遠投投石機の仕組み
カナコとジョセフィーヌ達はイヴリン女王への挨拶と話し合いを済ませた後、ある部屋で机を囲んで集まっていた。机の上にはペンと何枚かの紙が置いてあった。
「カナコ、それじゃあイヴリン女王様に提案した遠投投石機とやらについてもう少し詳しく教えてもらえないかしら?」
「わかったわ、ジョセフィーヌ」
そう言うとカナコは、机の上にあったペンを握り、遠投投石機の簡単な絵を紙に描きだした。
「まず、最初に2本の柱を置いてその2本の柱の頂点部分で回転可能になるように長い棒を挟むねん」
「そして、次に、その長い棒の片端に重りをつけて、もう一方の反対側の片端に袋のついたひもをつけるの。この袋には、これから遠くへ投げ飛ばすための石を入れるねん」
「長い棒のそのひもがついている側を下に引っ張ってから離すと、反対側の重りの重みで勢いよく長い棒が回転して、ひものついた袋に入った石を投げ飛ばす仕組みになってるねん。」
カナコは説明している場所を図の上で適宜示しながら、遠投投石機について詳しく説明していた。
この説明の途中、メイユイがある質問をした。
「質問なんだけど、袋に入った石はどうやって投げ出される時に都合よく袋から出るの?ただ投げ出す前に袋に入れているだけだと、打ち出す時に袋に入ったまま投げ出されなくなってしまうんじゃないの?」
「投げ出す時に袋から石が飛び出すために少し工夫があるねん」
カナコは次に、袋と、袋に結ばれた二本の糸を描いて説明を始めた。
「この投げ出す石を包む袋には二本の糸が袋の両側に位置するようついているねん」
「長い棒が傾いて石を投げる打点のようなものが遠投投石機の真上あたりに来た時に、この二本のひもの片方だけがうまく外れるよう工夫されていて、袋が開いて袋から石が飛び出すようになっているねん」
カナコの説明を聞いて、メイユイがさらに質問した。
「その工夫についても聞いていい?」
カナコは、遠投投石機の柱が支える長い棒のひもがつながっている側の先端の図に、細い突起のような短い棒を書き加えた。
「確か、私の覚えている範囲で答えさせてもらうと、長い棒のひもがついた側に、金属の滑らかな突起のようなほぼまっすぐな短い棒をつけるねん。このまっすぐな短い棒に袋についている二本のひものうちの片方のひもをひっかけるねん。そして、もう一方のひもは長い棒の同じ側の先端に固定しておく」
「すると、石を投げ上げる時に石の入った袋が回転してちょうど遠投投石機の真上あたり来た時に、その片側のひもがまっすぐな短い棒から滑りだして外れて、袋が開いて石が袋から飛び出すはずやねん」
「この金属の突起の棒次第で遠投投石機の打点が決まり飛距離などが決まるから、この金属の突起の棒の角度や長さをうまく調整してできるだけ遠くに飛ぶように工夫することが大事やったはず」
これらの話を聞いて、ポーラが少し驚いたような表情で答える。
「はー、すごい発想ね、全然思いつかないや」
さらにポーラは少し考えてから質問した。
「……仕組みはわかったけど、重りの重さってあまり重たくできないんじゃないかな? 話を聞いたところ、軽い重りじゃあまり遠くまで石を飛ばせないのではないのかなと思って。例えば、人力で重りの反対側を引くとしたら、大きな力を出せないから大した重さの重りを引く事ができなくて、あまり遠くまで石を飛ばすことができないんじゃないかな?」
「良い質問やね、確かにわかるで」
そう答えると、カナコは少し得意げに説明を続けた。
「強い力で遠くまで石を投げるためにラチェット機構っていう機構を使うねん」
「ラチェット機構?」
ポーラがラチェット機構とは何かと思い不思議そうに質問する。
カナコは歯車と、その歯車にひっかかるような部品を描いた絵を用いて改めて説明する。
