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遁走

 過去に浸っている間にも、状況は動いている。

 大豚が醜く不快の波動のように啼くと、子豚が一斉にこちらを向いて襲い掛かってきた。

 ルシファーに流し目で指示すると、ベルゼブブとは違う凛々しい雄叫びを上げる。

 ルシファーの雄叫びを耳にし、その中でルシファーが指定した者は絶対的な隷属を強要される《奴隷》能力。

 ルシファーの操作によって子豚たちは本人・・・本豚?の意思と関係なく殺し合い始める。

 えげつない能力だな、これ。我ながらヤバいのと契約したもんだ。ところで・・・。

「ルシファー。ベルゼブブ本体は殺し合いに参加してないようだけど、どういうことだ?」

【直ぐに死んでは面白みがないであろう?自身の奴隷を奪われるあの顔を見よ。中々に愉悦よなぁ】

 ・・・子豚さえ押さえてくれればサシで勝てるだろうし、自分で斬るか。

 と、大豚の体が崩れ落ちるとともになにか黒い靄のようなものが飛び出し、壁をすり抜けて何処かへ行ってしまう。

 気になりはしたものの、子豚の残党と大豚を斬り刻んで広場へと帰還した。



「ねえ。今回俺ら要らなかったくね?」

「気にすんな。一応ルシファーはベルゼブブより上位だし、仕方ない」

「それ慰めになってないからね?・・・そういえばさ、アイツの体から出てった黒いのって何?」

「さあ?ルシファー、分かるか?」

 虚童子を出しながら問うと、答えが返ってきた――――



            教えて!ルシファー先生



ふむ、あれが何か分からぬと言うか。愚か、そして無知なことよ。端的に言うと、あれはあ奴の本体よ。悪魔の本質は精神ゆえ、敗北を悟り体を捨てることは往々にして起こりうる―――



 そこで解説は中断される。俺が向けた虚童子と狐童子を見て。

「どういうことだ?」

【どう、とは】

「お前が《奴隷》をあいつに掛けなかったことで、あいつを、悪魔であるあのベルゼブブを取り逃した、そう言っているという事に聞こえるんだが?」

【いかにも。だが少し考えればその理由が分かるであろう】

「理由? 何だそれ。俺の目的は悪魔の根絶だ。どんな理由があろうと関係ない」

 狐火と業火を灯して睨み付ける。

【奴隷化させ、無抵抗となったあ奴を斬り、貴様は満足したのか? ―― 否。色欲を司るあの低俗を嬲る貴様を見たうえで、我はそう判断した】

「・・・・・・」

【しかし、あ奴の顔は見物であった故、一つ情報をくれてやろう。】

「?」

【あ奴は普段、なにを食らっていると思う?】

 は?情報とやらに何の関係が、いや、何か関係があるのか?

 他の魔物を食べていた?いや、魔物は洞窟の奥に辿り着く前に子豚に食われる。なら。

「子豚たち?」

【解は合っているが遅いな。あ奴は自らの配下を食らっていると推測される。あの表情は恐怖よりも、食料を奪われることに向けられていたのやもしれぬな。考えてみれば、我が姿を現したときにあ奴の敗北は確定。直ぐに逃走しなかったのは食料への執着であろう】

 意外と知的なんだな、ルシファーって。

【あの洞窟にはまだ未孵化の《卵》があった。それを目指してあ奴は戻ってくる】

「なるほどな。どれぐらいの時間がかかる?」

【およそ五日ほど。体の構築三日、警戒に二日、と予測する。それすら分らんか】

 言い方・・・。俺そもそも悪魔の体の構築に必要な日数とか知らんし。

 ルシファーの口調の悪さはともかく情報は得た。あとは待つのみ。

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