26.会議の場
リティア視点となります
この場にナコさんを連れてこなくてよかったと紛糾する会議室の様子に私はため息をついていた。
「だから、今回のことは異例だと言っているでしょう! 国を挙げて調査をする必要があります!」
「バカを言うな! やっと国民も不安から解放されたというのにそんなことをすればまた悪影響になるだろう! まずは様子を見るべきだ!」
「そんな悠長なことを言っている場合ですか!」
会議の場にはお父様含め他の重臣達が集まっており既に議論が白熱していた。基本貴族で構成されている彼らも決して一枚岩というわけではなく、それぞれが思惑を持っているため今みたいにぶつかり合うことは珍しくない。
「みな静まれ! 今からリティアより実際に現場であったことを説明してもらうから傾聴するように!」
途端に場が静まり返り視線が私に集まる。今となっては慣れたものだけど貴族の方々の視線には色々な思想が入り混じっており決して気持ちのいいものではない。
そんな視線を振り払い私は今回起きたことを説明する。といっても私自身巻き込まれた形で何が起こっていたのかはわからないので、その時の状況を最初から話すことになる。
「それで私達が休憩していた時に突然噴水から黒い泥水のようなものが溢れだしてきました。そこからは以前に戦ったことのある黒い獣が現れたので、それは瘴気と断定して間違いないでしょう」
さて、問題はこの後である。あれだけ目撃者がいた以上、流石にナコさんのことを隠し通すのはまず難しい。恐らくこの中にもそのことの報告を受けている者もいるはずで、ぼかし過ぎてしまうと勘繰られてしまい変な行動を起こされたらたまったものではない。
しかし、伝え方を誤るわけにはいかないと思考していたら貴族の一人が横から入ってくる。
「姫様、我々も内容についてはある程度聞いておりますゆえ、問題はその瘴気についてどうするかと、その瘴気を消した少女の話を中心に話して頂けますかな? なんでも異国の聖女だとか?」
早速危惧していた言葉が響く。その発言者は大きな図体が目立つ貴族の一人であった。
「ミッドレー殿! 姫様の言葉に割って入るなど無礼な!」
ミッドレーと呼ばれたその男は鍛えられた肉体が特徴で主に軍事的な力を持つ貴族だ。良くも悪くも自分の考えに素直でありこうして会話中に割り込んでくるのもよくあること。実際判断力もあり優秀なところもあり、国が瘴気に迫られていた時も真っ先に私兵を投じ被害を最低限に収めたのは彼であった。
「私はここにいる皆の思っていることを代弁したまで。実際にそうではないのか?」
彼が呆れたようにそう言うと彼を制止させようとしたもの含め皆が沈黙する。それが肯定の意であるのは明らかだ。しかし、それを遮ったのはお父様だ。
「ミッドレー殿。まずは説明を聞くように私は言ったつもりだ。あまりにも驕慢な態度を正さぬなら退室してもらう」
「これは失礼を……」
流石にお父様に逆らおうとはせず彼は引き下がる。私はそこから再び話し始めるが、結局どうしてもナコさんの話題は触れてしまう。
「先程話にも上がった方のことですが確かに彼女は異国の聖女です。本人は旅をしている身分のため素性については出来るだけ隠して欲しいとのことでしたのでここでは控えますが、実際に彼女と協力して噴水から湧き出る瘴気を浄化することに成功しました」
にわかに会議の場がざわめく。今まで瘴気というのは完全に浄化するには時間もかかり被害も相当広がる。もしナコさんがいなかったら恐らく噴水広場一帯はしばらく瘴気に汚染された場所になるだろう。それだけ優秀な聖女と聞いて目の色を変える貴族達。何とか自身の陣営に引き込もうとしているのだろうか。こうなるからあまり説明はしたくなかった。
(確かにナコさんに頼れば解決することも多いですが、それは彼女が最も望まないこと……)
今のところ彼女が瘴気の山に下りてきた神子であることは隠せている。初めて会った時にいた兵士は親衛隊のみで箝口令はキチンと命じているし、それを必ず守ってくれる確信はある。
(でも、それも時間の問題でしょうね……)
瘴気の山もまだ危険があるからと立ち入りは制限されているが、いずれ頂上に出来た聖域もそこを住まいとするナコさんのこともバレる時が来るだろう。それまでに迷惑にならない様下地を作らなくてはならない。
そう思考を脱線させていたら問いが飛んできた。
「実際、今回の瘴気は自然発生ではなく人為的に発生したものではないかと話が上がっているのですが、これについて姫様はどう思いますか?」
「……まず、それを言い出したのはどなたですか?」
「私です」
「セドリック卿……」
そうして手を挙げたのは重臣の中でも立場が高い者だった。見た目は若く年齢も30代だが思慮深く広い視野を持ち、軍事面や政略面において大きな力を持つ、この国における軍師の役目を担う男だった。
「今までの瘴気が発生する場合と今回の件を比べると明らかにおかしいと思います。基本的に瘴気というものは戦争後など負の存在が大きいところから湧くことが多い。瘴気の山など例外はあれど今回のように賑わっている王都の中心で起きることはないはずです」
彼の静かながら力のある声が響き場を制している。
「私の判断としては誰かが人為的に瘴気を起こしたのではないか、もしそうでないとしたら『負』の何かがこの王都にあるのではないかと考えます」
「であるなら! 早急に調査を行うべきだ! また同じようなことが起きた時にすぐに対処できるとは限らんだろ!」
彼の言葉が終わった瞬間にそう騒ぎ立てる者が現れ、またそれに反論する声が上がりまた騒々しくなる。私としてもどこか今回の件には疑問を抱いているのは確かだけど、それを勝手に断定し混乱を作るわけにはいかない。
「はぁ……」
一体この会議がどう着地するのか見当もつかない。流石に瘴気のことで利権を得ようとする者はいないようだが、結局責任やら兵士の投入についてやらで損得が発生するので長引くのが常だ。今でこそ瘴気から回復した身だからいいが、以前は苛まれた絶不調の状態でこういう会議に何度も参加していたから良い思い出なんてあるはずもない。
流石にお父様も一回場を鎮めようと立ち上がったのだが、その時とある若い貴族が立ち上がってとんでもないことを言い放った。
「そ、それならその旅の聖女様も共に調査してもらうのはどうでしょうか!」
「え……?」
その発言が起こる可能性は高いと思っていた。だけど一番聞きたくない言葉でもあった。
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