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第2話 あの時代へタイムリープ

「都希、都希っ」


 誰かに名前を呼ばれて、ふと目を覚ます。

 どうやら眠っていたらしい。

 顔を上げると、人が密集し、体育座りした人たちがいた。


 え? ここは、どこだ? 体育館?


 そのとき、檀上で誰かがマイクを持って話していることに気づく。

 見覚えがある。あれは……高校時代の先生じゃないか?


 どうして? なぜ……そう思っていたら、後ろから指で突かれ振り向くとそこには颯太がいた。


「都希、始業式中に寝るなよ」


 短く切りそろえられた髪。懐かしい。やっぱり、こっちのが似合ってるな。

 そんなことより――。


「颯太、なんで? どういうことだ?」

「なんでって。三年目も同じクラスだからってそんな驚くことか?」


 三年目? 同じクラス?

 混乱しながらも周りを見渡す。よく見ると列には三年のときのクラスメイトたちが並んでいた。

 少し前には園田を見つけた。

 となると日向は……いない。


 他のクラスの列を確認したりして必死に探したが、日向の姿は見当たらなかった。

 これは夢……か? ならせめて日向と会わせてくれたらいいのに。


 しかし、リアルな夢だ。しばらく先生の話をボーっと聞いた後、校歌を歌うとかで立ち上がった。

 いや……そういえば三年生になった始業式、実際に日向はこのときいなかった気がする。


「……まさか」


 そのとき、ハッと思い出した。

 僕は列を抜け出し体育館を出る。


「都希? どこ行くんだよ」

「すぐ戻る」


 呼び止める颯太に適当に返事をして急いで駆ける。全校生徒立っていたため、幸い先生たちには気づかれなかった。


 向かったのは下駄箱。一番奥の棚。

 そこには、見慣れた女子生徒がしゃがみ込んでいた。艶やかな黒髪、間違いない。日向だ。

 いや、それより――。


「日向、大丈夫?」


 始業式の日、体調が悪くなって、ずっと保健室にいたんだと仲良くなってから話してくれたのを思い出した。学校に着いたものの、しばらく下駄箱で動けずにいたんだと。


「え? えっと……」


 突然声を掛けたからか、彼女は驚いていた。いや、それよりも僕を誰だかわかっていないみたいだ。そうか……僕たちは同じクラスになるのは三年生が初めてだ。まだ、話したことはないんだ。


「どうしたの? 立てる?」

「……ちょっと、足が……」


 どうやら震えて動けないらしい。僕は、ごめんねと言って日向の肩を支え、ゆっくりと立ち上がらせる。


「保健室に行こう。そこまで頑張って歩ける?」

「……うん。え、ええと、あ、あの――」


 何を困っているんだろう? ああそうか、僕の名前がわからないのか。

 

「小野寺だよ。小野寺都希。今日から同じクラス」

「……小野寺くん、ありがとう」


 そのまま保健室まで連れて行って、日向を先生に任せた。始業式に戻りながら、ふと我に返る。


 これはなんだ? 本当に夢? 現実なわけがない。

 でも……やけにリアルだ。

 ただ、もう一度日向に会えたことが嬉しかった。


 その後、校長先生の話を聞いて教室に戻る。


 ほどなくして、教室に日向が入ってくると、園田が駆け寄って話し始めた。

 二人はやっぱり仲がいいみたいで、何だかホッとする。

 さっきよりも随分と顔色が良くなっていた。


 それから日向が僕に気づく。目と目が合って、それから恥ずかしそうに少しだけ頭を下げてくれた。


「都希、何かあったのか?」

「いや、何でもないよ」


 どう考えても夢とは思えない。もしかしこれって、タイムリープってやつなのか?

