表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/36

31. 決着

 


 尖塔の上に広がった魔方陣。

 そこから生み出した複数の氷塊を落下させると同時に、風魔法で塔に接近する。

 崩れかかった壁の隙間。そこから鮮やかな赤と黒が僅かに見えた。


「"黒紅の魔女"、ガーネット・イアス!見つけましたよ!!」


 塔の先端が音を立てて崩れ去る。

 その中に立っていた女が、無表情に私を見返した。


 長い髪の半分と右目は、血で染めたかのような深紅。左側の髪と目は、闇よりもなお深い黒。

 三百年前から続く因縁の相手、"黒紅の魔女"ガーネット・イアスだった。


「さぁ、決着をつけましょう」


 私はにいっと笑って、勢いよく塔の中に飛びこんだ。そして予め用意していた護符を相手の結界に張りつけ、思いきり魔力を流しこむ。


 護符がエメラルドグリーンの光を放って輝く。その直後、時空が歪んだ。

 そして私と魔女を、結界ごと、遠く離れた雪山へと転移させたのだった。




 辺りは真っ白な雪に覆われていた。

 真夏でも万年雪をいただく北の山嶺。

 ここは、三百年前、私とガーネット・イアスが死闘を繰り広げた雪山だった。


 そこに降り立った私に、周囲の大岩が次々に飛んでくる。それを避けながら、私も自分の魔法を編み上げていく。


 雪の上に佇むガーネット・イアスの存在は、匂い立つような鮮やかさだった。

 三百年前と変わらぬ赤と黒。

 年を取らない私達は、かつての戦いを再演しているかのようだ。


「……あの額のサークレットが魔道具でしょうか」


 以前との違いがあるとすれば、それだ。

 旧オルガノヴェイン王都から出てきた、人を操るという魔道具。

 あれがそうならば、処分しそこねた私にも若干の責任があるかもしれない。

 一番悪いのは、野心のために"黒紅の魔女"と禁術を利用したエルハイム王だが。


 淡々と魔法を繰り出すガーネットは、さっきからずっと無表情だ。

 以前は憎悪と激情の塊のようだった彼女が、一切の感情が抜け落ちたかのように、眉一つ動かさない。

 ひたすら戦闘に特化した、哀れな人形。

 しかしその内面は憎しみで荒れ狂っているはずだ。


「ロゼ!」

「殿下、こちらです!」


 アレス殿下の呼び掛けに振り返る。

 彼は雷獣にまたがって、こちらに駆けてくる所だった。移動する先の座標は、あらかじめ決めていた。彼は自身の転移魔法を使って追いついてきたのだ。


 飛んできた岩を難なく避け、さらに宝剣で真っ二つに切り裂いて、雷獣に乗った殿下が疾走してくる。


 かつて婚約者だった人。彼より頼もしい味方はいない。

 彼が弟子になってくれて、本当に良かった。


 この雪山を再び決戦場に選んだのは、別に"黒紅の魔女"への嫌がらせとか、感傷なんかではない。

 この雪山に漂う冷気が、私の氷魔法の威力を最大限に引き出してくれるからだった。


「最後の仕上げ、いっきまーす!」

「おう!」


 私の合図に殿下が呼応する。

 聖獣さまのおかげで、私の魔力は無尽蔵にある。しかし魔法の行使には、どうしたって、肉体や精神に負担がかかるのだ。

 激しく目眩がしたけれど、歯を食いしばって耐える。


 素早く詠唱を終えると、辺りは荒々しい吹雪に包まれた。一歩先すら見えない、視界を覆い尽くす白。


 だが氷魔法に特化した、"氷花の魔女"である私だけは吹雪をどこまでも見通せた。

 "黒紅の魔女"や、アレス殿下の位置も、手に取るように分かる。


「聖獣さま、私から離れてくださいね」


 白い鳩の喉をひと撫でする。聖獣さまは、くるる、と少し悲しげに鳴くと、私の肩からどこかへ飛び去った。


 ここからが正念場だ。闇雲に落とされる大岩を避けながら、無詠唱の転移魔法を発動させる。


 次の瞬間、私はガーネット・イアスの背後に立っていた。


「もう終わりにしましょう」


 うしろから女をそっと抱き締める。

 その骨ばった、痩せた体が痛々しかった。母と娘、二代に渡って戦いの道具として使われた、最後の"女神の末裔"。


 私が彼女に同情してしまうのは、偽善だろうか。


 本当に悪いのは、最後まで隠れて姿を見せることのなかった、エルハイム王ではないだろうか。


 だが、ガーネット・イアスにどんな感情を抱こうと、ここで手を緩めるわけにはいかなかった。私は温存していた魔力の全てを注ぎこみ、"黒紅の魔女"を自分ごと凍らせていく。


「ふふ、たとえあなたでも、この強度の氷は解けませんよね」

「…………っ!」


 魔女が声にならない声を上げた。


 足元から這い上がる冷気が、私とガーネット・イアスを急速に凍らせていく。


 ──やがて吹雪が止んだ。


 意識が遠のく直前。

 私の目に、苦しげな表情で剣を振り上げる殿下が映る。


 そういうお顔もイケメンです、殿下。


 殿下なら絶対にやり遂げるだろう、と信じていた。

 氷像と化した"黒紅の魔女"を、私ごと、確実に葬り去ってくれるだろう、と。


 殿下が携えているのは、王家に伝わる宝剣。

 鋼鉄や、私の最強硬度の氷でさえも、スッパリ斬ってしまう剣だった。


 ──予行演習どおり、作戦は上手く行った。


 今までありがとうございます。またいつか、殿下。


 心の中で呟いたのが、最後の記憶。そして私の意識は完全に途切れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