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女尊男卑で乙女ゲームを作る〜酷い目にあわされた人達も雇用していく〜

作者: リーシャ

 そういえば、とまるでメモを見たかのように意識が浮上した。浮上というより、あ、私って転生していたんだなというとても自然な気付きだった。


 こういう時、意識が起こった時は混乱するかパニックになったりするか、そういうことが起こるのではないかと思っていたが、そんなこともなかった。


 変なの。隣にいるフェルナンデスに話しかける。驚かせないように、慎重に。パニックになられると、こちらも困る。フェルナンデスは私の専用の執事兼メイド。


 男なのだが、メイドは女でないとおかしいのではないかと思われるかもしれませんが、この世界、男女の比率が偏っているのだ。フェルナンデスはお茶を入れてくれる。


「これ、なんていうお茶?」


 軽い気持ちで聞く。


「はい?え、これは、え?」


 私ことルウナはこれまで言葉を話したことがなかったんだが、初めて声を聞いたのだから混乱していて上手く声を出せなかったから。

 驚かせるつもりがなくても、初めてならば誰でも驚く故ににこりともせずに冷静に問いかけた。しかし、やはり相手は私の笑みなき言葉に動揺してちっとも反応しない。


 これは、すぐの返答に期待出来なさそう。こんなに驚くのは、多分わたしがこれまで言葉を発しているのを見たことがなかったからだろう。


 ルウナの今いる世界は所謂女性が少なくて、男が多い世界。周りいる人達は、この家で仕事をしている言わば、執事というか使用人。家内の人間達は女という貴重なルウナのお世話係。


「フェルナンデス、フェルナンデス」


 名前を連呼。


「は、へ?あ、はいっ」


 二言連続で話すという珍事にどもりながら返事。その様は予想外の連続だと言わんばかり。ルウナはこそり、と彼に小声で伝える為に耳に近付けると、従者くんはバッと離れる。

 どうやら近すぎたらしいが、私からしたら小声で伝えられなくて不便。


「離れないで、こっち来て」


 遠い。用事を言いつけられない距離。


「え、ええ!?それは、む、無理です」


 女に、というか女の子に近寄るなど無理だと必死に首を振る使用人。こんなんじゃ碌に話せやしないじゃないかと怒りすら湧いてくる。彼が珍しいと言う訳じゃない。


 正直女というだけで蝶よ花よと育てられ、お姫様と言われて育てられるらしい。今までのこの世界での暮らしが頭にはインプットされていて、記憶喪失にならなかった事に安堵。それがあるだけでこの世界の常識を少しは理解出来ている。


「そもそもおれの事を知っていたのがびっくりです」


「そっか。ウェルダム呼んで」


 知っている名前を出す。


「ウェルダム執事長!?名前知っていたんですねっ」


 感動した目でこちらを凝視してくる。


「知ってる。ずっと見てたよ。俯瞰視点で」


 こちらからはまるで映画の中みたいな視点だった。その為、非常に見やすく分かりやすい。ウェルダムは所謂、イケおじっていうか、ダンディな男性だ。


 年功序列と実力を加味されて階級は上がっていくとか。使用人に感しての意識はここまでくらい。なんせ、お嬢様に使用人の私生活を見せる人も居ない。


 彼は慌ててウェルダムを呼びにいく。扉を出てからは「お嬢さまが喋った!」という。某お金持ちの女の子の叫び声のようだ。喋りますよ、人間ですもの。


 ウェルダムというイケダンディが慌てた様子でやってきた。ルウナを見て、少しがっかりな顔を浮かべる。いつものルウナだと思ったのだろう。


「ダンディ、あ、間違えた。ウェルダム。こっちに来て」


「喋ったああ」


 と、叫ぶ男には落ち着くまで待つ姿勢。


 これからもこんなことが数回あって、皆慣れて行くことだろう。それまでの辛抱だね。

 落ち着いた執事長がこちらへ何事も無かったかのごとく「どうしましたか?」と聞いてくる。プロだねー。


「気になっていることがあるから調べてほしくて」


「わ、分かりました」


「あと、紙とペン。または携帯機器をお願い」


「は、はい」


「質が一番悪いものでも構わないから」


 と頼む。彼はハッとした顔で他の使用人に申しつける。


「今すぐにご用意したします」


 そっか、と答える。なにをするのか聞いても?と聞かれてほんのり笑う。


「乙女ゲームのプロットを書きます」


「おとめ、ゲームですか?」


 この世界にはさては、乙女がいないか?それとも、聞いたことのない単語とでも?

