13.やっぱりいい加減な神様
「流石にこれは怒っていいやつですよね」
「あれぇ、話したと思ってたんだけどなぁ」
神様は白々しく笑っている。それでも無言でジトーッと見つめ続けた結果、やっとその手を前に合わせた。
「ご、ごめんねぇ。てっきり全部説明したものとばかり」
「いやいやいや、フィルターなしの清浄機ってそれはもうただの送風機だよ! じゃあ山周辺にあった瘴気は何でなくなったの!? 女王様の瘴気は!?」
確かに吸収したはずだがもし女王様の瘴気を浄化出来てなかったら大問題である。
神様はうーんとしばらく考えると私の近くに来て、さっきまで黒くなっていた耳やら尻尾やらを無造作に撫でてきた。
「んんっ! な、なんですか!?」
自分で触った時とは違うくすぐったい感触にびっくりして後ずさるが、そんな私に特に気にせず神様は口を開く。
「山の瘴気についてはたぶんナコちゃんを送った時にたっぷり聖力を付与しておいてからそれが爆発したのかしら……あと貴女に取り込まれた瘴気については体の中で何とか抑えたみたいね。まあ、私の眷属だから貴女自身にも多少はそういう力はあるのかも。でも危ないから次からはしないでね」
「誰のせいだと……」
睨め付けると誤魔化すように笑われた。瘴気について問題がなかったことは安心したが一歩間違えていれば大惨事の可能性もあったのではないか。しかし、神様はやっぱり気にしていないのかポンと手を叩くとニコニコと張り切って口を開く。
「それじゃ、今回は何とかなったけど次回からちゃんと問題がないようにフィルターを作っちゃおう!」
「……そもそもフィルターってなんなんですか?」
「そのままよー? 瘴気を取り込んで抑え込む道具ね。形はないから何か適当な……うーん、持てやすい棒状の物がいいかしら。何か想像してみて」
「棒状? そんな急に……」
相変わらずの抽象的な言葉に訳も分からず頭を捻る。いきなり言われて想像したのは今の自分は巫女さんの格好だとして、似あうものだとしたら神楽鈴だろうか。あれは確か巫女さんが持って舞うことで邪を祓う目的があったはずだ。
「それいいわね! じゃあ、それにしましょう!」
「思ったことをそのまま形にするのやめてくれない?」
そのせいでこんな姿になったというのに……まあ、今回に関しては目的含め悪くない考えだと思うから目は瞑るが。
「ちょおーっと待ってねぇ。すぐ作っちゃうから」
神様は祈るように手を合わせるとそこから光が溢れだす。しかし恰好が私服なのでどこかチグハグだ。そして特に時間もかからず私の想像したものが神様の手に出来上がっていた。
「はい出来た! さ、これを持って」
「ど、どうも」
私服の神様から神楽鈴を受け取る。シャラン、と神秘的な音が鳴り響くと同時に神聖な気配が周辺を満たして不思議と体が軽くなっていくような気がした。
「これは貴女が願えば手元に出現するようにしてあるから、何か怪しい所とかあったらこれを鳴らしといて! あと、瘴気を勝手に吸い取るけど定期的に手入れはしておいてね! じゃ、後は適当によろしく~」
「ちょちょちょちょ!」
そして、好き勝手に色々と伝えてあっさりと去ろうとしている神様を私は必死に呼び止める。
「なに? まだ何かあるの?」
「あの、結局山の頂上の神社って何なんですか? 何か家電は勝手に動くし食料は補充されるしで、ありがたいけど怖いんですが」
「うーん? あれはナコちゃんの要望を叶えた形だから貴女に都合が良い現象が起きているだけねぇ」
「……私が望んだことがあの神社の中で起こるってこと?」
それはあまりにも都合が良すぎないか、とツッコミたかったけどそのままでいいから口を閉ざした。変に口を出してじゃあやめるなんてなったらとんでもない藪蛇である。
「そうそう。ああ、でも兵器とかあまりにも影響を及ぼしすぎるものは勝手に弾かれるから、あくまでも私生活の範囲内でね」
「なるほど……それならありがたく使わせてもらおうかな」
「うんうん。聞きたいことはそれだけ?」
「あと一つだけどうしても確認したいことがあるんだけど……」
それは、こっちに来てからなんとなく気にはなっていたことで、今回のリティアの件で強く意識してしまったことだ。
「あのさ……その、別にこっちの世界に飛ばされたことは気にしてないし寧ろ快適に過ごしてたんだけど、元の世界で私のことってどうなってるのかなーって……」
私は元の世界には思ったほど未練がない。特別親しい相手もいなかったし何かやりたいことがあって必死に生きていたわけでもない。だから異世界に飛ばされてもそこまで悲観しなかったし何なら社会人の頃よりストレスフリーに過ごしていた。
だけど、やっぱり家族はいるわけだし友人もいるにはいる。だからいきなり神隠しの如く消えてしまって、それで心配させているならそれだけが心苦しい。
「ん? どういうこと?」
だけど神様の反応は何か軽かった。
「いや、私が消えた世界はどうなってるかって話なんだけど……?」
「え、ないよ?」
「は?」
ない。というのはどういうことだろうか。私が消えて世界が消えたとかそういう……いや、でもこの神様はたぶん東京を満喫しているはずだ。私がウンウン頭を捻っていると彼女は答える。
「何か勘違いしてそうだけど元の世界にもナコちゃんはいるよ?」
「……はいい?」
「こういうのナコちゃんの世界ではえーと、あ、パラレルワールドっていうのかしら。つまり『普通に元の世界で生活しているナコちゃん』と『異世界に来ちゃったナコちゃん』がいて、それを観測しているのは私だけなの」
「んんん? じゃあ、私が消えた世界もあるってことじゃ?」
「そこはナコちゃんがいなくなった時点で閉じられているから誰かが観測しない限りは存在しないわよ」
「つ、つまるところ……?」
「別に他人に心配をかけているとか心配する意味はないってことね。ナコちゃんそういうところあるわよねぇ。こっちの生活ぶりをたまーに見てるんだけど困っている人は見過ごせないから損ばかりしてるもの」
「うっ……」
それは……思い当たる節がある。神様はそんな私を見てクスリと笑った。
「まあ、一つ言えるのは貴女が消えて心配している両親は存在しないし、気にするだけ無駄ってやつねー」
「……そーですか。まあ、それならよかったです。はい」
彼女の言うこと全てを理解できたわけではないが、私が消えた後のことを心配している人がいないというならそれでいい。
(お母さん、お父さん、たぶんそっちはそっちで頑張っている私がいるとは思いますが、異世界でノビノビ生きている私もいますので、どうか健康にお過ごしください……)
などと、両親へのよくわからないメッセージを思い浮かべていたら白い空間が歪み始めた。
「あら、そろそろ時間みたいね。じゃあ、また近いうちに元気にやっているか会いに行くと思うから、それまでそっちでも楽しんでねー」
「……まあ、ほどほどにしときます」
そして、私はパッと目を覚ました。まず目に飛び込んできたのは知らない天井であり、そして自分がフカフカのベッドに寝ていることに気づく。
「あ、起きたっ!」
「ぴゃあっ!? え、だ、だれ……?」
そして突然横から響いた幼い声に跳ねるように驚く。ベッドの横、そこにはリティアをそのまま小さくしたような女の子が目をキラキラさせて私を見ていた。
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