 何をどう颯太に話そうか。席についたまま、何気なく机の中に手を入れるとノートが入っていた。そのまま取り出すと、それは、あるはずのないもの。


「……日記」


 それは彼女が書いた、やり残したことや、思いが詰まったノートだ。

 颯太に気づかれないように、机の下でこっそり日記を開く。



 四月×日

 今日は朝から体調が良くて授業もちゃんと全部受けることができた。

 放課後は瀬里ちゃんと萩原くんと駅前のカフェに行った。

 最近オープンした、ずっと気になっていたカフェ。

 私はオレンジジュースを飲んだ。

 瀬里ちゃんと萩原くんは付き合いはじめたばかりとは思えないほど仲がよくて、二人の会話を聞いていると私まで楽しくなった。

 私も、いつか好きな人とあんなふうに笑い合うことができるのかな。

 せっかく行けた駅前のカフェ、本当は――。


「都希、都希」

「え、なに? 颯太」

「今日、放課後空いてる?」

「え? あ、ああ空いてるよ」

「そっか、ならおっけー」


 日記に夢中になって呼ばれていることに気づかなかった。

 しかし颯太は相変わらず元気だな。


 クラスを眺めてみると、懐かしい顔ぶれがそこにあった。

 みんな楽しそうに話している。


 大学生になってから気づいたことだけれど、友達を作るのは大変だ。

 授業ごとに面子も変わるし、席だって固定じゃない。

 そう思うと、高校時代は凄く楽しかったな。クラスのみんなで協力して楽しむ行事がたくさんあった。ただそこにいるだけで自分も仲間なんだと思える空間だった。


「でさ、俺、都希に話したいことがあるんだよ! 聞いてくれよ、なあ! びっくりすると思うぜ!」

「はいはい」


 それに、颯太といるとつい笑顔になる。

 しかしこのテンションには見覚え、いや聞き覚えがある。

 ああ、そうか――。


「彼女ができたんだよ!」

「彼女ができたんだな」


 ほとんど同時に答えると、颯太は目を見開いていた。ひどく驚いているようだ。


「な、なんで知ってるんだ!?」

「何となく。相手は……園田?」

「都希……いつからエスパーになったんだ?」

「何度も聞いてたよ。マネージャーの園田が気が利くって、何度も何度も」

「そ、そうだっけ? そう、それでようやく付き合ってくれることになったんだよ!」


 よく覚えている。颯太が毎日言っていたからだ。自分のことのように嬉しかったことも。

 ただ二人は夏休みの前に別れてしまう。理由は、日向が姿を消したことも関係している。


 それから颯太は、園田の良い所を熱弁してくれた。もちろん、彼女には聞こえない程度に。

 一見冷たそうに見えて実は情に厚いだとか。マネージャー業なのに、誰よりもサッカーに対して熱があるだとか。


 ほんと、颯太は園田が好きなんだな。


 なぜかわからないが、これが夢だとは思えなかった。日向の日記があるのにも、何か理由があるんじゃないだろうか。


 彼女はまだ生きている。けれど、このまま時間の流れが変わらないのならいずれ……亡くなってしまう。

 なら一体、僕はどうすればいい? 病気のことを知っていると伝えても、どうすることもできない。


「でさあ、瀬里がさあ一緒にカフェ行こうっていうんだけど、都希も来ないか?」


 そのとき、ふとこの出来事を思い出す。そうだ、颯太と園田、日向とカフェに行こうと誘われたが、僕は断ったはずだ。

 颯太に彼女が出来たことは嬉しかったけれど、四人で行っても何を話せばいいかわからないから。

 でも、それだと同じことを繰り返すだけだ。


「行くよ」

「まあ……断るのはわかってんだけど、瀬里の親友も一緒に行くから俺も親友を――え!? 行くの!?」

「なんでそんな驚くの? 自分で誘ってきたのに」

「いや、でもいつもこういうの嫌がるからさ」

「……まあね。でも、僕は園田のことよく知らないし、話してみたい。それに颯太の念願の彼女だしね。挨拶もしておきたいから」

「マジかよ! じゃあ伝えておくぜ!」


 前にカフェに誘われた時は確か始業式の二日後だった。

 おそらく僕が日向を助けたことによって時間が変わった。

 だったら僕の行動で未来が変わるはず。でも、これが何の意味になるのかはわからない。

 ただ、もしかしたら……何か良くなるかもしれない。

 それが、僕がタイムリープしてきた理由な気がした。

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