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第7話

 ここまでこぎつけると、ボールはアバウトにストライクゾーンかその周辺へ行くようになり、概ね2球に1球はストライクになったし、球自体もちゃんとバックスピンが効いて、そしてある程度の球速を持っていた。

 そうすると僕もいっぱしの「投手」として、チームでは「中の下」くらいの存在には十分になっていて、バッティング投手や、試合でもそこそこ投げさせてもらえ始めたんだ。

 ただしバッティング投手としてはコントロールがアバウトすぎて、打者にはとても評判が悪かった。ボールも勝手に変化球に化けたりするし。化けるのは小学校以来だけど。

 その一方で、試合ではそれが有利にはたらいた。いいあんばいに球が散って化けるから。

 これは初めての甲子園で僕が「好投」できちゃった要因でもあるし。

 だけどその頃の僕は、マインドとしてはまだまだコントロールには全く無責任だった。

 もちろんコントロールを良くはしたかったけれど、その一方で、「ストライク投げなきゃ」っていう変な十字架も背負いたくはなかったんだ。

 それで僕はそんな風に投げてはいたけれど、それでもフォアボールは多めとはいえ、一応最低限試合にはなったんだ。だからコントロールは当面そのレベルで妥協することにしていた。


 前にも言ったように、ともかく大切なことは「ストライクを投げなきゃ!」という呪縛から一度解放されることなんだ。その呪縛のために初めての甲子園で、先輩の投手たちはあの惨状だったじゃないか。

 それゆえに僕はあえて心を鬼にして「まだコントロールには全く無責任に…」だったんだ。決して無責任に無責任だったわけじゃないんだぞ!

 つまり僕は、「ストライクを投げなきゃ」という呪縛をばっさりと振り払い、とりあえず「事務的」に投げることにしていたということ。

 ええと、「事務的」っていうのは、投球という行動を、あくまでも「僕の業務」としてとらえ、雑念にとらわれず、予定通りにさくさくと投げるということ。

 分かる?

 ストライク投げなきゃって極端に感情移入して、むきになって投げると、ろくなことにならないだろう? あの甲子園での先輩たちみたく…、だからそうならないために、いわば「事務的」に投げていたわけ。

 だけどそんな心持で投げていると、いつのまにか僕のフォームは、極端に言うとまるでキャッチボールでもするかのような、リラックスしたものへと変化していったんだ。

 実はこれ、僕の武器だということに気付いた。

 いつも言っている「上半身は水」という話は、とある野球中継で聴いたと言ったけれど、その野球中継ではこんなことも言っていたんだ。


「キャッチボールするようなフォームで130キロ投げられたら誰も打てませんよ」


 この言葉を借りると、つまり僕の事務的な、そしてリラックスしたフォームは、もしかして武器になるはずなんだ。もしかして僕、そんな風に投げているのかも知れないじゃん。だったらもしかして誰も打てないかも知れないじゃん。もしかしてこれって、僕が目指すべき投球スタイルなのでは?

 それに、いつも練習相手の先輩のキャッチャーも、「お前はしれ~っと投げているわりに球が速い。しかも途中で化けることもあるので捕りにくい」とか、後の方になると「お前のフォームにだまされる! 捕るのが怖い。たぶん俺しか捕れないだろうよ。へへへ」とか、妙に自慢げに言っていたのを覚えている。

 僕を大投手に…、なんて荒唐無稽な考えを持っている先輩に、僕はだんだんと洗脳されていたのかも知れないけれど、この頃から僕は、「もしかしたら僕はすごい投手に…」なんていう夢を、おぼろげながらも、持ち始めてはいたんだ。

 もちろん僕はまだまだ本質的にコントロールが悪いので、試合ではフォアボールも結構出したけれど、例の「300球も投げたりして疲れまくって作った疲れないフォーム」だから、試合ではぼちぼち点を取られながらも、長いイニングを延々と淡々と、そして事務的に投げることができて、だから僕はチームでは「最高の敗戦処理投手」としての地位を確立していったんだ。

 だけど、もう少しコントロールが良くなればいいな、とは思ってはいたけれど。


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