「まず、歯車と歯止めっていうのを組み合わせると、歯車が一方向にしか回転しないようになるねん。詳しく言うと、歯止めが歯車を一方向にだけ回転できるようにして、逆回転しそうになった時はその歯止めが引っかかって止めるようにする。この機構をラチェット機構っていうねん」
「このラチェット機構を遠投投石機で活用するねん。遠投投石機で投げ上げる準備をする際に、さっき説明した長い棒のひもがついた部分を引き下げて、反対側についた重りを引き上げる作業が必要やねん。引き下げる際にはロープを長い棒につけて長い棒を引っ張るんやけど、このロープは下にある歯車につながっていて、この歯車でロープを巻き取る。この歯車の巻き取り部位にラチェット機構を用いるねん」
「この巻き取りは人力で行うんやけど、一度に巻き取れる量には力の限界があって限られているやろ。だから何回も巻き取ってより多くの力の分を巻き取る必要があるねん。この時ラチェット機構が役に立つねん」
「長い棒のひもがついた部分を繰り返し力をかけて引くねん。この際、さっき説明したラチェット機構の歯止めで一方向にのみ巻き取る事で、巻き取る量を増やしていく。こうして人力で少しずつ繰り返して遠投投石機の石を投げる側の部分を下に引っ張って、その反対側にあるとても重い重りを少しずつ持ち上げられるようになるねん」
「そうして十分に巻き取って石を投げる側の長い棒の部分が下まで下がってきたら、新たなピンで引き下げた長い棒の部分を一度固定して、それから長い棒の真ん中部分と歯車を繋いでいたロープを外す」
「最後に、新しくひっかけたそのピンを外せば投石器から石を発射できる。ちょっと長い説明になったけど、その結果、重い重りを用いて勢いよく石を投げ出すことができるようになるねん」
ここまでの長い説明を、カナコはさらに図を適宜活用しながら説明した。
その説明を聞いていたメイユイが、カナコの描いた図面を凝視しながら言った。
「ちょっとそのラチェット機構とやらの絵をよく見せて」
そう言うとメイユイは、歯車と歯止めからなるラチェット機構について理解を深めようと図面をじっくり眺め直した。
「なるほど、歯車の歯を片方だけ回転するようにうまくギザギザに加工するのね。カナコの世界は色々技術が進歩してるのね」
「うん、私もラチェット機構は意外とこの世界にはない技術なのかと思った。というか、この説明で皆わかったのかな?」
すると、ジョセフィーヌが
「うーん、私には難しかったかな、また詳しい話を聞かせてね! ただ、投げ込む石に込める魔導なら色々提案があるし、どんどん聞いてね、あと、レイも前言っていたみたいに石に塗り込む薬草や石の原材料となる鉱物に関して何かあったら教えてね!」
「わかったよ、ジョセフィーヌ、魔物の特性や魔物の城の気候条件など確認して何か良い薬草や石など探して検討してみるよ」
そうレイが話すと、ジョセフィーヌがある話をした。
「そうそう、この遠投投石機の仕組み、兵器製造部の人たちにも説明しないとね、とても驚かれると思うわよ! カナコの世界は本当に技術が進んでいるのね、これからも色々教えてね」
「ええ、こちらこそ魔法とか全然ない世界から来たから色々と教えてな」
「もちろんよ!カナコ、魔法なら任せて、色々教えてあげるわ!」
そう元気よくジョセフィーヌが返す。続けてメイユイがある説明を始めた。
「カナコ、とりあえずこの話はここまでしようか。この後、今夜あなたに泊まってもらう建物と部屋を紹介するわ、ついてきて。部屋を紹介した後は一度みんなで夕食をとりましょう」
確かに、もう日が暮れてだいぶ経っていたこともあり、カナコは少しお腹が空いていた。
「わかったわ、部屋の案内お願いね」
カナコはメイユイについていき、夕食の前に自分の部屋を見に行くことにした。