1.これは夢ですか?
大変久しぶりの作品となります。
長く続けていきたいと思っているので、良かったらお付き合いください。
「何もしなくていいから異世界に行ってくれない?」
例えば知らない人に突然そんなことを言われたらどう思うだろうか。
周りには何もない真っ白い空間だけが広がり、そして目の前にはその空間よりも輝く長い金髪の美女が立っている。
「ん? もしもーし、聞こえてるー?」
「なるほど、夢か」
美しい女性、理解出来ない謎の空間。それが夢だと気づいた私はガックリと肩を落とした。
確かに現実世界は生きているだけでも大変だ。毎日生きるためにひぃひぃいいながら働いて気が付けば歳を重ねるだけ。そのやるせなさに絶望したのはここ最近の話ではない。
だから会社からの帰り道にある神社に毎日のように異世界に転生してスローライフさせてくださいとか、それが無理ならめっちゃ金持ちになりたいとかアホみたいなお願いをするのもしょうがないことで、しかしそんなことをしているからこんな夢を見ているんだと思うと悲しさと虚しさが同時に押し寄せてくる。
(わかってても起きた時にショックが大きいからこういう夢って嫌なんだよなぁ)
何だかんだ夢の中で私は期待してしまうのだ。もしかしたら本当に異世界に行けちゃうんじゃないかと。そして自分の理想的なスローライフを実現できるんだと!
それを人は、現実逃避という。
「はぁぁぁぁ……」
「ちょっと、貴女大丈夫?」
「あ、はい。夢なら早く覚めてくれって感じですけど」
そうひとしきり勝手に考えて落ち込む私がそう言うと、女性は一瞬キョトンとした表情をしてから、納得したように微笑んだ。
「なるほど、説明が適当過ぎたから信じてないのね?」
「めっちゃ詳細に語られても信じられませんが」
「まぁまぁ、そんなこと言わないで聞いてよ。私、けっこう本気で頼んでいるのよ?」
「はぁ」
美しい女性はまず自分のことを女神と名乗った。訝しげな目線を向けているにも関わらず澄ました顔は確かに美しいが、それと同時に胡散臭さもある。そんな彼女は私に尋ねてきた。
「あなたのお名前は?」
「宮石奈狐ですけど」
「ナコちゃんね! こっちの世界の名づけはよくわかんないけど良い名前だと思うわよ!」
「適当だなぁ……」
「それじゃこっちの世界について説明するわね!」
「それで話の持って行き方が雑だぁ……」
唐突な説明が始まった。
女神曰く──地球とは別の彼女が管理している世界があり、なんでもその世界が瘴気による浸食を受けているらしいのだ。女神様自身それを解決したいが神様は自分の作った世界に直接干渉が出来ないらしく、非常に困っているらしい。
「だから外界からその瘴気を払える人を用意して設置……じゃなくて住んでもらおうかと思ってね」
「……普通に拉致では? というか物扱いしてません?」
「いやいや気のせいよ! その証拠にちゃんと了承を取ろうとしてるでしょ?」
女神さまの純粋な悪気なしの言葉にちょっと引く。しかしそんな私を無視して話は続いた。
「そこで私の目についたのが貴女よナコちゃん! 毎日こっちの神様が宿る場所にお祈りしていたでしょう? あれのおかげでこうしてお話しすることが出来たのよ! それで、もちろん行くでしょ? もう飛ばしていい?」
「そんないきなり言われたってその……瘴気? なんて消せないと思うんですけど」
「ふっふっふっ、それは気にする必要はないわ! 貴女は私の世界にいてくれればいいの」
「どういう意味ですか?」
「えーっと、貴女の世界にわかりやすく言うなら……ちょーっと待ってね、今あなたの世界にあるもので表すから……あ、これよ! 空気清浄機!」
「…………物じゃん!」
詰まるところ設置型の置物になれという話であった。
「突っ込み待ちじゃないですよね!?」
「え? これ以上ない的確な表現だと思うんだけど」
「そんな心外な表情されてもこっちが困るんですが……」
私はため息をついて続ける。
「そもそも何で私なんですか。確かに神社で邪なお願いばっかりしていたのはそうですけど……他にも人はたくさんいますよね?」
「誰でもいいってわけじゃないのよ? 主体性があんまりなくて色んなことをなぁなぁで済ましている無害で怠け者みたいな人じゃないとだめだったの」
「けなされてるってことでいいですよね?」
そう怒りはするが確かに彼女の言う通りで主体性がなく、ただ過ぎる日々を過ごしているだけというのは事実だ。それでも面と向かってバカにされるのは心外である。無論、反論材料があるわけじゃないのでぐぬぬ……と唸るしかないんだけども。
「あとー、今の生き方に不満を持っていることかな。そういう人じゃないとまず来てくれないと思うし」
「それは……まあ、思ってますけど」
「そうでしょ! じゃあ、決まりって事でいいわね! あっちにいったら好きに過ごしてくれていいから。別にずっと寝ててもいいし気ままに旅に出てもいいし! ほら魅力的!」
「展開早いなぁ! まだ返事もしてないのに!」
「えっ、だめなの?」
心底がっかりした様子の彼女は大きなため息をついた。何というか夢の中とはいえこんな身勝手な神様がいることに驚きだ。そもそも私の夢だとするなら想像の中の神様ということにはなるが。
「まぁいいですよ。異世界でもなんでも出来るものなら飛ばしてください」
どうせパッと目が覚めたらいつもの狭い部屋の天井を見上げることになるのだ。そんな私の適当な回答に女神様は途端に大喜びする。
「やった! じゃあ許可もらったってことで! そしたらある程度融通してあげるから貴女の憧れる理想的な姿と環境を頭の中で浮かべてちょうだい」
「え? は?」
「さ、始めるわよ~!」
突然そんなこと言われても。と慌てて思いつくのはまず会社帰りに変なお祈りをしまくっていた神社だ。
稲荷様を祀っているそこは立派な狐の像が特徴で、そして神社と狐と言えば最近癒しを求めて見ている日常系アニメの主人公である狐っ子が思い浮かぶ。
日常系と呼ばれるそれは、とある神社に狐の巫女が現れてそれを見つけた近くの学校の女子高生たちとキャッキャウフフするだけの癒しアニメであり、仕事で疲れた私はその作品を何度もリピートして精神を保っていた。
特に主人公の一人である狐の女の子は白色でモフモフな耳と尻尾を持っているポヤンとした子で、女子高生達に撫でられながら可愛がられる姿に特に癒されていた。
「なるほど了解!」
なんてことを連想して考えていたら、女神様は勝手に納得したかのように手をポンっと叩いて満面の笑みを浮かべた。すごく、嫌な予感がした。
「いや待って!? なにをどう了解したの!?」
「じゃあ、そのうち夢とかで会いに来るから後は適当によろしくねー!」
「え、えっ」
瞬間、何もない真っ白い空間がさらに輝きだして視界が潰されていく。
「ちょ、うそでしょ。これって夢じゃなか──」
そして私の意識は途切れた。
本日は5話まで投稿する予定です。
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