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9.

 一番頭にきたのは、裏切られたことでも殺されそうになったことでもなく、フィッシュ・マンのごとき下らない人間で自分を始末できると思った神官たちの傲慢さだった。

 車をホテルから離れた、分譲住宅建設予定地のようなガランとした場所にまわすと、車のなかで着替えた。

 ギリギリの強襲を仕掛けるときに着るウェットスーツのようなぴったりした戦闘服にトレンチコート、それからクーペの後部シートを開けた。

 非常用の武器が詰まっていた。体じゅうにベルトを巻きつけ、シートから取り出したスローイング・ダガーや四五口径の弾倉、手榴弾、それに足首のホルスターに予備の三二口径リヴォルヴァー。バーで買った缶切りはコートの内ポケットに入れた。

 丸腰になるには軍縮会議が必要なくらいの武器を身につけたにもかかわらず、

「くそっ」

 殺し屋は毒ついた。

「ショットガンがない」

 だが、アテはある。

 政治家が必ずウソをつくように、バーテンダーは必ずカウンターの裏にショットガンを置いている。

 どちらも身を守るためだ。

 閉店の札がかかったバーに行くと、無人のカウンターにバーテンダーがよりかかり、オートバイ雑誌を読んでいた。殺し屋がやってきたことに気づくと、雑誌を置いて、

「常連がふたり死んだ。売上に響く」

「そのうちひとりを殺したのはぼくだ」

 バーテンダーはうなずいた。

「フォン・シュピレフスキーはいいんだ。理由があるし、長生きし過ぎた。なにより、本人が望んでいた」

「ショットガンが欲しいんだ」

 バーテンダーがかがみ、隠し場所から銃を取り出し、カウンターに置いた。

 撃鉄が外部に露出した旧式モデルのポンプ式ショットガンだった。十二ゲージ。バレルジャケットが取りつけてあるのを見ると、軍の横流し品かもしれない。

 手に取って、スライドハンドルを引いてみると、機関部からスライドがスムーズに飛び出し、撃鉄を上げた。引き金を引きっぱなしにしてポンプアクションを続けると、撃鉄が連続して落ち続けた。

 バーテンダーは弾薬箱をカウンターに置いた。ヘラジカが描かれた箱のなかみは鹿撃ち用の九粒入り散弾だ。

「いくら?」

「カネはいい」

 バーテンダーはまたかがんだ。

 今度はカウンターの下から、肩掛けストラップのついた自動小銃を取り出した。殺し屋の体格では扱いきれない大きなものだが、これを制式採用している国は二十を超える、優秀な銃だ。銃にはピストルグリップがとりつけられ、空冷銃身の改造が施されていた。だが、二脚バイポッドは取り外されている。

「空の弾倉が四つある」バーテンダーはニ十発入る弾倉と三〇・〇六弾の箱を置いた。「弾を込めるのを手伝ってくれないか?」

 殺し屋は弾倉をひとつ手に取り、ライフル弾をひとつ、弾倉に押し込んだ。確実な装填を約束する強いスプリングを手袋越しに感じる。

「これは裏切られたぼくの個人的な制裁なんだ。ぼくの業界、なめられたら終わりだから。あなたまで来る必要はないんだけど」

 バーテンダーは黙って、弾を込めている。

「まあ、来てくれるならありがたいけど」

 ひとつの弾倉に弾を込め終わると、バーテンダーはため息をついた。

「キャンディは馬鹿なやつだったが、あんな死に方をする筋合いはなかった。だが――」と、左頬のX字に刻まれた醜い跡を引き金を引く指で差した。「一番はこの傷だ。やつらにこの代償を支払わせるのに、今日がたまたま、いい頃合いだった。それだけだ」

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