一番のファンタジーは“努力”だと思う
連載で使えそうにない小ネタを短編で吐き出そうシリーズ。
「お願いします! 俺をあんたのクランに入れてください!」
ある冒険者御用達の酒場で、一人の少年が強面の戦士に懇願していた。
少年は小柄で細身、辛うじて成人年齢を迎えたばかりの、いかにも田舎から出てきましたといった風貌。
相対する戦士は大柄で全身筋肉質、右頬に刻まれた傷跡も相まって一目見て歴戦の戦士であることが見て取れた。
「俺は強くなりたいんです! 雑用でも汚れ仕事でも何でもやります! この街で一番の戦士って言われてるあんたの下で学ばせてください!!」
突然の大声に酒場にいた周囲の冒険者たちは一瞬驚きを見せるも、一方が元傭兵中心に組織されたトップクラン『王虎』の団長だと見るや、よくいる無謀な入団志願者かとすぐに興味を失った。
一人静かに酒を飲んでいた団長は、不躾な乱入者に上から下までジロリと視線を巡らせると一言。
「駄目だ」
団長の鋭い眼光に少年は一瞬怯むも、その場で踏みとどまり食い下がる。
「──っ! 何でですか!?」
「うちは子守りはやってない。使えない人間に時間を割くほど暇じゃない」
当然『王虎』はトップクランだけあってその入団条件は厳しい。基本的には幹部によるスカウト制。自ら希望して入団する者がいないわけではないが、相応の実績を積んでいなければ入団試験を受けることさえできない。
実のところこの少年も既に一度門前払いを食らった口であり、それでも諦めきれず団長を捕まえて直談判していた。
周辺のテーブルには他の団員たちの姿もチラホラあり、スジから言えば失礼な小僧を団長から引き剥がし放り出すべきなのだろうが、誰も割って入ろうとはせずニヤニヤ笑って静観している。それは無知無謀な子供を馬鹿にしているというより、ガッツを認めて見守っている風であった。
「俺は絶対に強くなる! 役に立って見せます! だから──」
といっても、彼らが生きる世界は気持ちだけでどうにかなるほど甘いものではない。団長がどういう判断を下すかは、団員は皆聞くまでもなく理解していた。
「無駄だ」
「──っ。む、無駄ってなんだよ……!?」
「お前には才能がない」
端的過ぎる断言に、少年は一瞬呆気にとられ鼻白む。
「さ、才能なんて、やってもないのに分かんないだろ!?」
「分かる」
「だから何でっ!?」
「戦士にとっての才能は何をおいてもまずガタイだ。お前の体格じゃどうにもならん」
それは厳然たる事実だった。戦士の戦いではまず何より体格──パワーと頑丈さ、体重こそがものをいう。
センスや機敏さ、器用さといったそれ以外の要素を軽視するわけではないが、鉄の鎧に身を包んだ体格の良い素人と、小柄だがスピードと技術に優れた一端の戦士が白兵戦で戦えば、大抵の場合前者が勝利する。
鎧の隙間を狙って攻撃できる達人がいないわけではないが、そんな曲芸は余程の実力差がないと成立しない。多少の技術差など押し潰されて終わりだし、そもそもその技術も十分な筋力という土台あってこそ。
翻って目の前の少年は小柄だ。成人男性の平均からすれば極端に小柄というわけではないが、体格が重要視される戦士の中に混じるとその貧弱さは際立った。これでは鍛えたところで満足な筋力や体重は獲得できまい。
弓兵として鍛えるにしてもやはり相応の筋力は必須だ。射程も威力も筋力があってこそ。敵も止まっているわけではないのだから、戦場では針の穴を通すような絶技より鎧の上から敵を貫ける強弓の方が圧倒的に有効だ。
結論として、この少年には戦士として大成する未来が見えない。斥候職など他の役割ならまだしも、彼が望んでいるのは戦士として強くなることだ。であれば、ハッキリと現実を理解させ諦めさせるのが親切だと、団長だけでなく話を聞いていた全員が理解していた。
だが思い詰めた少年は納得しない。
