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恋多き純情魔女は、弟子の溺愛フラグに気づかない  作者: es


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25. 契約と記憶

 


 この鳩さん、なんだか見覚えがありますね。

 結婚式の時に礼拝堂にいらっしゃったような…………?


「──ロゼ、こちらの御方が、我がラズダル王家の聖獣であらせられる。挨拶を」

「くるっぽー」


 殿下が純白の鳩さんを指し示す。

 枝に止まって小首をかしげ、じーっとこちらを見ている鳩さん。かわいい。


 ……でも、やっぱり礼拝堂にいた鳩さんですよね。

 自ら指名した魔女が気になって、こっそり見に来たのでしょうか。


「お目にかかれて光栄です、聖獣さま。"氷花の魔女"ローゼンヴェルデ・クロイラインと申します」


 小さく会釈すると、白い鳩はパタパタと飛んできて私の肩に止まった。

 鳩だから表情は読めないが、何となくお気に召していただけた気がする。天変地異とかにならなくて良かった……!


 ────と、安心したその時。

 私の頭に直接、不思議な声が語りかけてきた。


『どうかあなたの力を貸してほしいの、"氷花の魔女"』


 おお、鳩さん……じゃなくて聖獣さまが喋った!




 聖獣さまは切々と私に訴えかける。


『あたしは"地母神ウル"の使命を受けし者。わが女神は、"黒紅の魔女"を救ってほしいと願ってるの』

「救ってほしいと言いますと…………?」


 "地母神ウル"。それは、この世界の創世神にして最高神だ。

 聞き返したら聖獣さまは哀しげに答えた。


『"女神の末裔"が最後の一人、"黒紅の魔女"ガーネット・イアス。あの子は禁忌の術をかけられ、エルハイム王の支配下にあるの。

 ガーネットの心は追い詰められて、このままだとあの子は世界もろとも破滅に巻き込むかもしれないの。

 女神はそれを止めたいとお思いだけど、こっちの世界に直接干渉はできないの。それが女神の"戒"なの』

「なるほど。地母神にも事情がおありなんですね」


 確かに、神がその時々で存分に力をふるえば、この世は大混乱に陥るだろう。聖獣さまの話はもっともだった。


『そこで、あたしを媒介に、女神の力をあなたに分け与えたいの。その力を使ってガーネットを止めてほしいの!』


 ………幼い少女のような、かわいらしい声が懇願する。

 でも絶対断れないやつだ。ものすごい圧を感じる。さすが聖獣さま。


「わかりました」


 こくりと頷く。

 すると肩に止まっていた鳩さんの触れていた箇所が、ぽっと熱くなった。

 次いで、体の内側に熱い塊をぐっと押し込まれるような感覚があった。しかし何かに引っ掛かったかのようにせき止められてしまう。


『んんんーーなんか呪いっぽいのが邪魔してるの。少し弱めておくの。えい』


 その瞬間、力の塊を止めていた堰が壊れた。

 流れ込んだ熱が体内を駆け巡る。


 これが女神の力なんだ……と思った時には、注ぎこまれたエネルギーが爆発的に膨れ上がっていた。


「う、あ、……っ」


 堪らず呻き声を上げてしまう。私は元々の魔力量が多いが、その数倍はあるだろうか。

 一気に膨張した魔力の圧が、精神と体に重くのしかかる。負荷に耐えきれない、そう思った瞬間──

 暗闇を転がり落ちるように、私は意識を失っていた。




 ◇◇◇




 ──────外は雪が降っていた。真っ白の銀世界だ。

 それなのにガラス一枚隔てた建物の中は、春のように暖かい。綺麗な花が咲き乱れ、楽園のように美しい。



 …………そうだ、ここは、皇宮の隅にある温室。

 私のお気に入りの場所。


 温室のベンチで本を読んでいた私は、一旦それを閉じて、側に控えていた騎士に話しかけた。


「────ねえ、アウレリオ。こちらを向いて?」

「藪から棒に何ですか、ローゼンヴェルデ姫」

「はぁ……やっぱりあなたの顔、最高ですね。ほんっとーにイケメンです!」

「姫、冗談はやめてください……」

「冗談ではなく本気です。マジです」

