第11章:魔法の終わりと愛の始まり
魔女はスープの入った瓶を手に取り、それが透明になっていくのを見せる。
「実はね、このスープに魔法なんてないのよ。ただの薬膳スープさ。少しのきっかけと勇気で、あなたたちの中にあった真実が現れただけ。私は、迷える心が引き寄せ合う瞬間を見るのが好きでね。本当の魔法はあなたたち自身の中にあって、スープはただ、そのきっかけを作っただけなんだよ」
ノエルとリアンは驚いて目を見開く。
「寿命の代償なんてなかったの?」
ノエルが問うと、魔女は優しく微笑んだ。彼女の瞳には、愛を見届ける者の静かな喜びが宿っていた。
「愛は命を削るものではなく、与えるものだからね。あなたたちの心が、お互いを見つけるのを手伝っただけよ」
魔女は小さな瓶を二人に渡す。
「これに残った最後の一滴。特別な日のために取っておきなさい」
小屋を出ると、雪は止み、満天の星空が広がっていた。一面に散りばめられた星々が、二人の未来を祝福するかのように瞬いている。
リアンはノエルの手を強く握り、囁いた。
「これからも、ずっとあなたのために弾き続けたい。聴いてくれますか?」
その言葉に、ノエルの心が温かく満たされる。ノエルは微笑み、応えた。
「もちろん!僕は、いつでもリアンの音を聴いていたい。だって...」
ノエルは頬を赤らめながらも、勇気を出して言葉を続ける。
「だって、好きな人の奏でる音は、この世界で一番美しいから」
リアンはノエルを引き寄せ、再び唇を重ね、星空の下で深いキスを交わす。リアンはノエルの体を優しく抱きしめ、彼の髪に頬を寄せる。リアンの体の柔らかさと温もりが、全身を包み込む心地よさに、ノエルは今この瞬間が永遠に続けばいいと願う。
リアンの指がノエルの髪を優しく撫で、その仕草に心が溶けるような感覚を覚える。星明かりの下で見つめ合う二人の目には、未来への希望が輝いていた。
「ノエルさん」
リアンが囁くように言う。
「俺たちの出会いは偶然じゃなかったんだね。きっと、ずっと前から、俺たちは互いを探していたんだ」
「うん、そうだね」
ノエルは微笑み返す。
「これからは、もう探さなくていい。ずっと一緒だから。それに……実はノエルさんに近づきたくて、エリサさんに頼んだんだ……フィーカで働きたいって」
リアンは恥ずかしそうに告白した。
「えー本当に?もう少し早く言ってくれたら良かったのに!凄い回り道しちゃったね!でも、僕たちらしいか」
森の木々がそっと揺れ、星々が優しく瞬く中、二人は寄り添いながら帰路につく。時々立ち止まっては見つめ合い、小さなキスを交わす二人の姿は、まるで永遠の愛の象徴のようだった。
かつて失われていた心の音色が、今は二人の間で美しく響き合い、未来への旋律を奏で始めている。
二人が小屋を出てすぐ、魔女は窓辺から二人の後ろ姿を見送った。満天の星の下、寄り添いながら歩いていく二人の姿に、優しい微笑みを浮かべる。
魔女はコンロに向かい、指をひと鳴らしすると、七色の炎が灯り、再びスープが煮え始めた。魔法の光に満たされる中、魔女は琥珀色の瞳を輝かせ、静かに呟く。
「愛は与えるもの、か……まあ、そういうことにしておこう」
鍋をかき混ぜながら、魔女は意味深な笑みを浮かべる。
「次はどんな恋人たちが迷い込んでくるかな?」
煙突からは再び七色の煙が立ち昇り、黒い森の夜空に溶けていった。二人が歩いていく森の道には、かすかに七色の光が残り、足跡が輝く。それは魔法ではなく、互いへの思いが具現化した証だった。