「ガタイが小さくてもデカい奴の何倍も努力します! 才能なんてなくても強くなれるまで諦めない! だから──」
少年は本気だった。本気で才能の有る人間の何倍も努力して、才能の差を覆して見せると信じていた。だが──
「……分かった」
「え!? ほ、ほんとに……!?」
「ただし条件がある」
団長は壁に立てかけてあった予備の長剣──少年の体格ではかなり手に余る大振りな剣──をポンと少年に投げ渡し、告げた。
「明日から一週間。この店の前で日が昇ってから沈むまでその剣を振ってろ」
「一日中、この剣を……?」
「今のお前じゃ連続して一〇〇も振ればすぐ限界が来るだろ。休んでも構わん。可能な限り振り続けろ」
「……それで、いいの?」
どんな条件を突き付けられるか身構えていた少年は、意外に緩い条件に首を傾げる。
団長はかぶりを横に振り、人差し指を立てて続けた。
「もう一つ。日が昇っている間はその場から離れるな。小便や糞ぐらいはかまわんが、それ以外の間は店の前に立ち続けろ」
「ああ……そりゃいいけど」
この時、少年はまだ団長が何を意図してこの指示を出したのか全く理解できていなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日、同時刻。
再び酒場を訪れた団長に、入口で待ち構えていた昨日の入団希望の少年が話しかけた。
「なぁ、ちょっといいかい……?」
チラリと少年の顔を見てみると、指示通り一時外で素振りをしていたらしく皮膚が真っ赤に日焼けしている。一日中身体を動かし続けぐったりしているのは当然だが、肉体以上に精神の方が疲弊しているように見えた。
団長は少年の言いたいを予想しつつ、無言で続きを促す。
「その……素振りの場所を変えてもいいかな? もちろん、サボったりはしねぇよ。ただこの店の前は人通りが多くて、通行人の邪魔になるし……」
「駄目だ」
予想通りの言葉を団長は一言で切って捨てる。
「な、何でだよ!? 素振りなんてどこでやっても一緒だろ!」
「一緒じゃないから、わざわざお前は場所を変えてくれと頼んでるんだろう」
「だからそれは通行人の──」
団長は少年をギロリと睨んで黙らせ、詰まらなそうに鼻を鳴らした。
「一日中剣を振っていた割に、随分と体力が余っているようだな?」
「は──?」
「本気で一日中その剣を振っていたなら、こうしてくだらんことを要求する体力など残ってないはずだが……才能のある奴の何倍も努力するんじゃなかったのか?」
「────!」
顔を真っ赤にする少年の脇を通り抜け、団長は酒場へと入って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さらに二日後の夕方。
偶々仕事が早く終わった「王虎」のメンバーは、少し早いながらいつもの酒場を訪れていた。
まだ日が沈んでおらず、酒場の入り口脇では件の入団希望の少年が一人で剣の素振りをしている。
人通りが多い通りで素振りなどしていればどうしたって人目をひく。小柄で貧弱な少年が必死に素振りをしている姿に、あからさまに嘲笑するような者こそ少ないものの、ジロジロ見たり応援したり、無意識に見下すような態度をとっている者が目立った。
少年はそうした視線や声に一日中耐えてきたのだろう。恥ずかしそうに顔を真っ赤にして我武者羅に剣を振り回している。その出鱈目な動作が余計に周囲の目を引いているのだが、少年にそのことに気づく余裕はないようだ。
「よっ! 頑張ってんな、少年!」
すれ違いざま「王虎」の若手が少年に声をかけその肩を叩く。
「あ──っ」
少年はそこでようやく彼らの姿に気づくが、団長はそれを無視して酒場に入り、団員たちもそれに続いた。
「せっかく頑張ってんだから、団長も一声かけてやりゃいいのに」
「…………」
