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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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33. 甦り

 


 ──意識が覚めていく。

 体が重い。目を閉じていても光が眩しかった。


 薄く目蓋を持ち上げる。ぼやけてた焦点が、少しずつ合ってくる。


 するとそこには──きれいな顔をくしゃくしゃにして、私を覗きこむ殿下の姿があった。


「ロゼが、生き返った……夢じゃ、ないよな……?」

「殿下…………」

「あんたは本当に酷い女だ、オレにあんたを殺させるなんて……っ」


 彼はすがるように私をかき抱く。ぐぇ。苦しい。


「あのぅ…………本当にごめんなさい、ちょっと考えなしでした…………」

「ちょっとどころじゃねえよ!!!」

「そ、そうですね。申し開きのしようもありません……」


 その点に関しては平謝りするしかない。

 真っ赤な目や、酷く憔悴した殿下の顔を見れば、自分がどれだけ彼に残酷な事を強いたのか、痛いほどわかった。やっぱり私は考えなしだ。

 誠心誠意、何度も謝ったが殿下はなかなか許してくれず、ぎゅうっと抱きしめられたまま、いつまでも離してもらえなかった。


「本当にごめんなさい、殿下……」


 広い背中をポンポンと叩いて慰めながら、私は自分のいる場所を見回した。

 上質の家具で整えられた、日当たりの良い部屋。

 仮初(かりそめ)の王太子妃として王宮に滞在していた間ずっと使ってたこの部屋に、殿下は私の亡骸を雪山から運んでくれたのだろう。


 ふと視線を下げると──

 私のすぐそば、真っ白なシーツの上に、一羽の白い鳩が丸くなって横たわっていた。


 聖獣さまは、ただ眠ってるだけのような穏やかな顔をしていた。今にもつぶらな瞳をぱちくりと開いて、あのかわいらしい声で話しかけてきそうだ。

 でも──


 手を伸ばして小さな体にそっと触れる。けれど、指先にいつもの温もりは感じられない。


「殿下、聖獣さまは……」

「あぁ……あんたを黄泉に迎えに行くと仰って、そのまま眠りに落ちたんだ。向こうでお会いにならなかったか?」


 ようやく殿下は私から体を離し、真っ赤な目を擦りながら聖獣さまの事を尋ねた。

 私は冷静に答えを紡ごうとしたけれど、溢れる感情にみっともなく声が震えた。


「いえ……お会い、しました。ですが聖獣さまは、私の代わりに、彼岸(かがん)に行かれたんです」

「…………どういうことだ?」

「甦りには"代償"が必要だから、と。聖獣さまは……私の蘇生と引き換えに、黄泉の国に行ってしまわれました。

 本当にごめんなさい、私のせいで、ラズダルは聖獣を失った……」


 今度は、私が顔を覆って泣く番だった。


 地下施設の蘇生の禁術は、生け贄が必要だった。

 "黒紅の魔女"でさえ、母親を生き返らせる際に自分を犠牲にしようとした。

 それがこの世界の(ことわり)で、誰かを生き返らせるには代償が必要だったのだ。


 ……なぜあの時、思い至らなかったんだろう。

 そこに考えが及んでいたら、生き返ったりなどしなかったのに。


 殿下が必死で慰めてくれたが、私もかなり混乱していた。正直何を言われたかよく覚えていない。

 ひたすら泣いて、泣き疲れてしまった私は、いつの間にか深い眠りに落ちていた。




 ◇◇◇




 聖獣さまの遺骸は、王家が新たに霊廟を建て、そちらに納める事となった。

 それが完成するまでの間は、王宮の礼拝堂に安置されることとなった。


 私は今朝も聖獣さまの元を訪れていた。

 礼拝堂にはやわらかな日差しが射している。

 美しい装飾の木箱に安置された聖獣さまの前に跪いて、私は真摯に祈りを捧げた。


 "地母神ウル"の御元、黄泉の国に旅立った二人の姿を思い描く。

 かわいらしい聖獣さまのことだから、あの"黒紅の魔女"とだってすっかり打ち解けてるに違いない。

 聖獣さまの存在が、終生不遇だった魔女の慰めになっていればいいな、と思う。


 私は静かに顔を上げた。


「さぁて、出立の準備でもしますか」


 礼拝堂には私の他に誰もいない。

 少し行儀悪く、うーんと伸びをしながら呟く。




 "黒紅の魔女"との死闘から約一ヶ月。

 侵略を繰り返してきたエルハイム王国は、ガーネット・イアスという最大の切り札を失って、堰が決壊するように滅亡した。

 急速に膨張し、領土を拡大した国は、瓦解するのも早かった。

 各地で一斉に反乱軍が立ち上がり、王国は瞬く間に崩壊。エルハイム王は腹心に裏切られて自害した。

 ラズダルが手を下すまでもなかった。


 一方、ラズダル王国も無傷ではなく、長年加護を与えていた聖獣を失った。

 国王陛下もアレス殿下も聖獣さまを悼んでおられたが、私を責めたりはしなかった。


 だけどやっぱり、ろくでもない人生を送ってきた元魔女の私なんかが生き返って、ラズダルをずっと守ってきた聖獣さまがいなくなってしまうなんて、絶対に割に合わないと思う。