 執事長は、不可解なことを言い出すこの街で数少ない女の子に、不思議な顔をこちらへ見せる。


 そもそも、だ。女の子が高飛車、我儘、どうしようもない。となれば、どうやって人を増やせるってんだという話である。こんな育児は大問題で、間違っている。


 後日、取り寄せた資料によれば、出生率も海外に比べれば何年も落ちるのみ。そんな貴重な、女の子の教育を男がやろうとするなど、猫が鼠を育てようとするくらい感性が異なる。


 大袈裟かもしれないが、大袈裟じゃないかもしれない。現に、今まで引き合わせられた女の子は大怪獣みたいに暴れてた。まさに大暴れ。ソファはぐちゃぐちゃ、壁紙は剥がす。


 そんなの序の口。皿を何枚も割るし、割れるたびにケラッケラッ笑う。悪魔と言っても差し支えなかった。乙女ゲームプロットを書いていき、先ずは執事長に読んでもらう。


 その後、色んな人を巻き込んで乙女ゲームプロジェクトが始動。それぞれ、プログラムに詳しい人を雇い、作家も雇い素人な私の内容を訂正していく。


 女の権利も権力も政治家ですか?と言うほど強いので、内容が外に漏れることはない。雇われた人たちは、私の類を見ない乙女ゲームの内容に目を丸くし、こんなのは許されるのかと驚き、こちらをチラチラ見ていた。


 なんだか、女に話しかけられない人がやたら多いな。そもそも、女と話せる男は全体を見るとそんなに多くない。

 男尊女卑にならなかったのは、昔大勢の男から話しかけられる女性の生活が破綻。精神的にも追い込まれ、男はこちらから支配するべき動物であると嫌悪と憎悪に見舞われた人が発端だったらしい。


 歴史の書で読んだ。そんなにやばかったのだなと、当時の数少ない女性らを気の毒に思う。自分よりも力の強い男達に群がられなら、めちゃくちゃ怖くて、どうにもできない己に怒りが爆発してしまったのだろうね。

 可哀想に。となるのは私が女だから。そして、成人女性の記憶を持つ故の想像。

 想像は想像。しかし、簡単にわかる。怖かったよね絶対。


「これは、時代が変化します。きっと金字塔が打ち立てられることでしょうっ」


「私もそう思います」


 興奮したプロの人達に苦笑いする。乙女ゲーム企画を温めている間、予行練習として、外へ行きたいと頼んだ。周りの人たちはギョッとしていたけれど、どうしても行きたい。


 社会科見学のようなもの。色々約束させられていざ、住む街を歩こうと玄関に出る。フェルナンデスも居る。ボディーガードやらの関係なんだとか。


 外へ出ていく時は車を使う。こちらはただ、あまり見ない街並みに目を輝かせていくばかりだ。街並みは日本っぽくない。なんというか、アニメやゲームにありそうな混ざった感じ。


 レンガ調の、モダンな雰囲気。歩く場所である、コンクリートは整備されていて、現代に近い。車の数は現代と同じくらい。

 驚いたのは女性優先。車が通る時に、女性が乗っていると他の車が横に退くのだ。退いちゃうんだ……。


 びっくりした。努力義務らしいので法的には効力は無いとのこと。知ったのは車に乗りながら、疑問に思ったことを質問し続けていたから。


「退かないと、なにかあったとか」


「ありましたよ」


 少し陰のある顔で説明された事例。退かなかったというより、直ぐに退けなかったという諸々の理由で、車を退けなかった所有者。


 それを見兼ねて車を降りた女がのしのしと威圧感高めに、車の運転手へ罵倒を飛ばした。それだけに留まらず、男の無礼に男の職場を特定して嫌がらせをしたらしい。それはそれは、随分と香ばしいぞ。


 なんという傍若無人な事件なのか。その人は今なにをしているのか調べて欲しいと頼んだ。ルウナはお人よしでもなんでもないが、そんな被害者がいるのならば、己の出来るようななにかをしたい。

 とはいえ、やるのは自分じゃなくて、周りの大人になるけど。幼女に雇用はまだ無理でしょ、ははは。


「お調べになってどうするのですか」


「調べてみないと分からない」


 その場の内容で、決めるのみ。今からでも少しは予測して考えておきはするが。フェルナンデス達にもその人を調べたらこちらへ寄越してもらえまいかと、聞く。外へ出ると、やはり色々刺激があって創作意欲が湧く。


 後日、例の車事件の人が連れてこられた。やはり、女性に恐怖を抱いているらしい。とても、とても、怯えていた。

 怯えないでくれとハーブティーを用意したのだが、口をつける様子はなく参ったなとこちらも話す機会を失う。すかさずフォロー役に回るウチの優秀な執事達。


「ルウナ様は性格破綻者ではないです。そう怯えないでください」


 他の女性達を言外に破綻者って言っちゃってる!!


