21.いざ城下町へ
馬車で通っただけと実際に降りて歩いてみるのとでは全く見える景色が違う。そう私は実感していた。
「賑わっているねぇ」
「そうですね。これでもだいぶ落ち着いてきつつはあるところですが」
瘴気の影響で国から避難していた人、もしくはそうした行動を取る選択肢がなく残った人。色々な環境の人達がいて、そんな彼らが瘴気が去ったことに喜んでこの騒ぎだ。
実際に祭りが開かれているわけではないものの、やはりお祝いとして出店もたくさん並んでいるし、呼び込みにも活気がある。
「そこのお嬢ちゃんたち! うち自慢の肉串食っていってくれよ!」
「異国の珍しいアクセサリーを扱ってるよ! お土産に買って行ってくれな!」
私は大きなフードで顔も殆ど隠れているため、商人達の狙いは姉妹であるリティアとミルナに向いているようで、歩くたびに声がかかる。
「ナコさんは何か食べたいものはありますか?」
「朝食済ませた後だし、何か軽いものがいいかなぁ」
「ミルナは甘いものがいい!」
「少し回ってみましょう。きっと希望のものがあると思います」
城下町は中央に大きな噴水があり、そこから各方面の区画ごとに住居や商業施設など別れている様式らしく、私達が今歩いているのは商業区域だ。出店が出ていたりレストランやブティックなどもあるところで恐らく今のところ一番人通りが多い所だろう。
「ほらミリナ。はぐれないように手を繋いで」
「うん!」
姉妹達は仲良く手を繋いで歩く。何か羨ましいなぁと思ったのでつい聞いてみる。
「私も手、つなごっか?」
「え!? い、いや、ナコさんと手を繋ぐなんてそれは……」
「まあ、そうだよね。知り合ったばっかりなのに手を繋ぐなんて無理だよね」
「あっ、いや、そういうわけでは」
「じゃあ、ミリナが繋いであげる!」
「お、じゃあもう片方で私と繋ごうか」
「えっ!?」
なぜか素っ頓狂な声を上げるリティアを尻目に小さな手を繋ぐ。ミリナちゃんぐらい子供だとこういうことに積極的でかわいらしい。ミリナちゃんを挟んで並んで歩き、リベリカさんは後ろにつく形で散策を続けていく。
「わ、私だってしたかったのに……ミリナ、手が疲れたらいつでも言ってね?」
「うん! でもまだまだ大丈夫!」
「元気だねぇ」
並んで歩いていたためリティアの表情が非常に残念そうなものになっていることは露知らず、私たちは色々と観光しながら歩き続ける。
このフィオレンティア王国は豊穣な土地が特徴なのだが、そこに関連して美しい花々が咲くことが有名でそのおかげで他国よりフラワーショップが多く存在しているらしい。
「それぞれが工夫して美しい花を育てて売っているんです。すごく人気が出ると王城でも取り扱ったりするので皆さんいつも頑張っているんですよ」
「そういえばお城でもたくさん花を見た気がする。あれは人気なフラワーショップのものなんだ」
「飾られているのは人気店のものとお城で育てている花ですね。お城にも花を育てる専用のスペースがあるのでもし興味がありましたら後で案内しましょうか?」
「うん、ぜひ!」
私は専門家の人みたいに花の名前をパッと出せる程ではないが綺麗な花を見るのは好きだ。一人旅でそういう観光地を訪れることぐらいはしている。きっとあれだけ広いお城にある専用スペースだったら壮観に違いない。
(せっかくだからリティアに何か花でも贈ってあげようかな。色々とお世話してもらっているし)
リティアの清純そうな感じの花を選んであげればいいかもしれない。そんなことを思いながらちょうど中央の噴水広場に戻ってきたところで、先程は感じなかった甘い香りが鼻をくすぐった。
リベリカさんはそれにすぐ気づいたのか正体を見抜く。
「どうやらクレープのお店が出ているみたいですね」
そこは人気店なのか人だかりができる程並んでおり、美味しさは間違いなさそうだ。それを見たミリナは目を輝かせてぴょんぴょん跳ねる。
「それ食べたい!」
「でしたら私が人数分買ってきましょう。あちらの噴水前のベンチでお待ちください」
「ありがとうリベリカ。それでは私達は向こうで待ちましょう」
あれ、離れてもいいのかなと思いリティアに視線を向けると私の意図に気づいたのか説明をしてくれる。
「護衛は周りににいますので私達がまとまっているなら大丈夫です」
「……いる? そんな人」
「はい。気づかれないように色んな場所で控えていますよ」
キョロキョロとあたりを見渡しても歩いているのは一般的な人しかいないように見える。挙動不審な人もいないし立ち止まってこちらを伺っているような人もいない。
(ほ、ほんもののプロってやつか……)
そりゃ横にいるのはこの国のトップの娘たちである。警備なんて最高峰のもので何の問題もないのだ。その対象に自分も含まれているのも知らず私達はベンチに座る。
「ふんふーん♪」
間に挟まっているミリナはとても上機嫌で足をプラプラさせながら鼻歌に興じている。パチリと目が合うとにっこりと笑う姿はリティアと似ているところもあるが底抜けの明るさは彼女特有で見ているこっちも笑顔になってしまうぐらい可愛さが溢れている。気が付いたら思わず頭を撫でているくらいには。
「えへへ」
サラサラした髪は心地よくいつまでも撫でていたい心地よさがある。リティアはこんな妹に慕われて幸せだろうなぁとみてみるとなんだか複雑な表情でこっちを見ていた。
「リティア? 何か今日様子がおかしくない?」
「え!? いや、そ、そんなことないですよ!?」
「そう? ならいいんだけど。でも、ミリナみたいな妹がいて羨ましいよ。私は一人っ子だからさ」
そう言うと撫でていたミリナが瞳を輝かせて言う。
「だったらナコ様もねーさまになればいいよ!」
「確かに……ミリナみたいなかわいい妹が出来たら私も嬉しいかも」
「本当!? じゃあ今日からナコねーさまって呼ぶ!」
「ミ、ミリナ……!」
そういって腕に抱き着いてくるミリナの可愛さに萌えながら慌てているリティアを見て小さく笑う。それなら私とリティアはどっちが姉になるだろうか、とそんなことを考えていたら……
「ん……?」
後ろにあるベンチからチクリとした感覚。この異様な気持ち悪さと不快な感じはあの時女王様から感じたものと同じ。
「ナコさん?」
ベンチから慌てて立ち上がった私を姉妹は訝しげな眼で見る。しかし、今の私はそれどころではなかった。
(な、なんで噴水から瘴気が!?)
城下町中央のシンボルになっている噴水。いつのまにか綺麗だった水は黒く変わり怪しく泡立っており、そこから黒い気配が広がり始めていた。
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