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第3話 ジャンボパフェ

 過去の出来事を一周目とするならば、今の僕は二周目ということになる。


 そして、彼女は生きている。今はまだ。


 病気について詳しく聞きたいが、彼女にとって僕はただのクラスメイトだ。

 それも今日から一緒になったばかり。そもそもずっと病気のことを隠していたんだ。いきなりそんなこと不用意に聞くわけにはいかない。

 

 それから教室で日向と話すことはなかった。

 でも、何度か目が合った気がする。


 放課後になって颯太が声を掛けてきた。

 始業式ということもあり、学校は早く終わった。


 教室を出て、下駄箱の前で待ち合わせ。

 二人は後から来るとのことで待っていた。


 ほどなくして、廊下を歩いてくる園田と、その隣に日向がいた。


 艶やかな長い黒髪、小柄で可愛らしい姿はほんと変わらない。


「お待たせ。ちょっと先生に呼ばれて遅くなったわ」


 当たり前だが、園田は赤髪じゃない。ほんのりと茶色い髪。

 けれど、すらりと長い手足に整った容姿はそのままだ。

 

「大丈夫! 俺たちも今来たところだ!」

「それ、外で待ち合わせのときに使うセリフじゃない?」

「一度言ってみたかったんだよな」


 颯太と園田のいつものやり取りにふと笑みがこぼれる。

 横に目を向けると日向も笑みを浮かべていた。


 ああそうだ。この瞬間が、僕はたまらなく好きだったんだ。


「って、それよりまずは紹介しないとな。こいつが都希だ。いいやつだから仲良くしてやってほしい!」

「……お、終わり? 颯太、さすがに簡単すぎない?」

「そうか?」


 両手を腰に当て、間の抜けた表情で首をかしげる。

 そういえばこんな感じだった。

 最後の記憶がスーツ姿でしっかりしていたので勘違いしていた。


「小野寺都希です。一年と二年では話したことなかったけど、二人の事は知ってるよ。園田さんと三城さんだよね」


 できるだけ平静を装って自己紹介した。

 すると園田が、なんで知っているの? という顔をしていたので、急いで補足する。


「えっと、颯太がずっとマネージャーの事が可愛いって言ってたから、すぐわかったよ。あと、友達の三城さんのことも」

「……え?!」

「ふうん、そんな事言ってたんだ? 私はいいけど、颯太、日向の事も見てたの?」

「あ、いや!? と、都希!?」


 慌てる颯太。豪快そうに見えて、意外にからかいがいがあることを思い出す。

 そしてどこか冷たそうに見える園田だが、本当はとても優しい。

 もちろん、それも一周目があったからこそ知っていることだが。


「だったら自己紹介の必要はないかもしれないけど、一応。園田瀬里です」

「――三城日向です。今朝はありがとうね。小野寺くん」


 日向が僕に笑いかけてくれる。

 今朝の不調を感じさせない、日向らしい明るい笑顔。やっぱり変わらない。

 本当はいつも無理をしていたのかもしれないけど、僕は日向のこの笑顔が好きだった。

 

「今朝? 何かあったのか?」


 考えるより先に言葉が出る颯太も、変わらない。


「何でもないよ颯太。それより、行かないの?」

「行く行く。瀬里、三城さん行こうぜ」

「ええ。駅前にオープンしたカフェに行くんでしょ」

「私、そこ行ってみたかったんだ」


 そして僕たちは並んで駅前へ向かった。


 一周目は、三人でどんな話をしたのだろう。

 カフェに行くのを断ってしまった僕はしばらくの間、日向と話しをすることはなかった。

 だからか、今こうして一緒に過ごせていることが嬉しく思える。


 そんなことを考えているとカフェに到着した。

 駅正面の横断歩道を渡り、右手にある。

 モダンな雰囲気の建物で、一面ガラス張りの窓にテラス席もあり、明るく開けたカフェだ。

 

 オープンから日がたってないからか、思ったよりも混雑している。

 

 少しだけ待って案内された席は、窓際、四人掛けのテーブル。


 何気なく座るも、すごく懐かしくなった。

 放課後、何度かここに来てたな。


「都希、もうちょっと寄ってくれ」

「あ、うん」


 颯太に促されて奥へ寄る。僕の隣に颯太、向かいに日向と園田が座る。

 一周目、四人でカフェに来ていたときは颯太と園田が並んで座り、僕と日向が並んで座っていた。

 男二人で並ぶとちょっと狭い。


 やがて店員さんが注文を取りにやってくる。


 颯太はコーラ、園田はカフェオレ、日向はオレンジジュース。僕は――


「ブラックコーヒーでお願いします」


 興奮していてわからなかったが、だんだんと眠気が襲ってきていた。

 多分、寝不足なんだろう。


 確かこの頃はスマホゲームにはまっていた気がする。昨日の僕も遅くまでやっていたのだろうか。


 ん、やけに静かだな?


「都希、お前いつからそんな大人になったんだ?」

「え? 何が?」

「いや、無理しなくていいぞ。俺はわかってる」

「何の話?」

「ブラックなんて飲んだことないだろ……無理しやがって……」


 何の話だと思っていたら、今が高校生だという事に気づく。

 この頃は一度もブラックコーヒーなんて飲んだことはなかったし、確かに渋すぎる。

 でも今はブラックコーヒーが飲みたい気分なんだ。


 とはいえかっこつけていると思われているのも恥ずかしい。


「小野寺ってそういうとこあるんだ」


 すると園田が冗談交じりで言った。


「ブラックコーヒー飲めるなんて、小野寺くんすごいね」


 隣で日向は感心したように頷いている。


 まあ、そう思われてもいいか。

 いや、やっぱり嫌かも。


「美味しいよブラック。でも、颯太には早いかもね」

「な、なんだとぉ!?」


 颯太が僕の脇腹を何度も突き、園田と日向は笑っている。

 高校生って、こんな事でも楽しめてたんだな。大学生になったからこそ気づけることもある。


 その後、飲み物が到着するまで、話が盛り上がり――なんてことはなかった。


 颯太はどこかそわそわしていて、園田と日向は二人で話をしている。なんだかぎこちない空間だ。

 

 勢いのまま四人で来たけれど、よく考えたらほぼ初対面だ。人見知りしているのかも。

 普通に考えたらそうか。


 颯太も彼女ができて喜んでいるけど、付き合いはじめてからはまだ日が浅い。

 実は緊張しているのかもしれないな。


 とはいえ、僕も何て話を切り出したらいいのか困っていた。

 颯太はずっとモジモジしているし、一応今日が初対面の二人との距離感も難しい。


 ……どうしよう。


 そのときふと、日向の日記に書いていたことを思い出す。


『せっかく行けた駅前のカフェ、本当は――』


 僕は、咄嗟に手を挙げた。

 

「あ、あのすいません!」


 気づけば動いていたという感じだ。

 店員さんがすぐに気づいて駆け寄ってくれる。


「はい。追加のご注文でしょうか?」

「あ、はい――えっと、このジャンボパフェお願いしたいんですけど」

「「「……え?」」」


『ジャンボパフェ、食べてみたかった』


 だったら、食べてみればいいんじゃないかと思った。


 でもそのとき、三人とも驚いた様子で、目を見開いていた。

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