シャッフルされた福笑い
挿絵の画像を生成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
毎月定期購読している「冒険少年王」も、新年号ともなると付録が豪華で嬉しくなるね。
別冊付録の「鋼鉄武神マシンオー・メタル獣百鬼夜行絵巻」は読み応えがあったし、「アルティメマン・怪獣殲滅すごろく」や「10大人気者カルタ」もなかなか凝っていたよ。
だけど綴込み付録の「マスカー騎士福笑い」は、どうもパッとしなかったんだ。
「マスカー騎士は顔のパーツが大きいから、福笑いにしても面白くないんだよなぁ…赤い複眼も牙の生えた顎も、大きくて特徴的な形をしているから目隠ししてても分かっちゃうし…」
そもそもマスカー騎士はバッタの改造人間としてデザインされたヒーローだから、それは仕方ないんだけどね。
「待てよ…もしかしたら真弓の買っている雑誌にも、福笑いの付録があるかもしれないぞ…」
名案を閃いた僕は、妹の真弓の部屋を訪ねたんだ。
異性の兄弟姉妹がいると、こういう時に本当に助かるよね。
「さあ、基行御兄様。こちらが『月刊少女サリュー』のニューイヤー特別号についておりました『オシャレ魔女っ子レベッカ』の福笑いで御座いますわ。『テレビちゃん』正月号の『お願い!バケねこん』の福笑いも御座いましてよ。」
至って快く、妹は自分の福笑いを差し出してくれたんだ。
ああして妹が上機嫌なのは、恐らくは一分の隙もなく着こなした桜色の晴れ着が原因だろうな。
クラスの友達と一緒に道修町の神農さんへ初詣に行くと言っていたけど、その真意があの真新しい晴れ着のお披露目にある事は明白だよ。
まあ、僕としては話がスムーズに進んで大助かりだけど。
そうして二種類の福笑いを手にした以上、やる事は一つだったよ。
「ここは『オシャレ魔女っ子レベッカ』の方の台紙を使った方が、やっぱり面白いだろうな。」
ウェーブした金髪と細面の顔の輪郭だけが描かれたノッペラボウの台紙は見ていて気まずい物があるけど、だからこそ遊んだ後の事が楽しみだね。
「よし!目隠しもした事だし、まずは目から行ってみようかな?おっ!この丸いのはマスカー騎士の複眼だな…」
そう、僕が思いついたのは複数の福笑いをシャッフルして遊ぶ事だったんだ。
少女漫画の魔女っ子ヒロインの輪郭に、変身ヒーローとネコ型未来ロボットの顔パーツを使った福笑い。
これはきっと、凄い事になりそうだよ。
「うわぁ…これは凄い!両目が複眼になったら、オシャレ魔女っ子レベッカも形無しだ!オマケにバケねこんのレーダー三本ヒゲも付いているし!」
完成した福笑いを見た僕は、腹を抱えて大爆笑してしまったんだ。
こうして良い初笑いも出来た事だし、テレビちゃんと月刊少女サリューの編集部には感謝だよ。
勿論、福笑いを快く貸してくれた妹にもね。
とはいえ、この福笑いの強烈なビジュアルは暫く引き摺りそうだなぁ…
その予感は見事に的中し、僕は恐ろしい初夢を見る事になってしまったんだ。
夢の中の僕は、いつもと変わらない平日の放課後を過ごしていたんだ。
いつもと同じように小学校の校門を出て、いつもと同じように通学路の途中で友達と別れて。
すると交差点のど真ん中で、変わった人と出会ったんだ。
包帯をグルグルに巻いて顔を隠した、金髪の女の子。
その何とも異様な気配に恐れをなして、足早に立ち去ろうとしたんだけど…
「待ちなさいよ!私は貴方に用があるのよ!」
「うっ!」
僕の二の腕を掴んだその力は、まるで万力みたいに強かったんだ。
アニメに出てくるような可愛らしいソプラノの声とのギャップも相まって、何とも恐ろしかったよ。
だけど、本当に恐ろしいのはこれからだったんだ…
「よく見なさいよ…貴方のせいで、私はこんな顔になっちゃったのよ!」
そうして空いた手で包帯を引き千切った下から現れたのは、煌々と輝く深紅の複眼だったんだ。
オマケに両頬には、レーダー三本ヒゲがピンと立っているんだからね。
「うわぁっ!まさか、君は!?」
そう、それはマスカー騎士とバケねこんの顔パーツを充てがわれた福笑いのオシャレ魔女っ子レベッカだったんだ…
あっと驚いて布団から跳ね上がった僕の身体は、真冬だというのに汗でびしょ濡れだった。
これがきっと、冷や汗という物なのだろうな。
「ああ、夢で良かった…」
そうして胸を撫で下ろしながら寝床から起き上がった僕は、再び仰天する羽目になってしまったんだ。
「えっ…な、なんで?」
何と僕の枕元には、福笑いのパーツがズラッと並んでいたんだ。
確かに昨日、片付けたはずなのに…
「基行御兄様ったら、本当にいけない人ですわね。このような悪ふざけをなさるから、そのような初夢を御覧になるのですよ。私が同行させて頂きますから、神農様で厄落としをされてはいかがかしら?」
妹には福笑いを返したタイミングで笑われるし、何とも情けない年始になっちゃったなぁ…
これから「オシャレ魔女っ子レベッカ」を見かける度に、あの福笑いの事を思い出しちゃいそうだよ。