 私は申し訳なさでいっぱいだった。


 聖獣さまたっての願いであったので、王宮に留まって経緯を見守ってきたけれど、そろそろ私もお役御免だ。

 エルハイムから再び独立した隣国はラズダルに友好的で、あちらの公女とアレス殿下の縁談の話も持ちあがっているらしい。縁談がまとまれば、この国は向こう数十年安定するだろう。


 ……というわけで。


 私は近々、形だけの結婚を解消し、元いた塔に戻るつもりでいた。

 魔女ではなくなったが、王宮魔法師レベルの魔力は残っている。ギルドの依頼を受けながら、慎ましく暮らす分には何の問題ない。

 ラズダルから報酬も確約されてるし、今までの蓄えだってある。


 イケメンはいまだに好きだが、衝動的にデートに誘いたいという欲求はスッキリ消えた。呪いは完全に解けたのだ。

 これからはクズ女ムーブで刺されることもない。ありがとうございます、ガーネット・イアス!


 さて、と私室に戻ろうとして──軽く目を瞪る。

 いつの間にか、腕組みをしたアレス殿下が礼拝堂入口の壁にもたれて立っていた。

 何となく不機嫌そうだ。虫の居所が悪いのでしょうか……と首をかしげていると、殿下がおもむろに口を開いた。


「…………おい、王宮を出ていくってどういうことだよ」

「あら、殿下じゃないですか。ご機嫌うるわしゅう」

「これがご機嫌な顔に見えるか?ああん??」


 相当キレていらっしゃる。相変わらず怒りっぽい。せっかくの美形なのにストレスでハゲちゃいますよ。


「殿下、お言葉ですけど、私の役目は終わったも同然じゃないですか。

 私なんかが婚姻解消もせず、王宮に居座っても何のメリットもありませんよ。それどころか、殿下の正式なご結婚にも差し障りがあるでしょう」

「…………行くな」

「どうしてですか?」

「このクッソ鈍感女……オレがあんたを好きだからだろ。初めて会った時から、ずーーーーっと、好きなんだよオレは!!!」

「………………は?」


 そんなフラグ立ってました??


「…………そういう素振りありましたっけ?」

「むしろそんな素振りしかねえよ!」

「うっそだぁ!ていうか私、今は完全に平民ですけど!?正式に王太子妃なんて、無理むりー!!」

「だったら俺が身分を捨てればいい」

「何を血迷ってそんなことを……」


 絶句していると、殿下はとんでもない事をさらっと言ってのけた。


「父の治世は安定してる。エルハイムの脅威もなくなった。次の王は俺でなくても問題あるまい。王太子の代わりは傍系を探せば幾らでもいる。だが、ロゼの代わりはいない」

「いやでも、年齢差すごいですし!?私は三百歳を余裕で越えてるんですよ!」

「あんたが今まで付きまとってた男だって、みんな年下だろうが。年齢気にしてたら、お前と釣り合う男なんかこの世にいないだろ」

「…………」


「子供だったオレが、どんな気持ちで、あんたとイケメンどもが一緒にいるのを見てたと思う?」


 殿下の目が完全に据わってる。

 いつの間にか、ジリジリと壁際まで追い詰められていた。こわい。


「あんたをこの手にかけた時に思い知ったんだ。オレはあんたなしじゃ生きられない、とな。

 言っとくが、あんたが逃げたら地の果てまで追いかけるか、衰弱死するかだ」

「どんな二択ですかそれ!!?」


 私を一度殺した事で、どうやら殿下は変なスイッチが入ってしまったようだ。

 ヤンデレイケメンも嫌いではないが、呪いが解けた正気の状態だとなかなか重い。重すぎる。


 狼狽えていると、殿下はドン!と壁に手をついた。

 これが噂に聞く壁ドン……!


「契約ではなく、正式な妃になってくれ」


 元弟子の顔は怖いくらい真剣で、瞳は必死なくらいに焦がれていた。

 私が姿を消したら本当に衰弱死するかもしれない、と本気で思ってしまう、切実な感情がそこにあった。


「変わった方ですね……こんな元魔女がいいなんて」


 ふ、と小さく苦笑する。

 私は彼の師匠で、家族のようなものだった。だから彼をそういう対象にしてはいけない、と思っていた。

 相手もそれは嫌だろうと決めてかかっていた。


 でも大事な人には変わりなかった。

 たとえ私が側にいなくても──前世の恋人で、元弟子の彼に、誰よりも幸せになってもらいたくて頑張ったのだ。

 だけど、それで彼が不幸になるなら本末転倒だ。


 元"氷花の魔女"は覚悟を決めた。


「──わかりました。聖獣さまにも頼まれた事ですし、私の命ある限り、あなたのお側で誠心誠意お仕えいたします」


 元より、殿下は最高に好みの顔である。それだけでご飯何杯もいける。

 だから多少の困難も何とかなるだろう。


 物騒な求婚を受け入れたら、殿下は泣きそうな顔で私を抱きしめて、「二度と離さない」と囁いた。



次が最終話です。

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