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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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30/36

30. 戦端は開かれた

 


 特訓も佳境を過ぎたと思われた頃。


「これが最後の特訓です」


 そう言って、私は等身大より少し大きめの氷を作り出した。魔力を圧縮して作った、私の作れる最高強度の氷だ。


「これが斬れますか?」


 殿下が携えているのは、ラズダルで最も切れ味がよい、と言われる国宝級の宝剣だ。

 その昔、伝説の刀鍛冶が刃を鍛え、高位の魔法師がその魔力で強化したとされるその刃は、今なお水晶のような輝きを保っている。


「この訓練に何の意味があるんだ?」

「まあまあ、まずはやってみてください」


 怪訝な顔をしたアレス殿下を、笑顔で促す。

 殿下はすうっと精神集中し、小さく息を吐くと、目にも止まらぬ居合い抜きで、一閃した。


 魔法で硬度を増した氷は、すべすべの断面を晒しながら、スパッと横に真っ二つになった。


「おぉぉー素晴らしい腕前ですね!」

「まあな」


 誉められて満更でもない殿下。剣も相当鍛えている。頼もしいですね!

 そういえば、アウレリオも素晴らしく強い騎士であったことを懐かしく思い出す。


 私はニコリと殿下に笑いかけ、力強く宣言した。


「それでは、近日中にエルハイムに殴り込みをかけます!」

「はああぁ!!?」


 それを聞いたアレス殿下は、すっとんきょうな声を上げた。


「いつの間にそんな作戦になったんだよ!?」

「私の独断です!」

「あのなぁ……!」

「ほら、そろそろ私達の連携技も完璧に近づいて来ましたし、どうせ戦うのであれば、相手が攻めてくるのを待つのではなく、こっちから出向いてやりましょう!先手必勝ってヤツです!!」


