2.目が覚めたら異世界ですかそうですか
「おぁ……?」
情けない声と共に目を開く。ぼやっとする視界と感覚から寝起きだと認識する。
「まだ目覚ましなってない……今なんじぃ……?」
いつもはうるさく鳴り響いて私を現実に叩き落す悪魔だが今日は私のほうが早かったらしい。
起きたばかりに鳴られてもしんどいので時間の確認も兼ねて枕元に置いてあるそれのスイッチを切ろうと手を伸ばす。
「あれ?」
しかしその手は空を切る。何度も体を預けてきたベッドのヘッドボードにある目覚ましの位置は変えていないはずで、例え寝たままでも触れるはずなのになぜかないのだ。
落ちたのかずれたのか……面倒くさいけど確認のため目を開けて起き上がる。
「あれ?」
しかし出てきたのは先程と同じ台詞。ただ、目覚ましがないことに驚いたのではなく、視界に広がる光景がありえないものだったからだ。
元々私が住んでいたのはあるアパートのワンルーム。防音だけはしっかりしたくて選んだ鉄骨鉄筋コンクリートの部屋で、至ってシンプルな一人暮らしの部屋。それが今は……
「なんで畳? え、えっ? 障子? いや、部屋ひろっ!」
そこはまさに和の空間であった。広くて高い天井、畳や障子、綺麗な木目の柱。とある田舎の広い家みたいな光景が広がっていたのである。
そして自分が寝ていたのはベッドではなく分厚くて上等な布団だったらしく、そして目覚まし時計なんかどこにもなかった。
「え、なに、誘拐された?」
最初に思ったのはそれだったがそれにしては周りは静かだし別に拘束もされていないし、ドッキリ何か仕掛けられるわけもない。
そこでふと、思い出す。
『何もしなくていいから異世界に行ってくれないかしら?』
ドクン、と胸が高鳴る。いやいやそんなわけ、そしたらこれも夢の続きでしばらくしたら目が覚めて現実に戻るんでしょと、あえてマイナスな方向に考えながら布団から起きて畳の上に立つ。
「なんか低い」
視界がいつもより変に低い位置にある気がする。決して天井が高いから低く感じているわけではない。明らかに体のサイズが子供のように縮んでいる。
「……あとなんで和服着てんの私」
ごく一般的なパジャマを着ていたはずなのに今は時代劇とかで見るような簡易的な浴衣を身に纏っており、そしてついでに確認した手や足の大きさが明らかに子供のそれだ。
「なんなの……どうなってんの!?」
別れ際に女神の言った「憧れる理想の姿」というもの。あの時私が思い浮かべたのは日常系アニメの狐っ子主人公。その特徴は雪のように白い髪とフワフワの耳と尻尾が特徴で、とっても緩い性格が特徴の"小さな女の子"である。
私は恐る恐る顔の横に手を伸ばす。
「耳が……ない!」
本来あるはずの位置に耳がない。そしてゆっくりと頭の上に手を移動させるとモフっと心地よい感触。
「わお」
ゴソゴソと触る音がはっきりと聞こえることからそれが耳として機能している器官であることを認識し、
「まさかっ……」
そして臀部付近に手を伸ばすととても柔らかいふわふわの感触。そう、尻尾である。
「…………」
以前は肩までの長さだった髪が今は腰の少し上まで伸びており、それはそれは雪のように大層美しい白銀の髪であった。
「ど……どうなってんのおおおおおお!!」
静かな空間に私の悲鳴が響き渡った。
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「うん、これは夢。たぶんそのうち覚めるやつ。そうだ、そうに違いない」
普段はひとり言を発さない私だが今日に限っては別である。ブツブツと呟きながらも障子を開けて外に面した廊下に出る。少しひんやりとした早朝の透き通った空気と木造の匂いを感じながらとりあえず深呼吸。
「そもそもどこなのここ……昔の家みたいだけど」
ちょっと落ち着いたので周りを確認してみると廊下から見える光景で立派な庭と塀があることはわかった。ただ、塀が高いのでその外がどうなっているかはわからない。ただ、空は雲一つない快晴で空気はすごくおいしく感じる。
「とりあえず散策してみるか……」
歩くと少し軋む音を出す廊下を進む。さっき寝ていた部屋を仮に寝室としたのだが、他の部屋も全て和室でちゃぶ台や座布団が置いてある部屋とか、大きな箪笥が並ぶ部屋とか、いかにも人が住んでいた場所ですよ感がある。
「それで、ここは台所?」
突き当たりまで歩くとそこにはこれまた広い台所があった。昔ながらの少し古い感じの水道はまだわかるのだが、なぜか冷蔵庫や電子レンジ、ガスコンロなど現代の家電が並んでいる。
その台所にある棚はガラス張りだったため、無意識にそこを見つめると目の前に美少女が映った。
「こ、この可愛い女の子は誰!?」
耳や尻尾があるのはわかっていた。しかし、初めて顔を見た私はそのあまりの美少女っぷりにセルフ驚きを起こしていた。
髪は白銀でさらさらと揺れ、大きな狐耳は自分の物ながら触りたいほどモフモフだ。そして顔つきも成人女性のそれではなく、ただただ純粋に可愛い子供になっていた。
「一旦、ツッコミはあとにしよう。うん」
色々と、色々と言いたいことはある! が、とりあえず思考をさっぱりさせたいので水道をひねってみる。
「……冷た」
そこからはひんやりとした綺麗な水が流れ、顔を洗うと漸く意識がはっきりとした。
「ここが家だったら玄関もあるかな」
そのまま広い家の散策をしているとやっと玄関らしい場所に出た。
玄関にある土間は広く、そこに雪駄が何セットか置いてある。小さな足をそのまま通してみるとサイズはぴったりでちょっと怖い。
「……大丈夫だよね。開けた瞬間、魑魅魍魎に襲われるとかないよね」
玄関も古い家特有の引き戸でガラス部分から差し込む光は明るい。私は意を決して勢いよく扉を開けた。
「わぁ……」
最初に出てきた言葉はそれだけだった。
開けた視界に飛び込んできたのはちょっと遠くに見える真っ赤な鳥居。そして立派で厳かな造りの木造の建築物。
その建築物のところには大きな賽銭箱と大きな縄つきの鈴。
そこから鳥居まで向かう道はきっちりとした石畳が敷かれており、その側面は玉砂利がびっしりと敷かれている。
「神社やん」
そう、そこは神社であった。それも年末年始はしっかりと込みそうな立派なやつである。そこで自分が寝ていた場所が社務所であることも理解できた。
「本殿」と「拝殿」、そして「社務所」が揃うこんな立派な神社に、私は何故かポツンと一人存在しているのであった。
「ん? 日本かここ? いや、でもこんな場所の神社なんて」
その時である。
『グギャア、グギャア!』
私の真上を飛んでいく大きな物体。鳥にしては大きくその身は真っ赤で鱗が生えており、狩りをするゲームとかでよく見たようなモンスターが飛んでいた。
「…………景観、台無しだよ」
それが私の異世界生活スタートの一日目であった。
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