「どこから覚えてきたんですか、そんな言葉……というか、俺なんかより顔のいい男はいくらでもいますよ。それより、顔がいいだけの悪い男に貴女が誑かされないか心配です」


 思いもよらない事を言われて、私はパチパチ瞬きをした。


「何を言ってるんですか、アウレリオ。天地がひっくり返ってもそれはありません。だって私、あなたの中身もすごーく好きなんですよ!」


 力説すると、騎士は照れてそっぽを向いた。

 そんな横顔が微笑ましい。


「婚約発表が楽しみですね。そしたら、あなたの顔をいつでも見放題……!」

「…………それは良かった」


 ────これは、私が魔女になる前の出来事。





 記憶の断片が、さらに流れては消えていく。


 場面は、皇宮の会議室に移った。


「ご報告申し上げます!"黒紅の魔女"が転移陣を構築!魔女率いる魔法兵団が、皇都からわずか1メルカの位置に出現しました……っ!」

「何ということだ……」


 顔色を失くしたお父様を見て、私は全ての躊躇いを捨てた。


「お父様、いえ、フラージュ皇王陛下。私とアウレリオを前線に行かせてください」

「ロゼ、何をバカな事を……!」

「私はこれでも、この国一番の魔法の使い手です。私が国を守らずに、誰が守るというのでしょう。もはや一刻の猶予もありません……行きましょう、アウレリオ」

「はっ!」

「待ちなさい、ロゼ!」

「お父様、お達者で」


 父にニコリと笑いかける。私とアウレリオの足元に転移の魔方陣が浮かび上がった。


 風景が変わる。

 皇都の城壁を背にする私達。その前に立ちはだかるのは、黒と赤の髪を靡かせた魔女と、彼女が率いる魔法兵団だった。




 場面が再び切り替わった。

 アウレリオは私を庇い、瀕死の重傷を負って倒れていた。傷はあまりに深く、私の魔法では治せない。

 高位の回復魔法を覚えておけば良かった、と後悔しても遅かった。


 皇都はすでに灰色の瓦礫と化している。空から舞い降りた雪が、その上に降り積もる。

 私は彼にとりすがって、ひたすら泣きじゃくっていた。


「────生まれ変わって、またお会いしましょう…………」


 最後の言葉を遺し、騎士が息絶える。

 私は絶望の底にいた。

 そうして蹲る私に────突如、異変が生じた。


「っ、あぁぁあああっ…………!」


 激しい苦痛と共に、急速に魔力が高まって、奔流のように溢れだす。

 魔力が爪先から髪の先まで駆け巡って、私を別の何かに作りかえていく。


 やがて魔力の嵐が過ぎ去った後──私の体はもはや常人ではなくなっていた。尋常ならざる魔力を持つ、魔女という存在に"変質"していたのだ。


「許さない」


 ついさっきまで魔力を使い果たし、疲労困憊していたのに、今は体の隅々まで力が充満している。

 もう、"黒紅の魔女"が相手でも負ける気がしなかった。


 私は立ち上がって、離れた場所に立っている魔女を睨みつけた。



 …………これが私の魔女になった瞬間だ。



 全部思い出した。

 私はフラージュ皇国の皇女、ローゼンヴェルデ。

 本当の名は──ローゼンヴェルデ・クロイライン・アス・フラージュ。


 このあと、私は"黒紅の魔女"と死闘を繰り広げ、最終的に雪山の奥まで相手を追いつめて、とどめを刺そうとして──

 一瞬の隙を突かれ、強烈な呪いをかけられたのだ。




 見渡す限り白銀の世界だった。

 雪山のただなか。黒と赤の髪をなびかせた魔女が哄笑を響かせる。


「お前は記憶を失い、愛しい騎士と二度と会う事なく、下らない男共に翻弄されて死ぬのよ。我が呪詛、受け取るがいいわ…………」


 "黒紅の魔女"が氷に覆われていく。さらに攻撃魔法を撃ったが──呪いで威力が削がれた。

 あの女は化物級の魔女だ。中途半端な魔法では、確実な死には至らないだろう。


 僅かに残った魔力で"黒紅の魔女"に封印を施した私は、そこで力尽きた。



 次に目覚めた私は──記憶を失い、男運最低な、イケメン狂いの魔女になっていた。



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