 苦笑して、こちらからいうことはなにもないので、執事に任せることにした。男同士の方が話しやすいだろうし。説明はされているのだろうかと顔を向けると、他の執事らが頷く。


 ちゃんと話しは通しているが、恐怖で身動きが取れないようだ。こちらは女なので、なんとも口に出来ない。女性に対して完全にトラウマを発動させていて、下手に話しかけられない。


 私は怖くないよと言ったとしても無駄なことである。なぜならそんな安易に解ける問題ではないから。彼はやはり怯えて震えている。


 でも、食べ物を薦めるとおずおず食べた。まずは彼の精神的な部分を調べてみましょう。いくつか、男性使用人にやってもらう。

 ルウナがちょっとでも話すと、すぐに体が硬直して会話が進まなくなるから。ルウナはそれから、ずっと確認するようにその人を見た。


 人となりを知るにはやはり、確認は必要だ。ルウナはこちらを確認しながら、尋ねる使用人たちに目で合図しながら質問を加えていく。彼女はそれから男達と協力して、その人を分析していった。


 とは言え、この世界にはそんな精神分析のような概念は無いので、自分の独学である。素人丸出しのことではあるが仕方ない。この女社会において、精神分析など何の意味もない。


 男達の精神よりも、女達の精神の方が1番優先されるからだ。男たちの精神を気にしていては、子供の数など増えるわけがない。傷つけられようが何をされようが無罪だ。


 優しい世界ではあるものの、やはりそこは生存競争において、何よりも女性が優先される事は揺るがない。それに関していろいろ言いたい事はあるが、違う世界からやってきたので御門違いかなとは思う。


 法律でも女性が優先されるので、自分が口を出しても何か変わる事は無い。しかし、作ることに関しては、己が一番優先されるので、女たちに邪魔される事は無い。

 この世界において、この世で1番の武器であり、防御である。女優先の世界なので邪魔されたらそこで終わりと言うのは、男たちにとってかなりの損失になる。


 ルウナは女たちに邪魔されないと言う鉄壁の防御力を持っているのだ。それは子どもたちにとっても、これから男たちのためのゲームも守れるということ。


 自分が持つ一番のアイデンティティーだ。男性証人たちは、質問の意図がわからないまま、男に質問を続けていく。男もなぜこんなことを聞かれるのだろうかと疑問に思いながら答えているのがそばから見てわかる。


 正直、自分にも質問したからといって解決できるとは楽観的には思えない。だが、女の自分がいても安心だと言うことを知って欲しい。せめて、この家の中は。

 それによって、ゲームの制作への道はかなり進むだろう。ルウナと男たちは、質問を終えると、休憩を挟んだ。まだ怯えている男は、ようやくかと、ほっと息を吐く。最初の時と違って、飲み物に手を出す。それを見て一歩前進だと喜んだ。


「ふう」


 男性使用人たちも内心喜んでいるようで、ガッツポーズをするものなどがいた。自身も同じ気持ちだ。まるで、チームが一丸となったときの達成感のよう。


 ルウナらは早速乙女ゲームについて少し説明する。ゲームはまだないが、軽く説明するくらいなら既に作っている。見せたら、相手もわかりやすいだろう。


(やっとここで、乙女ゲームのあれやこれやがやれる)


 まだスタートラインにも立てていない。ここからだと思い知らされるが、やる気も出る。ゲーム作りは、何より協力が一番必要なことだから。


 それから、数日後。男は乙女ゲームについてわかったのかいろいろ質問してきた。まだまだ、女を怖がっているので、男を返しての問答だ。


 いろいろ知りたいこともあるだろう。質問シートを用意していたので、何でもござれである。と言うのは、冗談。その冗談さえも言えない。なんと、不自由な世界。


 女の自分が思うなんて皮肉だ。しかし、前よりも明るい笑顔があり、精神的に上向いていると思う。これならば、協力して乙女ゲームを作らせることも可能だろう。

 よしよし。と、いうわけで、男たちと女1人による乙女ゲームの制作は始まる。


 現在プロットは少し出来上がっているが、この世界での乙女ゲームは初めてなので、男たちの認識が全然ない。知識も何もかも。

 知るのは己だけだ。専門家をいろいろ招いたものの、乙女ゲームと言う未知の存在は、試行錯誤の連続。


 最初に集めた人たちは、仕事上なんとなくで理解してくれるので、少し話すだけですぐに作ってくれる。頼りになる男たちだ。他の使用人たちもルウナの雰囲気に慣れてきたので、ずいぶん進みが早くなった。