「バカ野郎。下んねぇこと言ってんじゃねぇ」
「へ~い」
不満そうに絡む若手を団長が無視し、副長が窘める。生意気そうな若手は気にした様子もなく肩を竦め団長の近くのテーブルに陣取った。
そして「王虎」のメンバーが一通り注文を終え、酒が届いて喉を潤し、一心地ついたタイミングで再び若手が団長に絡んだ。
「にしても団長。ちょっと素っ気ないんじゃないっスか?」
「……何がだ?」
「何がも何も、あの入団希望のガキんちょっスよ。そりゃ確かに見込みは薄いかもしんないけど、やる気はあるみたいだし意地悪しないで入れてやりゃいいでしょ」
この若手は戦士業未経験ながら恵まれた体格を見込まれスカウトされた「王虎」のホープ。冒険者歴が短く年齢が近いこともあってあの少年に若干感情移入しているようだ。
周囲の団員たちは若手を止めるべきか顔を見合わせるが、副長が溜め息を吐いて黙認の仕草を見せたことからそのままやり取りを見守る姿勢をとる。
団長は若手をジロリと見返し、彼が本気で理解していないことを見て取ると億劫そうに口を開いた。
「……見込みのない奴を戦場に連れ出す方が残酷だと思わないのか?」
「思わないっスね。見込みがあろうがなかろうが、強かろうがなかろうが、人間死ぬ時は死ぬっしょ。当人に覚悟があるならそれもありじゃねーっスか」
若手は団長の視線に怯むことなく言い返す。
その生意気な物言いに反応を示さない団長に、若手は更に続けた。
「それに見込みって言いますけど、本気で鍛えりゃ小柄でもそこそこの腕にはなるでしょ。そりゃガタイが良くて死ぬほど努力してる奴には届かないだろうけど、うちで訓練受ければ少なくとも一端の戦士にはなれますよ」
それは若手の本音。
彼が入団して一年程になるが、「王虎」の訓練は他のクランとは比較にならないほど厳しく合理的なものだった。この訓練に比べれば噂に聞く近衛騎士団の訓練でさえ生温く、一年この訓練に耐えれば誰でも一廉の戦士になれる。少なくとも若手はそう信じており、実際にそれは概ね事実だった。
才能の壁は残酷だ。そして自分たちは才能に恵まれている。
だが、例え凡人であろうと自分たちと同じだけの努力を重ねればある程度の成果は出るはずだ。そして自分たち以上の努力を重ねることができればあるいは、と。
「確かに。お前はこの一年で随分伸びたからな。才能もあったが、よく頑張った」
団長の口から出てきたのは反論ではなく若手を褒める言葉。予想外の反応に若手は反応に困り目を瞬かせた。
「……お前と同じだけの努力を重ねれば、確かにあのガキもそこそこの腕にはなるだろうな。──お前はあいつにそれができると思うか?」
「そりゃ俺にできたんですから。他の奴にできない理由はないっしょ」
即答した若手に団長は「分かってねぇな」と苦笑した。
「それは……俺が実は努力の才能に恵まれたスゲー奴って意味っスか?」
「プハッ」
若手の図太い反応に団長は吹き出し、笑いをこらえながら首肯する。
「くくっ。ああそうだよ。お前は実はスゲー奴なのさ」
「……まぁ俺がスゲーのはともかくとして、あのガキも中々頑張ってたじゃないっスか。それに努力できるかどうかなんてやってみないと分かんないっしょ?」
「ほう? お前にはアレが頑張ってたように見えたか?」
団長に問い返され、若手は店に入る前に見た少年の姿を思い返す。周囲の奇異の視線に耐えながら剣を振り、頑張っているように見えたのだが──
「……違うんスか?」
「日の出から一〇時間近く剣を振り続けて、まだあのガキには周囲の目を気にする余裕があった。一年前、お前が同じように素振りをやらされた時はどうだった?」
「それは……」
当時の彼は全力で素振りを続けた結果、一日どころか数時間も持たずぶっ倒れていた。その意味で言えば、まだあの少年の追い込みは甘いとも言える。
