思いますので」
「わかった。何か感じたらすぐ話すね」
「ええ、よろしくお願いいたします」
入り口の近くにはリベリカさん含む親衛隊の方々に兵士数名、そしてミッドレーさんの姿もあった。戦で功績を立てた人らしく好戦的な彼は指揮を取るらしい。
リティアは彼の横に並んで持ってきていた杖を掲げる。
「それでは結界を張ります。基本的には行動は結界の中で行い、一時的に出るにしてもすぐに戻ってきてください。そして突出はしないようにお願いします。仮に守れず瘴気に包まれた場合助けることはできませんから。では、ミッドレー。指揮をお願いします」
「うむ、任された! では諸君、これより国を苛んでいる瘴気を滅ぼすために我々は前に進む! 恐れず、威風堂々と、国を背負い進め!」
彼は自身の持っている大きな槍を空に向ける。瞬間、おおっ! と兵士の声がピタリと重なる。統率と士気は高い。
そしてリティアが持ってきていた杖を掲げて祈るような言葉を綴ると噴水広場で見た結界がより広く展開される。
今日持ってきている杖はリティア専用に作られた力を持つ杖らしく、それを媒介にすることでより強い聖力を扱えるらしい。
「よしっ、それでは結界から出ないように全軍前進!」
そしてミッドレーさんの号令に従って兵士と私達は進み始めた。
ただの下水道への入り口がまるで大きな獣の口のように感じたのは、ただの恐怖からだと思いたい。
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