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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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08. 新しい街

 


「わぁ、噂通りの綺麗な街ですね!」


 再び移動魔法を繰り返し、ようやく降り立った目的地。

 旅芸人のイケメンお兄さんが教えてくれた通り、シュレーデンの街並みは玩具のようにかわいらしかった。

 ラズダル王国東部は赤い瓦葺きの屋根と白壁の建物が特徴的だが、赤と白のコントラストが青い空に映えて、たいへん美しい。

 私はつい「素敵ですねえ!」とはしゃいでしまった。


 ラズダル東部の古い街、シュレーデンは中央に古式ゆかしい教会があり、伝統的な街並みや景観を大事にしているという。

 ラズダル王国自体も歴史ある古い国で、聞けば建国から千年ほど続いてるとか。


 そんな国だから、ラズダルにまつわる伝承は他国と比較しても群を抜いて多い。

 もっとも有名なのは、ラズダル王国初期、聖獣が王家に加護を与えたというものである。

 その聖獣は今なお王宮にいる、と言われているが、真偽のほどは定かではない。城の奥に秘匿されているのか、もういないのかわからないが、この数百年ラズダルの聖獣を見たという人間は表に出てきていなかった。


 聖獣とは、限りなく神に近い獣だ。

 息をするように強力な魔法を操り、時には天変地異さえ引き起こすという。ただ、野に住む聖獣の多くは秘境を住処としているので、目撃情報は多くなかった。

 つまり、人の国に加護を与えたラズダルの聖獣は、かなりの変わり者、と言える。


 だが、聖なる獣に護られた王家であっても、醜い争いと無縁というわけではない。

 数年前、ラズダルは王位継承を巡って政変が勃発。危うく内戦寸前までいった。

 政変そのものは第一王子が幽閉されたことで決着がついたが、王都はしばらく荒れたという。


 とはいえ、シュレーデンは王都から遠く、政変の影響はさほど受けなかったようだ。

 街を見渡しても荒んだ雰囲気は感じられず、住人の表情も明るい。こういう街は大抵治安が良い。

 治安の良し悪しはアルの安全に直結するので、そういう意味でもシュレーデンは合格点だった。


「すごくいい街ですね。次に住むのはここに決定しましょう!」

「オレも構わない」

「うんうん、満場一致ですね。あっ、ほらあれが有名な教会ですよ。あとで見に行きましょう!」

「ああ」


 テンション高めな私を、アルは淡々と聞き流している。

 どうしてこう素っ気ないのだろう。まるで私の方が子供みたいだ。


 親代わりで師匠でもある私としては、少年アルの情緒を健やかに育てなければ、と常々思っている。

 だけど時々距離を感じる。彼は私に心を開いてないのかな、と感じる瞬間があるのだ。

 森で彷徨った過去が影を落として、彼を頑なにしているのだろうか。それとも、欠点だらけの師匠で軽蔑されている、とか。

 後者なら少々へこみますね……


 少しシュンとしたけれど、すぐに気を取り直す。常に前向きなのが私の取り柄だ。

 そして「さぁ、行きましょう!」とアルの手を引き、元気よく歩きだした。




 引っ越し荷物のトランクは、路地裏の片隅に並べて、魔法で目隠しをかけておいた。これなら誰にも見つからないだろう。

 それから軽く食事して(軽くと言っても私は大盛りだが)、街の名物、中央教会を見に行くことにした。


 その途中、私は早くも目移りしていた。何ってそれは……イケメンに。


「あっあそこの八百屋のお兄さん、老婦人におまけしてあげてますね!わぁ、今、ウインクしました……素敵……鼻血でそう……」

「バカ師匠、正気に戻れ」


 スパーン!と弟子に頭をはたかれてハッとした。

 いけない。こんな調子では、二日と経たず再び引っ越しする羽目に陥ってしまう。いい加減、自重しよう。


 しかし反省したのは一瞬だった。


 私はそれからも三人のイケメンに目移りして、その都度アルに頭をはたかれていた。


「あんた、ほんっとーにどうしようもねえな!」

「仕方ありません。私はイケメンを浴びないと死んでしまう体質なんです……!」

「そんな体質あるかぁ!!」


 めっちゃ怒られた。

 そして教会に着くまでの間、私はイケメンを物色する余裕もないほど、弟子にひたすら説教されたのだった。




 街の中心部に建つ教会は、巨大な大聖堂(ドーム)を擁する歴史ある建築物である。

 その白壁と赤い瓦屋根のコントラストは、シュレーデンの街並みと調和し、街の象徴にふさわしい威風堂々とした佇まいを見せていた。


 重厚な扉をくぐり一歩中に足を踏み入れる。少し薄暗い聖堂は、厳かで静謐な空気に満たされていた。

 頭上では、ドームに描かれた精密な女神の御使(みつか)いや聖人たちが、はるか天上からこちらを見下ろしている。


 巨大な半球形のドームを支えるのは、大木のような支柱だ。その柱や壁にも彫刻や装飾が配置されてるので、重苦しさを感じさせない。

 そして聖堂正面には、有名なステンドグラスが壁を彩っていた。


「はぁ、綺麗ですねえ……」


 思わず感嘆の声を上げる。


 光を透かして浮かび上がる、色とりどりの硝子たち。そこに描かれているのは、大地の女神ウルの創世神話だ。

 白い大理石の床の上には、ステンドグラスを透過した光が美しい模様を描いていた。


 大聖堂を見渡すと、木のベンチが何列も設置され、敬虔な信徒たちが祈りを捧げている。

 彼らの邪魔をしないように、小声で「すごく素敵な教会ですね!」と弟子に話しかけると、「そうか?」とつれない返事が返ってきた。


 でも師匠は諦めていません。弟子を感性豊かな大人にする、という野望を。

 魔法ってインスピレーションも大事ですしね!


「この国は、熱心な信者の方が多いのですね」

「はっ、神なんて所詮、気紛れに他人の運命もてあそんでるだけだろ」

「そ、それは不敬というか、極端な意見ですね……でも、私とアルの巡り合わせが、女神の采配によるものだとしたら、私は女神に感謝しますよ」


 少しだけ背の低いアルを覗きこんで、ニコリと微笑んだ。

 彼は私の頭をぐいっと押しのけ、「あっちの祭壇を見に行くぞ」とぶっきらぼうに言って、さっさと歩きだす。


「ええっまだ全然あっちとかそっちとか見てませんけど!?」

「もう飽きた」

「うわ、ひどい!」


 弟子の少年は、振り向きもせずに、スタスタと壁に掛かった絵画の方へ向かう。私は置いていかれないように、慌ててついていった。



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