「それに剣の振り。あれがもう丸三日も剣を振り続けた人間の動きか? ただ言われたからやってるだけだ。バラバラで、何の工夫も成長も見えない」
「…………」
それは若手も感じてはいた。筋力が足りないのは分かっているのだから、もう少し工夫して考えながら動けばいいのに、と。
「でも俺の時とは状況が違うでしょ。俺は先輩に見張られながら寮の空き地で素振りしてましたし。あっちは入団試験として、あんなやり辛い場所でっスよ?」
「そうだな。だがな、才能がない奴が努力するってのは簡単なことじゃねぇんだ。この程度で緩んだり自分を追い込めねぇ人間は、どの道途中で挫折することになる」
若手は団長が言っている言葉の意味が理解できず、眉をひそめた。
「……努力するにも才能が必要ってことっスか?」
「ハッキリ言えばそうだ」
「才能があろうがなかろうが努力するのには関係ないっしょ。別に俺が頑張れたのは才能のおかげじゃないっスよ」
若手の顔は不満そうに歪んでいる。自分の努力を“才能のおかげ”と軽んじられたように感じているのだろう。団長はその反応に理解を示しつつ、言葉を選びながら続けた。
「そうか。じゃあお前さん、生まれてこれまでどんなことを頑張ってきた?」
「……ここの訓練以外でっスか?」
「ああ」
若手は虚空を見上げしばし考え込んでから答えた。
「……村にいた時は狩りとか。後は木彫り細工とかやってたっスね」
「ほう。上手かったのか?」
「狩りはスジが良いって褒められたっス。木彫り細工は俺以外に細々した作業好きなんで。売り物になるほどのモンは作れなかったっスけど、家で使う食器とかはよく作ってたっス」
団長は若手の言葉にうんうんと頷き、続ける。
「そうか。じゃあ逆に努力を避けてきたものはなんだ?」
「避ける……別にないっスけど」
「本当か? お前さんの村にも寺子屋とかはあっただろう。しっかり勉強してたのか?」
「うっ……」
若手は口ごもり、視線を逸らしながらゴニョゴニョと答える。
「そりゃ……正直サボって村のみんなと遊んでましたね」
話を聞いていた他の団員たちから『しっかり勉強しねぇと駄目じゃねぇか』『テメェが言えた口かよ』とからかい混じりのヤジが飛ぶ。
「何でサボってたんだ?」
団長は詰めるでもからかうでもなく淡々と問いを重ねる。
「何でって……勉強が詰まんなかったから? 俺、頭悪いんで、それで」
「つまりお前には勉強する才能がなかった。だから勉強が詰まらなくて、サボってたってことだな」
そこまで言われてようやく若手も団長に言わんとすることを理解する。そして反発した。
「それは──でも、クランの訓練が勉強より楽だなんて思ったことはないっスよ! 散々走らされてしんどかったし、何度も辞めようと思って──」
「分かってる。別に才能のある奴は努力できて当然とかそんなことを言ってるわけじゃねぇよ。才能があってもしんどいもんはしんどいし、努力を怠って才能を腐らせてく奴は山ほどいる」
そこで団長は一呼吸置き、若手がこちらの言葉を聞ける態勢であることを確認し、言葉を続けた。
「だがな。才能のない奴が努力すんのは、才能がある人間の何倍も大変だってのも事実なんだよ」
団長が自分がしてきた努力の価値を否定しているわけではないと理解しつつも、若手はその言葉に納得がいかず唇を尖らせた。
「……よく分かんないっスね。そんなのはやる気の問題っていうか、ただやらない奴の言い訳じゃないっスか?」
「ああそうだ。だがやる気ってのは無尽蔵に湧いて出るもんじゃない。目に見えないから勘違いされがちだが、やる気も何もないところからは生まれないんだ。誰だって飯も食わずに走り続けてたらぶっ倒れちまうだろ?」
そう言われて若手の表情に少しだけ理解の色が浮かぶ。
「それはつまり、才能ある奴は努力したらちゃんと結果が出て、周りからも認められて、好きになって。それでやる気が出るってことっスか」
