7.
「参考までにききたいが」フォン・シュピレフスキーが苦笑いした。「どうしてわかったんだね? わたしが重ねた年齢は本物だ。時間を遡る装置で逃げたんだ。あの神殿がつくられて、三か月後の過去に。わたしはまだ生まれていなかった世界だ。その写真のわたしといまのわたしの容姿はずいぶん離れているはずだが」
殺し屋は人差し指と中指で自分の両目を差した。
「人間なにをやっても、目と目のあいだの長さだけは変えられないんですよ」
かさかさかさ。
街の外周の荒れ地から砂まじりの風が吹いてきて、古タイヤにこすれた。フォン・シュピレフスキー、――神官スツカはバスの最後尾にある長い座席をベッドにしていた。〈サウスアイランド・ラム〉の空き瓶が床に転がっていて、開いたばかりの魚粉ビスケットの袋が老人の手元にあった。
「そうか。両目のあいだか」
カリッ。
マンボウ型の魚粉ビスケットをかじった。
「それに歯がきれいすぎました。あなたみたいな老人の歯は黄ばんで、歯のあいだがスカスカで、そんな固いビスケットを噛んだら、折れます」
「きみはそういう知識を誰から学ぶのだね?」
「警官からですよ」
「ふむ」
かじりかけのビスケットを手元のテーブルに置くと、殺し屋の顔をじっと見てから、その手にあるサイレンサー付きの四五口径に目を落とし、また苦笑した。
「キーはそこにある。持って行ってやるといい」
「ふたつあるみたいですね」
「その通りだよ。キーはふたつある。やつらが欲しいのはその黄色いキーだ。赤いキーは神官たちにとって、破滅をもたらす」
バーに戻ると、キャンディがいた。
「あ、ハロー」
殺し屋はZV86を買ったときにお釣りでもらった小さな緑色の砂時計を渡した。
「これ、何だい?」
「シチューのお礼」
「ウソ! うれしーっ!」
キャンディは嬉しそうにそれを眺めてはひっくり返して、また眺めた。
「忙しい砂時計だな」バーテンダーが言った。
「僕、うれしい。きみが来てから、いいことが続いてるな。殴られたり、罵られたりすることがなくなったんだもんね」
しばらくバーで時間を潰した。客は入れ替わり、やがて夜が明けた。キャンディはいなくなっていた。