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ハロウィーンのいたずら返し

作者: ウォーカー
掲載日:2024/10/27

 十月末にはハロウィーンがやってくる。

ハロウィーンとは、この世とあの世が繋がる日とされ、

人々は死者や怪物の仮装をしたり、

子供たちは、トリック・オア・トリート!、

という決まり文句で家々を巡り、お菓子をねだる。

お菓子をくれなきゃいたずらするぞ。

しかしそれは、子供だけの特権とは限らない。


 ここに、商店街があった。

どこにでもある商店が軒を連ねた商店街。

例に漏れず、ハロウィーンのお祭りの準備をしていた。

かぼちゃで作った恐ろしげな顔を飾ったり、黒い魔女の飾りを作ったり、

商店街はオレンジ色と黒色で彩られていく。

数々の商店の大人たちは、やってくる子供たちのためのお菓子を準備していた。

しかし、世の中、子供にやさしい大人だけとは限らない。

商店街の大人たちの幾人かは、ハロウィーンに悪巧みをしていた。

「トリック・オア・トリートなんて、

 子供にだけご褒美をくれるのはずるいじゃないか。」

「俺たち大人だって、心の中は子供のように繊細なんだ。」

「ハロウィーンに、少しくらい楽しませて貰おうじゃないか。」

そんな言い訳で準備したのは、有り体に言えばいたずらの数々。

子供に渡すお菓子に、酒入りのウイスキーボンボンを用意したり、

飲み物に唐辛子ソースを入れておいたり、びっくり箱を用意したり。

子供たちにとっては刺激的であろう品々だった。

この商店街のハロウィーンでは、子供たちが家や商店を巡り、

最後にみんなで集めたお菓子を山分けしてパーティが催される。

そこでいたずらしたお菓子等で子供たちを驚かせてやろう、という計画だった。

食べる前にバレてしまわないように、パッケージに細工も施した。

「ふっふっふ。この唐辛子ソース入りジュースは、さぞ辛いだろうな。」

赤く染まったジュースの入った容器を見ながら、

八百屋の店主はほくそ笑んでいた。


 十月末、ハロウィーン当日。

世はハロウィーン一色、あの商店街でもお祭りが行われていた。

「トリック・オア・トリート!」

かぼちゃや魔女の飾りで染められた商店街を、

子供たちがお菓子をねだって歩いている。

「ほら、お菓子だよ。」

子供たちにお菓子をあげる大人たち。

どちらも笑顔で、ハロウィーンのお祭りを楽しんでいた。

そんな中に、ハロウィーンのいたずらを仕掛けた大人たちがいた。

例えば、洋菓子屋の主人は、お菓子をねだる子供たちに、

中に酒が入ったウイスキーボンボンを渡した。

八百屋の店主は、唐辛子ソースが入った真っ赤なジュースを渡した。

おもちゃ屋の店主は、びっくり箱を渡した。

どれも、受け取った子供たちは行儀よく、すぐには手を付けない。

この商店街のハロウィーンのお祭りでは、

子供たちは受け取ったお菓子類をその場では開けずに、

夜になってから商店街の街頭で行われる、

ハロウィーンパーティーで山分けにする決まりだったから。

だから子供たちは、いたずらされたお菓子や飲み物を受け取っても、

すぐには気が付かない。

それを見越した上での、大人たちの狡猾ないたずらだった。

「トリック・オア・トリート!お菓子をどうもありがとう!