「そうだ。下手の横好きなんて言葉もあるが、本当に下手なことに熱中できる人間なんてのはそう多くない。大抵は才能や適性があるからそれを好きになるし、下手といってもそりゃ大抵専門にやってる奴の中の話で、本当に平均以下なんて人間はほとんどいない」
その説明は若手にも理解できる部分があった。
自分が厳しいクランの訓練に耐えられたのは日々強くなって成長していく自分を実感できたからだ。もしそれが感じられなければ、牧師の言うことが何も理解できずウンザリした寺子屋の授業のように逃げ出してしまったかもしれない。
彼の兄は絵が好きだった。昔はプロの絵描きになりたいと修行していて、夢破れた今も趣味で描き続けている。プロとして食っていけるほどの才能は無かったにせよ、村で兄の絵は評判で幼い頃は似顔絵を描いてもらいたい子供たちの中心にいた。
努力するにはエネルギーがいる。そしてそのエネルギーを生み出す最たるものが成功体験であることは間違いないだろう。
「でも、やる気って点ならあのガキも十分じゃないっスか? 確かに訓練してて楽しいとかはないでしょうけど、あいつには執念がある。実際にあんだけ頑張ってるわけだし」
「足りねぇよ」
入団希望の少年をフォローする言葉を、団長は嘆息して切り捨てた。
「足りない?」
「ああ。足りないっつーか、質の問題だな。執念だの怒りだの負の感情は長続きしないし、何につけても雑になる。実際あのガキもそうだろ。強くなりたいってウチの門を叩いたはずなのに、あれじゃただ言われたノルマをこなしてるだけだ。お前だったら素振りの仕方一つとっても工夫して考えてやってたんじゃねぇか」
「…………」
確かにその点について不満はある。
「……でも、さっきも言いましたけどあんな大通りで人目に晒されながらじゃ工夫どころじゃないでしょ」
「かもな──だが、それもいずれあいつが直面する壁の一つなんだよ」
団長は酒場の入口を見やり、そろそろ日が沈むな、と考えながら続ける。
「もしあいつがクランに入れば、否が応でも周囲の目や、他の連中との違いを意識せざるを得なくなる。そして直面するんだ。同じ時間、同じように訓練してるはずなのに全く成長しない、ついていけない自分にな──実際、全然同じじゃねぇんだけどな」
「同じじゃない?」
「ああそうだ。同じ時間、同じ量の訓練に見えても、ただこなしてるだけの人間と興味を持って本気で取り組んでる人間とじゃ天と地ほどの違いがある。例えばお前が寺子屋で頭のいいガキと並んで勉強してた時も、頭が茹だって何にも頭に入ってこないお前と違って、そいつはしっかり授業が身についてただろう?」
「ぐ……」
頭のデキが違うのだから仕方ないではないか──若手は脳内でそう反論し、自分が持って生まれたものを言い訳にしていることに気づく。
団長はそんな若手と視線を合わせることなく、ボンヤリ酒場の入口を見ながら続けた。
「あのガキもそうだ。本人はあれでやってるつもりなんだろうが、本質的に剣に興味がないから動きが一つ一つ雑になる。上手くいかないから何が正解か分からず、意味のない無駄な動きを延々繰り返してるんだ。お前はあのガキが自分と同じだけの努力を積めばそれなりにはなれると言ったが、才能がない奴が努力するってのは簡単じゃねぇんだよ。お前とあのガキじゃ努力ってもんの意味や質が全然違うんだ」
「…………」
「それを覆すには普通じゃねぇ何かが必要になる。自分が劣っていると周りから突き付けられながら、喜びも楽しさもない世界に食らいついていくだけの何かが、な」
普通じゃない──まるでファンタジーのようだ。
そして彼はジッと酒場の入口を見つめている団長が、そんなファンタジーを期待しているのかもしれない、と感じた。
続かない。
復讐に燃えるキャラを描こうとして、結局大成するイメージが湧かず断念。