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第19話 学園祭、白雪姫

「それじゃあ、えっと……また後でね都希くん」

「そ、そうだね。それじゃあまた」

 

 早朝、日向のお母さんが帰ってくる前に僕は出ることにした。

 結局いつのまにか眠ってしまっていたのだ。

 

 両親には遅くなると伝えていたが、さすがの朝帰りは想定もしていないだろう。

 少し焦る気持ちと、名残惜しいような気持ちが混在しながら帰り支度をした。

 

 といっても、今日は学校だ。

 数時間後にまた日向と会う事になる。

 急いで家に帰ろうとしたら、彼女が僕の名を呼んだ。

 

「演劇、頑張ろうね。――王子様」

「そうだね……白雪姫」

 

 僕を王子様と呼ぶ日向に、少し照れくさくなりながらも白雪姫、と返した。

 はにかむ彼女の笑顔を見ながら、無事に成功して終われますようにと願った。


 ◇


 僕の心配はよそに演劇は順調で、それでいて日向の様子も気にかけていたが心配はなさそうだった。

 

 一周目と違って体調が良いのだろうか。

 放課後の練習も欠かさず参加している。

 実行委員としての活動も、園田のおかげで分担してできたので凄くやりやすかった。

 何も問題はない。なのに不安はぬぐえなかった。

 学園祭は来週だ。ほとんどのクラスも終盤に差し掛かっているからか、少しだけピりついた空気もある。

 

「鏡だ! 俺は鏡だあっ!」

 

 そんな中で、颯太の明るさはクラスのみんなを和ませていた。

 意外と、なんて言っていいのかわからないが、ちゃんとわかってやっている。

 

 サッカーについても成績はぐんぐんと上がっているらしい。

 今度の都大会でもエースストライカーとして期待されてるのだとか。

 

 何より一番驚いたのは、園田だった。

 

「昨日の変更箇所まとめておいたから、配布しておくね」

 

 誰が呟いた事でも聞き漏らさず、効率のいい提案をしてくれる。

 生徒同士でのコミュニケーションもしっかりとっていて、クラスの雰囲気作りにも気を遣ってくれているみたいだ。

 

 一周目の園田を知っている僕からすると、まるで別人のようだった。

 

「園田、無理してない?」

「なにが?」

「実行委員の仕事と、部活もあるし、それにあのことも……」

「大丈夫よ。意外と私、こういうことするの好きみたい。楽しんでやってるから気にしないで」

「それならいいんだけど」

 

 負担が大きいのではないかと不安になっていると、園田はフッと笑う。


「でも……昔の私が見たらびっくりするだろうけどね。それこそ、日向は驚いてるんじゃないかな」

「日向が? どういうこと?」

「あれ、聞いてないの? 私たちが仲良くなったきっかけ」

 

 前に少しだけ聞いた。転校してきた日向に、園田が声を掛けて仲良くなったことを。

 それを伝えると、なぜか園田は首を振った。

 

「確かに私は日向に声を掛けた。移動教室でどこに行けばいいかわからないでいた日向に。でも、それはただのお節介。それで仲良くなったわけじゃない」

「そうなの?」

「私、昔からこんな感じで人付き合いが上手いわけじゃなかったの。それで、中学二年生だったかな。私がちょっとクラスの女子を怒らせちゃってね。きっかけかけは覚えてない。でも、そこから無視されたり、物をね……隠されたりしてたのよ。まあ、いじめよね」

「……ひどいな」

「ありがとう。今思えば大したことなかった。でも、あの頃は本当に……つらかった。でも、諦めてた。平気なふりをして、一人でもいいって思ってた。そんなとき、日向が助けてくれたのよ」

「日向が? 園田を?」

「今でも鮮明に思い出せる。雨の日にね、私の筆箱の中の物が窓から投げ捨てられていたのよ。それを一緒に拾ってくれたの。びしょ濡れになるのも構わずにね」

 

 日向らしいと思った。彼女は、本当に心の優しい子だからだ。

 

「それから虐めはなくなったわ。何故かはわからないけど、日向のおかげなのは間違いないでしょうね」

 

 そのことがきっかけで日向と仲良くなり、日向にだけは心を開けるようになった。

 そして、強くなろうと思ったらしい。日向に何かあったとき、今度は自分が守れるように。

 

「それでも私は不器用なままだった。怖かったのよ。日向以外の人と仲良くするのがね。でも、颯太が私を好きだといってくれて。そして、あなたのおかげでまたこうやって色んな人と話ができてる」

「……僕?」

「やっぱり気づいてないのね。私がみんなと一緒に頑張ろうって思えるのは小野寺のおかげよ」

「どうして?」

 

 園田は、少しだけ呆れた顔で答える。

 

「颯太もよく言ってるけど、あなたは人を変えられる力を持ってるわ。いい影響を与えてくれる。日向も前より笑顔だし、凄く楽しそう。――私はバカじゃない。彼女が隠しごとをしていることぐらい、わかってる。そしてあなたが、それを知っていることも」

 

 なんて返せばいいのかわからなかった。あまりにも驚きすぎて、言葉が出ない。

 

「安心して。何も聞かない。日向が自分から言わないかぎりは、私はこのままでいいと思ってるから。そのかわり――日向を泣かせたら容赦しないわよ」

 

 一度も見たことないほどの笑顔で、園田は俺の肩をぽんっと叩いた。彼女だって聞きたいはずだ。でも、日向のことを心から想っているからこそ、何も言わない。

 

 ……本当に何も知らなかったんだな僕は。でも、今は違う。知っている。

 だからこそ、学園祭を絶対に成功させたい。

 

「ありがとう園田。学園祭、頑張ろうな」

「そうね。絶対成功させましょう」

 

 それからも順調に練習は進み、大道具や小道具などのセットも完成した。

 あとは本番で練習の成果を発揮するだけだ。

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