表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/36

28. つかの間の休暇

 


「今日の特訓はお休みです!」


 朝、顔を会わせた殿下に、私は高らかに宣言した。


「……は?"黒紅の魔女"の侵攻が間近に迫ってるっつうのに、そんな悠長な事出来るかよ」


 アレス殿下は眉を寄せて反論した。

 たしかに一理ある。一国を背負う王太子なら、その懸念と責任感は当然だろう。

 でも、ここ最近の私のスパルタな特訓で、殿下の麗しいお顔には疲労の色が濃い。そろそろ休息が必要だ。

 私は、殿下にニコリと笑いかけた。


「大丈夫です。というか、むしろ今のうちです。

 エルハイムの動向を探ってる間者さんから、ラズダル侵攻の準備はまだ整ってない、という報告があったそうじゃないですか。

 実際、侵攻が始まったら、ゆっくりお出かけなんてできませんからね!」

「それはそうだが……」


 渋る殿下に、私は腰に手を当てて胸を張った。


「根を詰めすぎても良くないです!師匠権限で、四の五の言わずに出掛けます!セドリックさんにも、今日は一日自由に過ごしていいと許可をいただいてますし!」

「おい、いつの間にあいつとそんな話したんだ」

「ふふ、ちょっと驚かせようと思って内緒にしてました。びっくりしました?」

「……ふうん」


 してやったりな私とは対照に、殿下は少し拗ねている。秘密にしてたのが面白くなかったようだ。難しいお年頃ですねえ。

 面倒くさい男心に気づかないふりをして、強引に話を進める。


「というわけで、今日はこの私が、殿下のお好きな所にお連れします!海でも山でも街でも、何でもリクエストしてください!」

「……二人で出掛けるのか?」

「そうですね、あと聖獣さまもご一緒します。あっ、護衛の方もお連れした方がいいですか?」

「いやいい」


 なぜか殿下は即答した。

 そして少し考えてから、「東方の海に鯨の群れが来ていると聞いた。可能であれば、それが見たい」と呟いた。


「鯨ですかあ、いいですね!」


 手を叩いて喜びながら、私は少しだけほっとしていた。鯨のいる海上に、イケメンがいるなんてことはないだろう。


 ──私にかけられた呪いは完全に消えたわけではない。いまだにイケメンに目移りしてしまうし、誰かに衝動的に声をかけないとも限らなかった。

 それでせっかくの休日が台無しになったら悲しいし、どうせなら、人のいない自然豊かな場所の方がありがたかった。

 これが、"黒紅の魔女"と戦う前の最後の自由時間になるかもしれない。だから殿下には楽しく過ごしていただきたい。


 ちなみに私は、城の中でも男性仕官と接触しないようさりげなく隔離されている。仮初とはいえ、王太子妃が殿下以外の男とトラブルになったら、まずいどころじゃないからだ。


「承知しました。私めにお任せください」


 わざとおどけながら恭しく礼をする。それから、私は長距離移動の魔方陣を展開した。




 ◇◇◇




 やってきたラズダル東方の海は、以前、シーサーペントを討伐した場所の付近だった。

 鯨達はあの魔獣を怖がって、一時期この辺りを避けて回遊していたらしい。でもシーサーペントがいなくなってからは、また姿を見せるようになったそうだ。


 ぐるりと見渡せば、実に穏やかな大海原が広がっている。青い空と青い海に挟まれて、とても気持ちがいい。


『あたしも鯨は見たことないの、すごく楽しみなのー!』


 私の肩に止まった聖獣さまも嬉しそうだ。純白の翼を広げたり畳んだりして、興奮気味なのが伝わってくる。


「聖獣さま、鯨の気配はわかりますか?」

『ちょっと待ってなの。いま探してみるの』


 魔獣と違い、鯨は普通の生き物だ。私の魔力感知で探すことは出来ない。

 というわけで、鯨探しは生き物の気配に敏感な聖獣さまにまるっとお任せした。


『むーん………あっ、多分あそこにいるの!』

「さすが聖獣さま。ありがとうございます!」


 暫く集中してた聖獣さまは、パッと顔を上げ、南の方を翼で指し示す。


「あっちだそうです!行きましょう、殿下」

「ああ」


 雷獣に股がった殿下と並んで、翔ぶように移動する。すると、海面から大きく潮が噴きだすのが見えた。


「あ、あれですね!もうちょっと近づいてみましょう!」

「おい待て、ロゼ!」


 初めて目にする、巨大な海洋生物。

 高揚していた私に、殿下の制止は聞こえていなかった。


 ブシュウ、と再び大きく潮が噴き出す。

 まるで海水の柱だ。水飛沫が明るい陽光を弾いて虹色に光る。


『鯨、でっかいのー!』

「すごいですねえ!」


 うわあーうわあー、と聖獣さまと私は子供のように歓声を上げる。興奮しすぎた私達は、すぐ下の海中からせりあがるように顔を出す、群れで一番大きな鯨に気づくのが遅れた。


「わぁあっ!!」

『きゃあ!』

「ロゼ、聖獣さま!!」


 私達は、鯨の大ジャンプに巻き込まれてしまったらしい。殿下の焦った声が聞こえた。

 鯨が、体を捻るように海面に躍り出た。その大きなひれの端っこに私は引っ掛かってしまったらしい。

 気がついたら海の中に飲みこまれていた。


 ──そこは深い青の世界だった。

 何もかも青く染まった水中で、流線型をした巨大な鯨が悠々とすぐ横を通りすぎる。

 一瞬その雄大さに見とれたけれど、すぐにそれどころではなくなった。

 息ができない。ガボ、と思わず水を飲む。

 あ、これはまずい、と思った瞬間、力強い腕に引き上げられた。



 ザバ、と海面に顔を出すと同時に、呼吸が自由になる。私は殿下に抱えられ、雷獣の背中でゲホゲホと激しく噎せた。


「平気か?」

『ロゼ、大丈夫なの?』


 見ると、アレス殿下とその肩に止まった聖獣さまが、心配そうに私を覗き込んでいる。

 聖獣さまもびしょ濡れですね。しかし咄嗟に飛んで難を逃れたのか、海には落ちなかったようだ。


「大丈夫です。殿下にはご迷惑をおかけしました……」

「まったく、いい年してはしゃぎすぎなんだよ」

「私は永遠の十代です」

「相変わらずの減らず口だな……」

「いえ、でも本当に助かりました。ありがとうございます」


 はあ、と一息ついて礼を言う。殿下は「無事で良かった」とそっぽを向いた。殿下も相変わらずのツンデレですね……

 しかしこの体勢は……


「……あのう、もう平気なので、離して貰っても大丈夫ですよ……?」

「……っ!」


 殿下は私の腰を抱えて、密着したままだ。指摘すると、彼はカーッと赤くなって慌てて手を離す。

 この世の女性はみんなオレのもの、と言わんばかりの男前なくせに、殿下は案外純情だ。しかも、相手は三百歳を超えた魔女だというのに。


 生温い目で微笑んでいた私ですが……ふとあることに気づいてしまいました。雷獣に乗ってると、風魔法を使わなくていいからすっごく楽……!


「……もう少し、ここで休んでてもいいですか?」

「好きにしろ」


 ふてくされた横顔のまま、殿下は許可してくれた。雷獣の背に乗った私達は、ゆったりと泳ぐ鯨達を眺め、水平線に消え去るまで見送ったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