End
涙色のクーペが一台、石敷きの道を走っていた。
蜂の巣にされ、様々な代用品でエンジンが組みなおされ、ドアはついていなかった。フロントガラスがないので、冷たい風がもろに顔にかかり、表情が凍りつきそうだった。
後部座席にはバーテンダーからもらったショットガンが転がっている。
「フィッシュ・マンが死んだことで少しはマシな酒が流通すると思う?」
「まあ、無理だろう。ここはそういう街だ」
「これ、預かっておいてもらえる?」
「手紙か?」
「缶切りの推薦文。武器屋が来たら渡してあげて」
緩やかなカーブが続く平坦な道。左手には雪をかぶった蒼い山脈が連なっていた。
道端にインターホンが一本立っている。
殺し屋はクーラーボックスからビールを一本取り出して飲み、空き瓶を叩きつけた。
――もしもし?
「ぼくだよ」
――ああ、きみか。トリクルダウンはどうだった?
「想像以上にひどかった」
――わたしも町長として心を痛めている。
「神官を皆殺しにしたよ」
――わたしの票田ではないから関係ないよ。
「トリクルダウンに町長はいないってみんな言ってたけど」
――政治に無関心なだけさ。
「もうそろそろ都会に戻るよ。ほとぼりも冷めたころだろうし」
――まあ、機会があったら、また来てくれ。そのあいだに少しはマシな町にするから。
車を出すと、インターホンから何か音楽が流れ出した。クレバスに落ちていく探検家の叫び声みたいな、その音楽が地平線の彼方に消えるころ、涙色のクーペはもう都会のなかを走っていた。
〈了〉