 後でみんなで分けて食べるね。」

「ああ、そうするがいいさ。お腹いっぱい食べなさい。」

「必ずみんなで残さず食べるんだよ、ヒヒヒ・・・!」

大人たちの様子のおかしさにも、

子供たちはハロウィーンの演出なのだろうと受け取って、

特に警戒もしなかった。


 そうしてハロウィーンの日は問題なく執り行われていった。

子供たちが商店街の端から端へお菓子を集め終わった頃、

夕日が傾く時間になっていた。

いよいよ、子供たちがお楽しみの、ハロウィーンパーティーの時間だった。

商店街の一角に設けられた長テーブルと椅子に、

ハロウィーンのお菓子と飲み物が集められ並べられていく。

その中にはもちろん、あのいたずら入りのお菓子もあった。

むしろ、いたずらを企んだ大人たちの方がやる気があった分、

お菓子や飲み物もいたずら入りの方が多いくらいだった。

子供たちは席について、飲み物を掲げた。

「ハッピーハロウィン!乾杯!」

「かんぱーい!」

子供たちは嬉しそうに飲み物に口を付けた。

お揃いの真っ赤な飲み物が子供たちの口を満たしていく。

その時の子供たちはまだ嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


 異変が起こったのは、子供たちが飲み物を口にして数秒経ってからだった。

「・・・なにこれ!?」

「からーい!」

子供たちが口にしたのは、唐辛子ソース入りジュース。

大人でも飲めないほどの辛さだ。

それを子供たちは甘いジュースだと思って口にしたものだからたまらない。

子供たちは一斉に唐辛子ソース入りジュースを吐き出した。

「辛い!辛い!」

「何か甘いものをちょうだい!」

そうして、唐辛子ソース入りジュースの辛さに悶える子供たちが、

次に手を伸ばしたのは、ウイスキーボンボン、酒入りチョコレートだった。

そうとは知らず、子供たちは、ウイスキーボンボンを頬張っていった。

酒を知らない子供たちにとって、ウイスキーボンボンは、

少し変な味のするチョコレートでしかなかった。

口の中が燃えるような感覚から逃れるため、

二個三個とウイスキーボンボンを口に入れていった。

ウイスキーボンボンは外側は甘いチョコレートなので、

唐辛子ソース入りジュースの辛味を紛らわせてくれた。

しかし、その中身は酒、しかも結構なアルコール度数のウイスキーなのだから、

子供たちの様子はさらにおかしくなっていった。

ある子供はウイスキーボンボンの酔いが回って踊りだし、

またある子供は、唐辛子ソース入りジュースの辛さと、

ウイスキーボンボンの酒で悪酔いして、ゲーゲーと吐き出した。

他の子供たちも、まだ辛さが消えないと泣きわめいていた。

そうしてようやく、騒ぎはまともな大人たちの知るところとなった。

魔女や化け物の仮装をした大人たちが、子供たちのもとへ駆け寄った。

「まあ、みんなどうしたの!?」

「どうしてこんなことに?」

日は暮れてハロウィーンの夜。

夜の闇の中、商店街の子供たちは、酔いに顔を赤くして踊り回ったり、

唐辛子ソースで口を真っ赤に染め、辛さにのたうち回ったり、

腹の中の刺激物を吐き出し続けたりしていた。

もうハロウィーンパーティーどころではない。

平和だった商店街の街角は、まるで本当に化け物でも現れたかのよう。

子供たちは奇妙に踊り、口の周りを真っ赤にしていた。

それを見て、いたずらを仕掛けた大人たちは、

事の重大さを理解して顔を青くしていた。

「・・・ちょっと、やりすぎだったか?」

「もうそろそろ、止めたほうがいいかな。」

「でも、なんて言おう。

 まさか、俺たちのいたずらでした、なんて言えないし。」

いたずらを仕掛けた大人たちは、名乗り出ることができない。

理由がわからない大人たちは、どうしていいかわからない。

救急車でも呼ぼうものなら、

もう来年からハロウィーンパーティーなどできないだろう。

かといって、子供たちが何故おかしくなったのか理由がわからないのに、

苦しんでいる子供たちを放っておくこともできない。

困り果てた大人たちの前で、

子供たちは辛さと酔いで正気を失って暴れまわっていた。

この世とあの世が繋がったとしたら、まさにこんな状況だろうか。

誰もが対応できないでいる。

しかしそこに、救世主が現れようとしていた。


 この世とあの世が繋がったかのような大騒ぎ。

その中で、一人だけ落ち着いている者がいた。

それは、血まみれの看護婦の仮装をした妙齢の女だった。

「何をしているの!

 これは唐辛子とアルコールね。

 子供にこんなものを与えるなんて。

 手の空いてる人は、水とバケツを持ってきて!

