8.
「仕事が速いって喜んでたぜ」
「業界じゃ結構評判がいいんですよ」
「だが、もうじきおれも神官勢力の一員になれる。こっちに元締めとして権力を維持したままな。それがどれだけでかい存在か、お前、分かるか?」
「なんで、そのオカマがぼくにとって人質になっているのかが、不思議だけど」
「おれも来る可能性は半々かなと思ってた」
通りから外れた、三方を高い壁に囲まれたガラクタ置き場に自動車が止まり、フィッシュ・マンが運転席から肘を出している。まわりには手下が五人。四人がリヴォルヴァー、ひとりがショットガン。
殺し屋から見て左の端にキャンディが倒れていた。全裸にされ、体じゅうが殴打で紫に脹らみ、裂けた傷からドロッとした血が流れている。
キャンディの命と交換だ、と言っていたが、もう死んでいる。フィッシュ・マンは取引をするつもりはなかったのだ。
殺し屋は両手をジャケットのポケットに突っ込んだ。
「それで? ぼくはそこのオカマと何を交換に差し出せばいいの?」
「キー。もうひとつあったんじゃないかな?」
「それが?」
「神官たちは欲しがってる。くれるよな?」
手下のひとりが左から近づいていく。殺し屋は左のポケットから取り出した赤いキーをその男の手に渡した。フォン・シュピレフスキーが神官たちに破滅をもたらすと言っていたキー。
手下からキーを受け取ると、フィッシュ・マンはにんまり笑った。人を見た目で判断してはいけないというが、ある程度の年齢を超えると、その内面が見た目にもろに出てくる。フィッシュ・マンのそれは見るに堪えない。
そうやって目をそらした先にキャンディの死体が転がっていた。
運転席に銀の光。シルバー仕上げの大型銃が姿をあらわし、フィッシュ・マンがゲラゲラ笑った。
銃口がこちらに向くより先に、殺し屋がポケットのなかのドクロのボタンを押した。殺し屋の操作でフィッシュ・マンの自動車の下に潜り込んだZV86遠隔操作爆弾が爆発した。
バラバラになった手下を蹴飛ばして道からどかせ、ひしゃげた金属のなかで痙攣しているフィッシュ・マンの頭に二発撃ち込んだ。キーは焦げた肉に刺さっていた。
キャンディはうつ伏せにされていた。右手が固く握りしめられている。肉の厚い指のあいだから緑の砂がこぼれ落ちた。