10.城下町はお祭り騒ぎ
城門は顔パスというか馬車パスなのか、創作の世界ではよく行われている印象の荷物チェックなどはなかった。そりゃ、この馬車に加えて兵士の一隊が随伴していたら怪しまれることはないだろう。
「ナコさん、ようこそフィオレンティア王国へ」
巨大でぶ厚い城門が開く音と共に馬車がまたガラガラと進みだした。生まれて初めて本物の城門をくぐる初体験を済ますと窓から飛び込んできたのは人で賑わう城下街の景色だった。
「わぁ……」
窓からの景色なので全体が見えているわけではないが、街中を歩く人々やそれを呼び込む露天商の人達、ショーウィンドウに楽しむ奥様っぽい人達に走り回る子供達などなど、馬車の中からでもその賑わいははっきりと感じられる。
(風景はテーマパークとかで造られているやつに似ているけど住人とかいなかったし、これが本物なんだなぁ)
やっぱり王家の馬車だからか通行人の視線は集めているようで窓から眺めていると、ふと通行人と目があったりする。元々人付き合いが得意じゃない私は気まずさから慌てて窓から見えないように身を隠す。
「どうしたのですか? 何か変なものでも?」
「いや、何か条件反射というか、日頃の癖と言うか……」
「?」
対するリティアは時折馬車から手を振っていたしてファンサービス(?)が旺盛だ。そしてそのたび歓声のようなものが聞こえるので国民の皆様から慕われているようだ。
(確かにかわいいしなぁ)
輝く金髪を靡かせながらニコニコと小さく手を振る姿は確かにファンがいてもおかしくないぐらいの魅力がある。そんな私の目線に気づいて彼女は嬉しそうに外を眺めながら言う。
「瘴気が消えてからここ最近はお祭り騒ぎが続いてまして……一時的に避難していた人達も戻ってきたり商人の方も来るようになったのでずっとこんな感じなんですよ」
「へぇ……」
そんな彼女の明るい笑顔と街の盛況ぶりから、逆にどれだけ追い込まれていたのかは想像に難くない。
「それもこれもナコさんのおかげです。恐らく実感があまりないのだとは思いますが、貴女の発する聖力は今もなお輝かしいばかり。やはり浄化の力を持っているのだと思います」
「うーん、その聖力っていうの私はまったく感知できないんだけどなんでだろ?」
「そうですね……私などは適性があるので聖力を使わせて頂いてますが、ナコさんはあれだけの範囲の瘴気を打ち消し浄化することが出来るのでそもそも存在自体が"聖"なのかもしれません」
「それそのものってことかぁ……」
もしそうだとしたら"空気清浄機"適用範囲は山周辺のとってもお得なタイプである。リティアの言うことが本当なら私は本当に女神にそういう役割を持つ存在としてこちらに送られたのだろうか。そうだとしたら瘴気で臥せってしまった彼女の母親も治せるのではないかとちょっと期待してしまう。
(そういえばあの神様、そのうち夢の中にでも挨拶に来るとか言ってたけど全然そういう感じないな……)
失礼だけどだいぶ適当な神様だったしあまり期待せず気長に待とう。そう思っていたらまた窓が叩かれる。
「まもなく王城に入ります。少し段差がありますので揺れにご注意ください」
リベリカさんからの声でいつの間にか城に近づいていることに気づく。この王国は広大な城下町と王城からなり、そこから領土内に複数の街や村が存在しているらしく、今回行くのはそこの本丸である。
さて、その中心にある王城なのだが、私はまたまた目を奪われていた。
「でっかぁ……」
山を下りてから見る景色に全て感動している気がする。しかしそれだけ目に映る風景がすごいのだからしょうがない。
城といえば日本にある観光地化されているところや、洋風なら某何とかランドなどの造られたものは行ったことがあるものの、本物の城というのを実際に見てみるとそれらとは全く違うことを思い知らされる。
聳え立つ城壁は外敵からその身を守るためただ強固に力強く、馬車から見てもただの壁だというのに威圧感すらある。
さてそんな外と内を隔てる城門、そこもあっさり突破……ではなく、流石に王家の馬車とはいえど軽くチェックされた。
「あ、先触れをだしていますのでナコさんは普通にしていて大丈夫ですからね」
「いつのまに……」
流石にこんな所在がよくわからない狐娘をすんなり通すのはセキュリティ的に厳しいかと思っていたら既に連絡済みだった。
そのまま城門を通ると広大な庭に出た。庭と言うには広すぎる場所で等間隔にきっちりと樹木が植えられ、噴水や小さな建物、それと教会のような施設まであるようで馬車で城の入り口に着くまでも様々な景色が楽しめる。これが本物ってやつか……など勝手に納得していた。
「ナコさん、本来であればお父様含め挨拶をしてからというのが正式な流れではあるのですが、お母様のこともあるのでそちらについては省略してもよろしいでしょうか?」
「もちろん。そういうのまったくわからないし、むしろありがたいよ」
ただの元日本人に貴族的な礼儀作法を求められても非常に困るので現場への直行は助かる話でしかない。
「ありがとうございます……あの、ナコさんっ」
「ん? わっ、ど、どしたの……?」
向かい合う形で座っていた彼女が突然身を乗り出して私の手を握ってきた。瞬間ふわっと漂う少女の香りに柔らかい手の感触、そしてとんでもない美少女が目の前にいる光景。
(し、心臓に悪い! くっ、落ち着け私!)
何とか冷静を保とうとしていたらリティアが重い口を開いた。
「……お母様は私よりずっと長く瘴気と戦いたくさんの人々を助けていました。とても強くて優しくて……私にとって何よりも自慢のお母様なんです。でももう話すのも難しくなるほど弱ってしまって、聖力による治療もほとんど効果がなくて……」
そういうと握っている手の部分に額を当てるように俯いた。母が倒れた後もずっと近くにいたかっただろうにその気持ちを押し殺して、人々の為に力を奮ったのだろうという想像は難くない。
「……やれるだけのことはやってみるよ。うん」
そんなことできるのか、というとんでもない不安が襲い掛かってきたが、彼女の弱々しい姿を見てしまうとそう答えるしかなかった。
もし何も出来なかったらという恐怖もあるが今はそれを心の奥に押し込めて、神様がくれたこの力が良いように働いてくれることを祈るばかりだ。
「姫様方、間もなく到着いたしますので下車の準備を……」
そして長い旅路の末、遂に城に到着したのであった。
この扉の先に何が待ち受けているのか、今後どう関係してくるのか、何もわからないが今はただリティアのために動くだけだ。
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