表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/36

26. 生まれ変わって

 


 "黒紅の魔女"ガーネット・イアス。

 彼女の生い立ちに、同情の余地はあると思う。


 唯一の肉親だった母親は、自由を奪われた挙句、殺戮の道具にされ、彼女を逃がそうとして目の前で殺されてしまった。

 ガーネット・イアスは自分の魂と引き換えに、母親を生き返らせようとした。

 以前、私が旧オルガノヴェイン王都跡で見つけた、生贄を代償に死者を蘇らせる魔法を使ったのだろう。


 ……だが蘇生は失敗し、逆に母親の魂を取り込んで、ガーネット・イアスは最凶の魔女へと変貌してしまう。


 彼女はそれから幾つもの国を滅ぼし、悪逆の限りを尽くした。だが、最後には私に氷漬けにされ、封印された。

 そして三百年ぶりに封印を解かれたと思ったら、エルハイム王の手に落ちており、母親同様に禁忌の術で操られている。悲惨というほかない。


 しかし、私の国フラージュ皇国を滅ぼしたのも"黒紅の魔女"だ。

 彼女こそ、私の家族と婚約者を殺し、記憶を奪って呪いをかけた張本人でもある。


 大体、呪いの内容もえぐい。

 あの女は、婚約者だった騎士の生まれ変わりと私を出会わせたくないからと、私に男関係のトラブルで死ぬ呪いをかけたのだ。

 一応死ななかったけど、めちゃくちゃひどくないですか……!?


 思えば、八股かけて刺されたのも、盗賊に騙されたのも、あれもこれも呪いのせい。私はちょびっとしか悪くない。

 許すまじ"黒紅の魔女"。


 あっ、でもイケメン好きは記憶を失くす前からでしたね!そこは責任転嫁してはいけない。

 まあ、「イケメンは癒し」なのは今もそうだし。

 こういうお気楽な性格だから、呪いにかけられた記憶喪失でも、深刻にならずに済んだのかも。結果よければ全て良し……良しなのか?


 いやそれより。

 記憶が戻ってめちゃくちゃ気になってるのが、アウレリオ……婚約者だった騎士のことだ。

 あの顔。すっごく見覚えがある。見覚えがあるというか、つい先ほども見た顔だ。

 もしかして、アウレリオの生まれ変わりって────?




 意識が少しずつ浮上していく。

 そばに誰かの気配がして、私は薄く目を開いた。


「目が覚めたか。大丈夫か、ロゼ」


 心配そうに私を覗きこんだのは、アレス殿下だった。……その秀麗な顔立ちに、かつての婚約者の面影が重なる。


 ──二人は本当に、よく似ていた。

 他人の空似とは思えないほどに。


「ロゼ、どうした。どこか痛いのか……?」

「ごめんなさい、何でもありません」


 顔だけじゃない。きっと、魂のかたちも同じなのだろう。


 そう思ったら、いつの間にか、はらはらと涙が零れていた。嬉し涙なのか、前世の彼の死を悼んで泣いてるのか、自分でもよくわからない。

 ぐちゃぐちゃな感情のまま、(うしな)った彼の名を呟く。


「…………アウレリオ」


 両手で顔を覆う。

 そんな私を見下ろして、殿下は複雑な顔をしていた。しかし掌で目元を覆っていた私は、彼の表情に気がつかなかった。




 ◇◇◇




 記憶を取り戻して、かなり心が乱されてしまった。

 しかーし、立ち直りが早いのが私の取り柄。

 ひとしきり泣いて、少し寝て起きたら、心はもう凪いでいた。三百年生きてたらそこそこ図太くはなれる。レーネには敵わないけど。


 気分が落ち着いた所で、意識を失って運びこまれた客室から、殿下の部屋に移動した。

 ちなみに聖獣さまは私の肩に乗っている。


 殿下の部屋に着くと、私は「わぁ!」と目を輝かせた。テーブルの上に、出来立ての軽食がたんまり用意されていたからだ。ものすごくいいにおいがしますね!

