22. 急転直下
今回ちょっと短めです。
留守のあいだ荒らされてしまわないよう、塔の周囲に結界を張っておく。それからアレス殿下の部下と合流し、ラズダル王宮を目指して移動した。
塔はラズダル国内にあったので、魔法を使えば、王宮までそう時間はかからなかった。
──ラズダル王宮に無事到着してから数時間後。
急転直下。
私はなぜか豪華な純白のドレスを着せられ、正装したアレス殿下と向き合っていた。
"氷花の魔女"こと私、ローゼンヴェルデ・クロイラインは、物事を深く考えない性質だ。
行動派、というより考えなしであり、「思考の前に突進して壁に激突する」という猪レベルの行動を再三繰り返してきたのが我が魔女人生だ。
私は何度もそれで後悔してきた。学習能力がまったく足りてない、という自覚はある。
そうやって数多の失敗を繰り返してきた私だが──今回の一件は最大級の失敗ではないだろうか。
「あのー……これは何なんですか……?」
「結婚式だろ」
「私、聞いてないですよ………?」
「言ってないからな」
王宮に着いた途端、私は殿下から引き離され、あれよあれよという間に真っ白で豪奢なドレスを着せられた。そして、謎のブーケを持たされ、王宮の礼拝堂に連れて来られたわけですが。
礼拝堂の祭壇の前には、なぜか正装した殿下が待っていた。キリッとした正装だと、輝かしい美貌が三割増しですね……!
鼻血が出そうだが、この白いドレスを汚したら、とか考えるだに恐ろしい。私への報償金ごときでは相殺できないだろう。
殿下を直視しないよう顔を逸らし──そこでさっきの問いである。
これは一体何なんだ、と。
そうして返ってきた答えに、私は唖然とするしかなかった。
待ってほしい。王太子の結婚式?
相手は私?
いや、まさかね。
「似合ってる、綺麗だ」
「ありがとうございます────?」
目を細めたアレス殿下に誉められ、つい礼を言う。
違う、そうじゃない。
「一応聞きますけど、誰と、誰の、結婚式ですか?」
「見てわかるだろ。オレとあんたに決まってる」
「…………魔女と結婚とか正気ですか」
「勿論。それに、何でもやると言ったのは、あんただ」
「いや言いましたけど!確かに言ったけどね……!?」
「後でちゃんと説明する。悪いが諦めてくれ」
酷い。鬼。悪魔。くそやろう。心の中でありとあらゆる罵詈雑言を並べまくる。
大体、一国の王子なのに国王や重鎮に諮る事もせず、魔女なんかとスピード婚なんかやっていいのか。ダメでしょう。
恨みがましく元弟子を見上げると、これ以上ないキラキラ王子スマイルが返って来た。
しかもちょっと嬉しそうなのは何でだ。またしてもドキッとしてしまったのが堪らなく悔しい。
ただならぬ空気を察したのか、神官が「始めてもよろしいですか?」と、おそるおそる殿下にお伺いを立てた。
それに殿下が頷き返す。
「構わん、始めてくれ」
「えー」
「あんたは静かにしてろ」
「…………では、これより、アレス・ルクス・ラズダル殿下と、"氷花の魔女"ローゼンヴェルデ・クロイライン嬢の結婚式を執り行います」
神官の声が、静謐な教会に吟うように響く。私と殿下と神官、たった三人の結婚式。
全然面白くない。
臍を曲げてふてくされていた私だが、式の真っ最中に、ふと視線を感じた。
伏せていた目を上げる。そしたら、天井付近の梁の上に、真っ白な鳩が止まっていた。
礼拝堂の屋根に巣を作っているのだろうか。
白い鳩は、私を見下ろして、小さく「くるっぽー」と鳴いた。しかしその後は大人しく式を見守っていた。
参列者、鳩一羽。
何とも味わい深い結婚式ですねえ……
全く釈然としないまま、私と殿下の簡素な結婚式はさっくりと幕を下ろしたのだった




