29.緊急事態
バタバタと準備──といっても私は大した持ち物もないので軽く身支度を整えてリティアに続いて外に出た。既に親衛隊の中から選ばれた兵士たちが待機しており、そこには当然リベリカさんの姿もあり目が合うと微笑んでくれた。こんな時でも余裕のある姿は少し慌てた心を落ち着かせてくれる。
「すぐ出発します!」
「はっ!」
リティアの一声で隊の人達は綺麗に整列し進軍を開始する。王宮の入り口から門まで遠いので私とリティアはいつも通り馬車に乗っての移動となるがそこでリティアから説明が入る。
「すみません、もう少し余裕を持って行動できるはずが……」
「その感じだと瘴気関係だよね」
「はい。斥候隊によると一見しただけでは何ともないのに下水に入った途端、瘴気に襲われたらしいのです」
瘴気というものは基本は広がっていくもので、発生すると浄化しない限りその場所を中心に汚染地域を増やしていく災害だ。そういう認識だったのに今回はまるで下水道を中心に外には出ず溜まっているような動きを見せているらしいのだ。
「もし相当濃い瘴気であった場合下水道が繋がっている場所のどこからでも瘴気が噴出する可能性があります。本当は慎重に調査を行うべきではありますが一刻を争う事態になってしまいました……」
「放置している場合じゃないってことだ」
確かに彼女の言う通り水は人々の生命線だ。この街で言うと噴水広場や井戸そこが瘴気に汚染されればライフラインが崩れる。それに王城だってそうだ。あの広すぎた浴場すべてが瘴気に覆われるだけでもとんでもないことになる。
「そしたら片っ端から浄化していこうよ! 私のこれもあるし!」
そういって神楽鈴を取り出す。不謹慎だけど念じれば手元に現れるこの感じは頼もしいしかっこよさもある。リティアもその力を見た人物だからありがとうございますと少し余裕を取り戻して微笑む。
(だけどなぁ、なーんか引っかかるなぁ……)
ここに来る前の神様の言っていたこととだいぶ状況が異なっている。神様は瘴気のことを自然発生する災害のようなものと言っていたけどもしこれが人為的な物、例えば闇の教団とかいう変な奴らの仕業だったとしたら、根本的に間違っているのだ。
「家でダラダラ寝ているだけの生活が……」
「何かありましたか?」
「いや、早く解決させてゆっくりしたいって思って。畳が恋しくなったよ」
「たたみ……?」
「あ、そっか。こっちにはないんだ。初めて会った時座ってもらった場所の床のこと。あれは畳って言って寝転ぶと気持ちいいんだこれが」
「床の上に……寝転ぶんですか?」
リティア的には、というかこっちの文化だと床に寝そべるのは道に寝そべるのと一緒ぐらいの認識なのかもしれない。でも、あの気持ちよさはぜひ体験してもらわなくては。
「そうそう、私の国では普通のことだったよ。この件が終わって神社に泊まりに来た時一緒に寝そべろうね」
「……そうですね。そのためにも早く瘴気を何とかしましょう」
そして馬車に揺られることしばらく、やっとついたそこは地獄とまでは言わないが中々悲惨な状況のようであった。リティアと同じように聖力を扱えるシスターや神官と思われる人たちが瘴気に苛まれた兵士を癒している。が、その負傷者の数は中々多い。
「おお、姫様!」
馬車から降りて早々。全身を鎧に包まれた者がガシャガシャとやってくる。手に持っている巨大な槍はこっちを向いていなくとも恐ろしい。
「お待たせしました。状況の説明をお願いします」
「はっ!」
兜を脱ぐとそこから出てきたのはさっきの打ち合わせでいたミッドレーさんであった。まさか最前線にいるとは思っていなかった。リティアの言う通り相当な武闘派なのだろう。
「状況は伝わっている内容通り、入り口から入った瞬間瘴気に襲われ偵察隊はほぼ壊滅……幸いにして入り口だったので助け出すのは容易ではあったが……」
彼は悔しそうにせめて実体のある敵ならば叩き潰せるのにと憤慨していた。あの獣のような瘴気なら倒せそうだが気体のような瘴気には部が悪そうだ。
「わかりました。ひとまず治療からあたりましょう。手が足りていないようですし」
この国で聖力を扱える者は多くはないとはあらかじめ聞いていた。しかも以前の瘴気騒動で命を落としたものも多くいるらしく、さらに減っている状況だ。
(確かに治療が間に合っていない……)
瘴気に侵されると聖力による治療のみでしか回復は望めない。外傷とは違い瘴気を飛ばさないと意味がないからだ。そしてリティアは今からそれをやろうとしている。
「待ってリティア」
「ナコさん? どうしましたか?」
「下水道の中の調査に入るなら瘴気の対応に慣れているリティアが動けた方がいいと思うから、ここは私がやろうと思う」
「え、ちょ、ちょっと待ってください!」
リティアは私に身を寄せて小さな声で話す。
「ありがたい話ですが、そんな目立つことはナコさんが……」
「いやぁ、確かにそうは言ったけどさ。それを気にして何もしないってのはやっぱり違うと思うし、それに出来るのにやらないってのは私としても非常に気持ち悪いからさ」
「ですが……」
「だいじょぶだいじょぶ! それを見てもしも騒がしくなったとしてもリティアが守ってくれるでしょ!」
そう明るく告げるとリティアはうんうんとだいぶ悩んでいたが最後には私に頭を下げた。
「…………ありがとうございます。どうか皆さんをお救いください」
「おまかせあれ!」
私は負傷者の人達が集められている場所の中央まで行く。そして祈りを込めて神楽鈴を天に向けて鳴らす。
瞬間、澄んだ鈴の音が広場に響き渡り騒ぐ声や負傷者の悲鳴も、何もかもが一瞬止まったようだった。
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