「…………確認するが、同行の部隊はどうするんだ?」

「ナシ!私とあなただけです!」

「いくらなんでも乱暴すぎんだろ!!」


 アレス殿下がいきり立つ。でも、殿下だって薄々分かってるはずだ。

 誰かを連れていっても足手まといになるだけだ、と。


「私とあなたで"黒紅の魔女"を倒せなかったら、きっと、他の誰にも倒せませんよ」

「む、それはそうかもしれんが…………」

「ふふふ、私に秘策があるんです。まあ、聞いてください」


 というわけで、アレス殿下に私の作戦を打ち明けた。殿下はそれを聞いて、顔を青くして何か叫んでいた。しかし気にしたら負けである。

 私はすでに国王陛下に判断を仰ぎ、最終的に了承を取り付けている。聖獣さまも渋々だけど「わかったの」と言ってくれた。


 私はアレス殿下の猛抗議をのらりくらりかわし、言葉巧みに丸めこんで、不承不承ながら何とか作戦への了解を得た。


 そして数日後。全ての準備を整えた私達は、エルハイムの王城の前に立っていた。




 ◇◇◇




 ──三百年前を思い出す。

 あの時の私は、フラージュの皇都を背にしていた。隣にいたのは、近衛騎士で婚約者だったアウレリオ。

 彼の死を引き金に魔女に"変質"した私は、あと一歩の所まで"黒紅の魔女"を追い詰めた。

 だが、止めを刺すのに失敗した。


 だから、今度こそ。


 何があろうと"黒紅の魔女"を倒し、この因縁に決着を付けねばならない。


 肩に止まった聖獣さまが、「くるる」と鳴いた。

 その喉を優しく撫で、すっと息を吸い込んだ私は、エルハイム王城に向かって、腹の底から叫んだ。


「たのもーーーーーーーー!!!!」


 同時に、身の内に宿る魔力を練り上げる。


 周辺の温度が急速に下がっていく。

 上空に現れた、巨大な傘のような魔方陣が、幾つもの巨大な氷塊を生みだしていく。


「ふんっ」


 腕を垂直に下ろすと、浮遊していた氷塊が重力に従って落下した。氷塊の直撃を受けた城壁の(やぐら)が、砂山を崩すように崩れていく。


「"黒紅の魔女"ーーー、出てきなさーーーーーい!!!」


 再度、呼び掛ける。


 「……何やってんだか」と隣でため息をついたアレス殿下が、騎乗していた雷獣の腹を軽く蹴った。


 雷獣の喉から放たれた閃光が、荘厳なエルハイムの城門を襲う。鉄の扉が焼け焦げ、城門を守っていた兵士達が逃げ惑った。

 殿下はさらに召喚魔法を使って、大烏(おおがらす)を五羽呼び出した。烏達は、城壁の上で弓を構える兵士に次々と襲いかかってゆく。


 奇襲を受けたエルハイムの兵士達はうろたえ、反撃もままならず右往左往している。

 私はそのさまを冷えた目で眺めていた。


 周辺国への侵略を繰り返し、連戦連勝で領土を広げたエルハイムの王城が、まさかの白昼堂々、たった二人の魔法師に攻められるなんて夢にも思わなかったに違いない。

 "女神の末裔"を手中におさめ、向かうところ敵なしだと油断していたのだろうが…………


 ふふ、残念でした。

 こんな国、早晩滅亡するに決まっている。


「ガーネット・イアスーー!!でーーてーーこーーいーーーー!!」


 城壁に再び氷塊を落とす。

 容赦なく攻撃を加えながら、私達は"彼女"が出てくるのを待ち構えていた。


 ……が、一向に出てこない。


「ひょっとして、ガーネット・イアスは留守なんでしょうか…………?」

「おいおい、ここまでやっといて出直すとか無理だぞ!!」


 アレス殿下が青筋を立てて怒鳴った。

 この奇襲は、ラズダルからの宣戦布告でもある。後戻りなんてできない。


 どうしたものかと考えていた、その時だった。


 覚えのある強烈な魔力が、エルハイム王城の奥で膨れ上がった。


「良かったぁ、いたみたいですね!!」

「はしゃぐな、集中しろ!」


 わぁい!と歓声を上げた私を、殿下の緊張した声が叱咤する。


 静電気にも似た、ピリッとした感覚が肌の上をなぞっていく。

 強敵の気配だ。ぞくぞくする。無意識に口許が笑みをかたちづくる。


「うん?」


 そこで私は、首を捻った。櫓を壊して山と化した瓦礫が、ふわりと浮かび上がったからだ。


「……ふふ、懐かしいです。相変わらず土魔法特化なんですね」


 前回、対峙した時と同じ。"黒紅の魔女"の魔法だ。


 宙に浮いた瓦礫がぼうっと輝く。

 瓦礫は、魚の大群のようにぐるぐると空中を廻りながら次々と積み上がっていく。

 最終的に完成したのは、見上げるほどに巨大なゴーレムだった。


 ゴーレムは私達を威嚇するように、ブン、と太い両腕を振った。


「人形遊びもよいのですが、姿を見せてくださいな。殿下、ゴーレムは任せますね!」

「わかってる!」


 私は風魔法で空中に浮かび上がり、自分の周りに結界を張って、城を見下ろした。

 矢とか石とか魔法の炎が足元から飛んできたけれど、余程の攻撃でなければ、私の結界はそうそう壊れない。


 目を閉じて気配を探る。


 あれほど巨大なゴーレムを操る場合、相当な魔力と精密な操作が必要になる。

 最強の魔女の一族、"女神の末裔"といえど、あのゴーレムを遠隔操作するのは難しいだろう。


 "黒紅の魔女"は必ず近くにいる。


「……発見しました!」


 気配を探っていた私は、遂に土魔法の源を発見した。王城の一角に聳える、古い尖塔の最上階。ゴーレムの魔力はそこから供給されている。


 ガーネット・イアスは、あの塔にいる。

 肩に止まっていた聖獣さまも「くるる」と鳴いた。


『うん、"女神の末裔"はあの塔にいるの!』

「了解です。では行っきまーす!!」


 攻撃魔法の前に眼下をチラッと見る。

 丁度、殿下の雷獣がゴーレムに雷撃を浴びせたところだった。


 電撃が人形の肩に直撃し、轟音と共に砕け散る。

 だが、感情も痛覚も持たないゴーレムは怯まない。無機質な動きで、殿下に襲いかかった。


 殿下はさらに、全身固い鱗で覆われた召喚獣を呼び出した。アルマジロのような姿のそれは、体当たりや鋭い爪でゴーレムを削っていく。


 その間に、再度、雷獣の攻撃がゴーレムを強襲。

 雷撃は腹の一部を削ったが、致命的とは言いがたい。アレス殿下も相当善戦しているけど……土魔法と召喚魔法は、ちょっぴり相性が悪そうだ。

 しかし、殿下にはここで踏ん張って貰わねばならない。


 目を閉じて、深く息を吐く。

 次に目を見開いた瞬間、私は"黒紅の魔女"がいる尖塔に向かって渾身の魔法を放っていた。



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