 子供はテーブルと椅子の上に寝かせて、安静にして。」

その血まみれの看護婦の仮装をした女は、

あるいは本当に看護婦のように、的確に処置を指示していった。

商店街の大人たちは言われるがまま、

子供たちに水を飲ませて吐かせて、アルコールを抜いていく。

するとやがて、子供たちは唐辛子の辛さも収まって、

静かな寝息を立てるようになった。

大人たちは一安心、仮装のまま額の汗を拭った。

「子供たちが落ち着いてよかった。」

「大事にならなくて済みそうね。」

大人たちの話すところによれば、

ハロウィーンのお菓子の中に、

不意に、大人向けの飲み物やお菓子が混ざっていた、

ということになったらしい。

いたずらを仕掛けた大人たちは、騒ぎの犯人が自分たちだとバレず一安心。

ところが現実はハロウィーンのお菓子のように甘くはない。

例の血まみれの看護婦が、ツカツカと近付いてきて言った。

「子供たちに唐辛子だのウイスキーボンボンだのを食べさせたのは、

 あなたたちの仕業でしょう?

 全く、なんてことをする人たちなの。

 体は大人でも、中身はまだまだ子供ね。

 もう少しで大事になるところだったのよ。

 そうしたらお祭りもできなくなって、いたずらでは済まないでしょう?

 わかったら反省しなさい!」

「はい・・・。」

いたずらをした洋菓子屋の主人や八百屋の店主たちは、正座して反省していた。

それを血まみれの看護婦が腰に手を当てて見下ろした後、くすっと笑った。

「そうは言っても、誰でもいたずらはやりたくなるものよね。

 誰かを驚かせるのって楽しいものだから。それはわかる。

 でも、今度からは、いたずらはもっと楽しいことにしましょう。

 誰でも笑って許せる楽しいいたずらにね。」

そう言って、血まみれの看護婦はウインクをした。

終始、お説教は小声でこっそりしてくれていたので、

いたずらは結局、本人たち以外には誰にもバレることはなかった。

そうしてハロウィーンの夜は、静かに過ぎていった。


 ハロウィーンの翌日。

商店街では昨夜できなかった後片付けが行われていた。

あちこち汚れたり散らかったりしてるものの、

子供たちはもうケロッとしていて、全員が無事だった。

それだからこそ、このいたずらはいたずらで済まされる、はずだった。

しかし大人たちは顔を青くしていた。

その理由は、昨夜の出来事のせい。

昨夜は唐辛子ソース入りジュースやウイスキーボンボンで大騒ぎになった。

それはいい。原因も今更問うまい。

問題は、誰がそれを収めてくれたのかということ。

あの血まみれの看護婦の仮装をした女が見つからないのだ。

この商店街にある病院には、妙齢の看護婦はいない。年寄りばかりだ。

念の為に近隣の病院を訪ねたが、やはりあの看護婦は見つけられなかった。

では看護婦ではなかったのだろうか?

あの手際の良さから、それは考えにくい。

看護婦のはずなのに、看護婦の中には見つからない。

もしかしたら、遠方の人が偶然に通りがかっただけかもしれない。

でも、こうも思う。

昨夜のハロウィーンはこの世とあの世が繋がる日。

いたずらをしたのが子供だけではなかったように、

いたずらをするのは人間だけとは限らない。人間ではない何者か。

あれがもし何者かのいたずらだったのだとしたら、見事にしてやられた。

いたずらをした大人たちは、見事ないたずらに、笑顔になっていた。



終わり。


 今年もハロウィーンの時期になりました。

ハロウィーンというと、お菓子を貰えるのは子供だけ。

大人は負担ばかりで楽しくないということで、

大人が子供にいたずらを仕掛ける話にしました。


結果は、大人たちのいたずらが上手くいきすぎてしまい大騒ぎ。

それを収めてくれたのは、血まみれの看護婦の仮装をした女の人でした。

この人が何者だったのか、あるいはそれもいたずらだったのかも。


お読み頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
ハロウィンの話しは好きなのでいいですね。 ホラーではありますが、こういうソフトなのは好みです。 あの看護師・・まさか冥界からやってきた・・ いやいや、まさか、いやまさかね・・・? ん?そういえばあの子…
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