 お腹が空いてたら何もできない。ぐちゃぐちゃの感情から復活した私は、まず殿下への状況説明と腹ごしらえを希望したのだ。


 殿下の向かいにいそいそと着席し、おもむろにサンドイッチを手に取る。それを齧る前に、高らかに殿下に宣言した。


斯々然々(かくかくしかじか)で、聖獣さまと契約できました!」

「そうか、それは良かった」

「ええ!」


 ほっとしている殿下に大きく頷く。

 私の肩に止まった白い鳩さんも、くるっぽー、と小さく鳴いた。かわいい。


「ついでに聖獣さまが呪いを弱めてくれたみたいで、魔女になる前の記憶も戻りました。やっぱり記憶喪失も呪いが関係してたっぽいですね。

 呪い自体は多少残ってるようですが、これでもう、クズ男に引っ掛かる確率はさらに減るでしょう!」


 どや顔で胸を張って、サンドイッチを頬張る。

 これから私と殿下は、彼の父であるラズダル王に謁見するらしい。その前に腹ごしらえは必須だ。


 私の場合、空腹だと魔力制御がものすごく不安定になる。

 聖獣さまから魔力を貰い、元の数倍に増強された今、万一暴走させたら相当な被害が出るはず。

 私のせいでラズダルが壊滅したら、"黒紅の魔女"並みの悪逆魔女になってしまう。それは避けねば。


「殿下は食べないんですか?」

「俺はいい。あんたが好きなだけ食べろ」

「はい。では遠慮なくいただきますね!」


 テーブルに並べられたサンドイッチやスコーン、お菓子、フルーツを片っ端から平らげていく。

 王宮だけあってどれも美味しい。

 あ、レセプもありますね。あれは貰って帰ろう。


 もりもり軽食を平らげながら、甦った過去の記憶や、"黒紅の魔女"との因縁もかいつまんで話した。

 殿下は私の過去話に目を瞪って聞き入っていたが、私が一通り話し終えると、「あんたは相当数奇な運命の元に生まれたんだな」と嘆息した。

 いえいえ、あなたもなかなかですよ、と思ったが口には出さない。


「どこかの貴族の出だろうとは思ってたが、フラージュの皇女で、"黒紅の魔女"を封印した本人だったとはな……」

「ほんと、びっくりですよね!」


 林檎を齧りながら相槌を打つと、殿下は呆れた顔をした。


「なんだ、他人事みたいだな」

「だって三百年も前ですから、今さら感が強くって……私はそもそも過去を振り返らない主義ですし。

 ただ、あの魔女が因縁の相手であるというのは間違いありません。呪いのお礼もかねて、今度こそキッチリ倒してやります!」


 「今に見てろです!」と宣言したら、殿下に神妙な顔をされた。


「…………今さらこういうことを言うのは卑怯かもしれないが、これでも、あんたを巻き込んだのは悪かったと思ってるんだ」


 あらあら。ツンデレ殿下が珍しく殊勝ですね。


「いえ、殿下が巻き込まなくとも、私はおそらく"黒紅の魔女"と対峙せざるを得なかったと思います。これも女神の采配でしょう。

 それに私は殿下の元師匠です。元弟子を助けるのは当たり前です!」

「……感謝する。だが、危なくなったら必ず逃げてくれ。俺を盾にしてでも」


 あんたを死なせたくないんだ、と元弟子が真剣に言う。私は三個目のスコーンを齧りながら苦笑した。


「私は、元弟子を盾にして逃げるような卑怯者ではありません。殿下こそ、危なくなったら命優先にして逃げてください」

「…………」

「あなたは、この国を背負って立つ王太子なんですから」


 ニッコリ笑って言う。

 アウレリオの二の舞にはさせない。今度こそ、"黒紅の魔女"を倒し、殿下に生きてもらわねば。

 それが、生まれ変わっても私に会いに来てくれた彼にしてあげられる、唯一の償いだと思う。




 その後、ラズダル国王との謁見は滞りなく終わった。

 陛下はあらかじめ事情をご存知だったようだ。しかし、「よくぞ王子妃になってくれた」と礼を言われ、「息子を頼む」と親の顔で微笑まれた。

 あのう、私達、契約結婚ですよね…………?

 何か誤解がある気がしてならない。

 いや絶対ある。いずれ訂正しておかねば。


 謁見の際、国王陛下の隣には、シュレーデンの街で会ったセドリックさんも控えていた。

 彼も、なぜか生温い目で私達を見守っていた。一体何なんだ。


 久しぶりに見たセドリックさんは、相変わらずシュッとして格好良い。八年分の年月が風格として上乗せされ、ほどよく熟成した青年になっていた。


 そういえばアレス殿下も、ちんちくりんな少年から華麗なイケメンへと成長している。

 時間は止まることなく、みんなの上に等しく流れている。

 ……私を除いて。


 魔女という生き物は、魔女になった瞬間から時間が止まったかのように年を取らない。生涯変わらぬ外見のまま過ごすのだ。

 自分が人の営みから外れた存在だということを、改めて突きつけられた気がした。




 アレス殿下がアウレリオの生まれ変わりだろう、という話は誰にもしなかった。

 殿下には前世の記憶がない。過去に巻き込むより、今のまま、まっさらな人生を送って欲しい。そう思ったからだ。


 私を庇って命を落とした後も、転生して約束を守り、会いに来てくれるくらいだ。祝福をかけたのも、おそらく殿下なんだろう。

 アウレリオも殿下もいつだって私を助けてくれる。感謝しかないが、そろそろ私から解放されてもいいはずだ。


 だから。

 私は殿下にちゃんとした幸せを掴んでほしい。相手は私じゃなくていい。

 皇女ローゼンヴェルデとして、アルの師匠として、それだけは絶対に譲れなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