終章. 愛が重い
本物の求婚から一年後、私たちはついに結婚式を迎える事となった。
アレス殿下は王太子になる際、「妻は自分で選ぶ」と言って譲らなかったらしい。
最初からこんなポンコツ魔女を妃にするつもりだったのだろうか。愛が重い。
陛下やセドリックさんが、私達を生温い目で見てたのも、殿下が私の事を打ち明けていたからだったらしい。
色々思い返すと居たたまれない。
というわけで、状況を理解した時にはすっかり外堀が埋まっていた。
「殿下、良かったですね!」と近しい人ほどおめでとうムードで、私が「やっぱやめた」とか絶対に言い出せない雰囲気である。
でもまったく波風が立たなかったわけではなく、この結婚に反対したラズダル貴族も少なからずいた。そりゃ王族に娘を嫁がせたい貴族なんてゴロゴロいますからねえ……
で、なんやかんやあったけど、国王陛下が味方してくれたおかげで、私とアレス殿下はなんとか無事に結婚にこぎつけた。
私が身を呈して国を救った事と、あとは数年前に政変があったばかりなので、後ろ楯のない娘の方がかえって都合が良いだとか、色々理由はあったようだ。
でも、望まれた相手と結婚できたのはやっぱり幸運だったなぁ、と思う。
普通、王族だとこうはいきませんからねえ……
そうしてようやく迎えた結婚式は──
前回の、立ち会いが鳩一羽という簡略なやつとは全部が違った。
いつしか、国中にお披露目するド派手な一大イベントになっていたのである。
王都の大聖堂で行われた式は、古き王国にふさわしく複雑なしきたりが満載で、何度練習しても緊張せずにはいられなかった。
失敗は断じて許されない。
厳粛な空気の中、つつがなく本番を終えて控え室に戻った時には、膝がガクガクして床に崩れ落ちそうだった。
「はぁーーーー、やぁぁぁぁっと終わりましたねえ…………と、うわっ」
「おい、気をつけろよ」
かくりとバランスを崩した私を、殿下が片腕で難なく受け止めた。そんな殿下にうっかり見とれてしまう。
王族の正装を纏った殿下は、最上級のキラッキラなイケメンに進化していた。
これですよこれ。私はこのご褒美のために頑張ったのです。あぁ、眩しくて目が潰れそう……!
実際、招待客は誰もが殿下に釘付けだったと思う。
前世のアウレリオの婚礼姿は見る事が出来なかったので、私としても感無量。花嫁など添え物扱いで構わない。
わずかな休憩後、私達は、従者に案内されて屋根のないオープンスタイルの豪華な馬車に乗りこんだ。
この後は王都をパレードする予定だ。あとひと頑張り、と気合いを入れ直す。
その時──ふと、誰かに呼ばれた気がした。
視線を上げ、私はアイスブルーの目を見開いた。
一面、色とりどりの祝いの紙吹雪がひらりひらりと舞っている。まるで空から降る花弁のように。
その紙吹雪の向こう。
大通り沿いの屋根の上に、赤と黒の髪をした娘と、その肩に止まった白い鳩が見えた気がした。
その側に私の両親……フラージュ皇王夫妻の姿も。
でも、それは、ほんの一瞬で。
ハッとして、一生懸命目を凝らしたけれど、彼らの姿は陽炎のようにあっという間に消え去って……まるで幻のように影も形もなくなっていた。
「どうした?」
馬車の外を見つめて動かない私に、殿下が怪訝な顔をする。
「いえ……何となく、向こうに知り合いがいたような気がしたんです」
振り返って微笑み返すと、殿下は「そうか」と頷いた。
そんな何気ない仕草さえ、鼻血が出そうなほど格好いい。胸が苦しい。殿下はきっと私を殺しにかかってますね……!
私の心臓って式典が終わるまで持つんだろうか、と少々不安になってきた。赤くなった頬を押さえ、ほう、とため息をついて夫になった彼を見上げる。
「私、これから何度もあなたに惚れ直してしまいそうです……!」
「ぜひともそうしてくれ」
ニヤリと笑った殿下は、私の手を取ってキスをした。
「ところで…………一度聞こうと思っていたが、アウレリオとは誰だ?」
そう言って殿下はにっこり笑った。
だけど目が笑ってない。全く光がない。こわい。
久々のヤンデレ発動の気配だ。
──嫌な予感は的中し、パレードの後で、私は殿下の前世であるアウレリオについて洗いざらい吐かされた。
殿下は当初、自分の前世なのに、アウレリオにめっちゃくちゃ嫉妬していた。私にとってこの二人は、分かつことのできない不可分の存在であり、嫉妬も何もないのだが。
しかし、アレス殿下は最終的に、
「オレ達は必ず出会う運命だったんだな」
というキザすぎる台詞を吐いて、納得していた。自分が言われたのに砂糖を吐きそうだった。
昔婚約者・元弟子・現イケメン殿下の、ヤンデレ拗らせ溺愛はまだまだ始まったばかりである。
そういえば、「実はキスもまだしたことないんです」と殿下に打ち明けたら、すごい顔で驚かれたけれど、思いのほか喜んでもらえた。
「今まで死守してきて良かったなぁ」と私は心から思ったのでした。
fin.
最後までお付き合いありがとうございました!




