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第15話 願いを叶えてあげたい

 演目は『白雪姫』に決まった。

 それは、一周目と同じだった。

 いくつか案を出し、その中からくじを引いて決めた。

 シンデレラや人魚姫、浦島太郎やかぐや姫などたくさんの候補があったにもかかわらず、前回と同じ白雪姫を引いたことは、僕にとっては不安でもあった。

 変えられない宿命のようなものを感じたからだ。


 とはいえ、今回は絶対に同じ道をたどらせない。


「都希くん、この鏡の役っていると思う?」

「うーんどうだろう。颯太は似合いそうだけど」

「本人が聞いたら怒るよ」


 放課後、多目的室で日向と二人、白雪姫の絵本を読んでいた。

 一冊の本を一緒に読んでいると必然と距離が近くなる。


 肩が触れるか触れないか、息がかかるか、かからないかの距離に僕はドキドキしていた。

 最近、以前にも増して日向との距離は近づいていると思う。

 けれど、その距離に慣れるどころか一段と意識してしまっていた。


 僕の気持ちが日向にばれないように平然を装いながら絵本を覗き込む。


 演目が無事決まったことで、まずはだれがどの役を演じるのかの前に、どれくらいの登場人物がいて、どれくらいの人数が必要なのかを絵本を読みながら決めていた。

 白雪姫役はもちろん、継母役の悪い女王や狩人、王子様、七人の小人、森の動物たち、と挙げだすときりがなかった。

 こうしてみると案外役が多い。

 そのほうが学生の演劇としてはいいのだろうけれど。


 ちなみに颯太と園田は、演目に必要な衣装やセットにかかる費用を計算してもらっている。

 実行委員といってもやることは多いので、二手に分かれて作業したほうが効率がいいと園田が言ってくれた。

 もちろん四人揃ってやることもある。


「日向って演劇とか見たことある?」

「何度かあるよ。幼い頃にだけど、お母さんと行った事がある。ロミオとジュリエットとか」

「へえ、僕は一度も見たことないな。話は知ってるけど」

「楽しかった、って言葉は違うのかもしれないけど、心に残るものがあって凄く良かった。私たちの劇も、そんな風に誰かの心に残ると嬉しいな」

「……きっとなるよ。みんな喜んでくれるはず」

「ありがとう。都希くんがそう言ってくれると安心だな」


 そして実行委員は思っていたよりも大変だとわかった。

 学園祭までの期間を考えて準備やリハーサルの日程を決めなければいけない。

 それでも日向と同じ時間を過ごせるの嬉しかった。


 彼女の体調は心配だったけれど、一緒にいる間に調子が悪くなるようなことはなかった。


 翌日も話は順調に進んで、次はクラスメイト達と話し合って誰が何の役をするのか、配役を決めることになった。


「では、七の小人も決まったので、次は――」


 僕と日向が前に出て、それぞれの役を決定していった。

 そして次の役を決める時、クラスメイトたちがそわそわし始める。


「いよいよか。演劇の経験ある人っていたっけ?」

「どうだろう? 別になくてもいいんじゃないの?」

「いやでもあったほうがいいでしょ」


 次は『白雪姫』の役だ。前回は配役をくじ引きで決めていたが、今回は変えた。

 日向には悪いけれど、同じことを繰り返すわけにはいかなかったからだ。


 責任感の強い彼女は選ばれてしまえば無理をしてでも頑張るだろう。

 体調が悪くても、それを言わないまま。


 だからくじではなく、立候補や推薦で話し合って決めることにした。


 しかしそのとき、生徒の一人が声を上げた。


「三城さんって演劇してなかった? 私、見たことある」

「え? そうなの? 知らなかった」

「そういえば俺も聞いた事あるな。中学生の時、賞とったって」

「マジ? じゃあ、三城さんが白雪姫がいいんじゃない?」


 まさかの出来事だった。日向が演劇をしていたなんて知らなかった。一周目はくじだったため、こういった話がでてこなかったのかも。

 日向が白雪姫をするということで話がどんどん進んでいく。


「待って、決めてしまうには早いんじゃない? 他にも経験者とか、やってみたい人とかいるかもしれないし」

「他に経験者なんていないんじゃない?」

「立候補する人もいないみたいだし」


 僕は実行委員として、みんなに話をしながら流れを変えようとしたが、収集がつかなくなって先生がでてきた。


「だったら投票にしよう。それが公平だしな」

「でも、先生――」

「言い出せないだけで他にも推薦したいやつがいるかもしれないだろう」


 先生は平和的な解決にしようとした。

 でも、投票の結果やっぱり日向への票が多く集まった。

 実行委員の仕事と合わせて白雪姫も演じるなんて大変じゃないか、という話もあったけれど、むしろ一番わかっているからいいかも、なんて意見も出てくる。


 日向に視線を向けてみると複雑そうな表情を浮かべていた。


 迷っているのだろうか。けれど、日向は演劇が好きだといっていた。

 それに彼女の日記には舞台に立ちたかったと書いていた。


 ならばその願いを叶えてあげたい。


「日向は、どうしたい?」

「私に務まるのかなって、少し心配はある」

「うん」

「でも……やってみたい」


 日向はどこか覚悟決めたような表情だった。

 きっと、体調の面で不安なこともあるだろう。

 でも、その上でやってみたいと言ったんだ。

 

 一周目も同じだったのかもしれない。

 不安を誰にも言わず、一人で抱え、白雪姫を演じきろうとしていたのだろう。

 

 なら僕は日向の意思を尊重するし、全力で支えたい。


「わかった」


 静かに答えて、そして僕は黒板の白雪姫のところに日向の名前を書いた。

 みんな、納得したように頷く。

 日向もやるからには頑張ります、と言って笑っていた。


 その後もスムーズに配役が決まっていく。


 そしてなんと、王子役は僕に決まった。

 それは、颯太の後押しがあったからだけれど。


 日向が頑張ると決めたんだ。

 僕も一緒に頑張りたい。この演劇を成功させたい。絶対に成功させる。


 でももし、本当に日向が当日来られなかった時のためにちゃんと備えておかなければ。


 放課後、こっそり園田を呼び出した。

 

「珍しいね。小野寺が呼び出すなんて。なんかあった?」

「園田、ちょっと相談があるんだけど。日向のことで――」

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