 このまま行けばかなり作れるだろう。ビジュアルも美少女にしておいた。ビジュアル的に現実的ではないが、そんなことゲームでは考える必要がない。


 同人ゲームと言うのはそういうものだ。考えたらキリがない。男たちも作っている間に、それを理解していったのか、どんどんこれを取り入れてはどうかと言う意見を出してくる。

 途中で雇った女性恐怖症の男も加わって、色々と意見を出した。やはり一般人の意見は貴重だ。雇って正解。


「これはどうですか?」


「ここをこうすれば」


 メインヒロインはやはり可愛くないと。せっかく商品として売るのだから。ゲームをやりたくなるという消費者意識も必要だ。

 乙女ゲームを買うときは、やはりビジュアル……とよりジャケ買いする。購買意欲には重要だ。


 小説にも当てはまるが。なので、絵が上手い人を探す。そうして探しあてた人にルウナの理想的な絵を描く人がいた。水彩画が美しく人物像も淡い。


 繊細な感じがして、オファーをすると快く受けてくれた。他の女たちにも、そういう絵を頼まれるので慣れているらしい。人たらしというか、女性たらしなのかな。


 この世界は最強のスキルなのではないか。こんな人がいるんだなぁ。と、思った。自分は幼女なので無関係だし。男性使用人達は、かなり警戒していたし、ガルルガルと威嚇していた。


 金と時間にも言わせて。幼女なので時間はたっぷりある。3年以上費やして完成した。その時には完成披露宴、と言う権力も行使した。

 大々的に動画を配信。女ということもあり、話題。配信も同接がエグい。乙女ゲームと言う新しい風はこの世界で大ブームをひき起こした。


 立役者男達をきっちり並ばせた。自分は遠慮すると言ったが、真ん中に並ばされた。自分が真ん中にいれば、カメラのフラッシュが思いっきりたかれる。

 カメラでフラッシュじゃなくて光攻撃じゃないの?攻撃してしばらく使い物にならなくする攻撃じゃない?

 とんでもねぇ攻撃を受けている。こういう時に、男たちの高い身長があると思うんだが。男たちは、ご自慢のお嬢様をお披露目できて、ご満月らしい。


 それはわかったから、誰かに壁になって欲しい。今すぐ、SOS、ヘルプミー。男たちは、乙女ゲーム制作でかなり自分に対して気安くなったとは言え、今はやはりフラッシュから守って欲しい。


 女尊男卑うんぬん関係なく。まぶしい止めろ。ほんとに目が潰れる。いやもう潰れている。今自分にできるのは、心の中で叫ぶことだけ。


 今騒ぎを起こしたら、やっぱり女は怖いと言う認識を拭えないし。クリエイターとして認識してもらうには、メリットというか良いイメージをつけたい。

 そうなれば!乙女ゲームは爆売れする。まぁ、女が作ったというだけで爆売れするけどね。

 発表から数日後、発売されるようになった。それはもう圧巻というか、既に決まっていたことのよう。ありとあらゆる店からゲームがなくなった。


 乙女ゲームショックと名付けた。ふざけてない。自分たちにもかなりショックだったからだ。爆売れ確実はわかっていたのだから、覚悟していたがなくなるのは驚いた。


 製作者一同は一時期呆然となったが、慌てて準備をしていく。フェルナンデスは、自分のことのように祝ってくれた。周りも自分を筆頭に色々とお祝いの言葉をかけてくれた。


 早くも乙女ゲーム第二弾を望まれるようになった。しかし、今はしばし休憩。とはならず、プロットを書いている。やはり期待されると、体が動く。


 自分にも一端のクリエイター魂があったのだろう。などと言う冗談は置いておく。例の女性恐怖症の男性はルウナと少しだけだが、話せるようになった。

 彼はクリエイターとして才能を持っていたらしい。将来、第二弾の乙女ゲームの大黒柱となることになるとは、夢にも思わなかった。

 意外な才能を持つ人は、どこにでもいるものだなぁと思った。


 使用人からおいしいジュースを注いでもらいながら、優雅なひとときを過ごした。

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